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真相 THE WORST


「………………俺、は?」


 二度三度と瞬きを繰り返し、ぼんやりとした視界が正常に戻っていく。

 脳に供給される酸素の量が増えるにつれ思考がはっきりし、自分が誰で、気絶する直前まで何をしていたのかを鮮明に思い出す。

 とすればすぐに目の前で行われている死闘に飛び込むべきであると彼、いやレオン・マクドウェルは考えるが、そんな自分の意見を否定。


「いや、まだだ」


 すぐには立ち上がらず、機が熟するのを待つことにした。

 

「治療終わった! 後はレオンさん次第!」

(助かった! 優はそのまま最前線から一歩退いたところで待機! んで、いつでも奴らを封印できる準備をしておいてくれ! その様子を見せつける事であいつらの意識を削ぐ!)

(オッケー! 怪我にせよコンディションにせよ! というかなんでも不味くなったらみんなアタシに言いなさい! 速攻で! 手助けしてあげる!)

(頼んだぞ優!)

(任せなさいって! 一目でヤバイとわかる封印術を用意して、アイツらの意識をこっちに向けてやる!)


 それを成し得た尾羽優であるが、声をあげた直後に積がそう指示。やや不満はあれど効果自体は十分にある提案であるため否定することはせず、掌に水属性粒子を集中。

 徐々に出来上がっていく封印術の質は超一流クラスのものであり、一目見た瞬間、修羅の仮面を被った存在の背後に控えていたイグドラシルが顔色を僅かに変える。


『こちら――――――――――』

「「!!!」」


 その場にいる四人の耳に通信機越しで見知った声が届いたのはそのタイミングであり、四人は念話を続け動き出す。


「動きが変わりましたね。何かいい案でも見つけたのですか?」


 その変化はイグドラシルにもわかるものであり、


「ですが、それに私が付き合う義理はありません」


 『あらゆる抵抗を許しはしない』

 『お前たちに残された道は死のみである』


 そんなことを思っている事が察知できる声を発した直後、彼女が動く。


 手にしている木の杖。彼女が神の座であることを示す神器、神杖『エマーレイラ』が黄緑色の光を放ち、彼女の立つ地面が隆起。

 かと思えば爆発したかのような衝撃と音が周囲に響き、溢れ出した木の根が蒼野らへと伸びていく。


「これは!」

「ギャン・ガイア以上の速度と密度! アンタ普通に戦うことが出来たんだな!」


 その威力に蒼野と積の口から感嘆の声が漏れ顔を歪める。


「………………来るぞ。構えろ」


 しかしである。二人がそのような声や表情をする理由は目の前にまで迫ったものが脅威である故ではない。これから先の展開を予知した故だ。


「………………チィッ!」

「ナイスゼオス! 助かった!」


 最上階で行われるこの戦いにおいて常に主導権を握っている修羅の仮面を被った存在。

 彼にとってイグドラシルの繰り出した木の根は邪魔者ではなく最良の援護であり、蒼野達にとっては動きを制限される厄介な木の根は、彼にとっては縦横無尽に動き回るための足場となり、瞬く間に蒼野の背後に回ると二本の剣を真横に一振り。

 蒼野の首が吹き飛ぶより早くゼオスの持つ神器『レクイエム』が割り込み攻撃を阻み、反撃の蹴りが突き刺さり吹き飛ばした。

 

「…………こっちは俺が時間を稼ぐ。他諸々は任せたぞ」

「ああ!」

「ここで一気に決めてやるさ!」


 木の根を数本突き破りながら修羅の仮面が吹き飛んだ方角はイグドラシルがいる方角とは別。つまりこれまで行く手を阻んでいた厄介な障害が消えたことを意味する。


 この千載一遇の好機を前に積が蒼野を残し突貫。これを阻止するよう修羅の仮面は木の根を登り始めるが、その行く手をゼオスが阻んだ。


「…………行かせん」


 静かに、断固たる決意を吐き出し待ち構えるゼオスへと迫る修羅の仮面。

 その攻撃は多岐にわたる。両手に持つ二本の剣による緩急のついた舞踏を連想させる猛攻に、所々で滑り込む足技。

 かと思えば嵐のような連撃が繰り出され、守りを固めるとそれを予知したように万物を砕く渾身の一撃が叩き込まれる。


「………………」


 その全てをゼオスは捌いた。所々に小さな切り傷を作りながらも、大きく後退する程度で捌き切った。

 ただこれはゼオスからしても意外な事で、しかし理由に関しては重い浮かんだ。


(………………俺はこいつを知っている?)


 はっきりとした事情や場所までは思い出せないが、ゼオスはこの男を知っていた。


 かつて僅かな時間であるが剣を交えた。


 そう確信を持てるのだが、肝心かなめの姿形や実際の記憶だけは靄に包まれたかのように思い出せず、そんな彼へと二本の剣は再び迫った。




「イグドラシル!」

「ここまで来ましたか積。さてと」

「っ!」

「あなた方のいう通りです。別に戦えないわけではないのですよ。私は」


 対する積とイグドラシルであるが、果敢に前へと進んでいた積の足は止まった。

 繰り出された杖の一突きが想定より遥かに鋭かったゆえ。というのもある。


「ナイスだ積! 原点回帰!」

「!」


 だがその真意は蒼野の持つ破滅の赤い光の射線を通すためであり、狙い通りに真っ赤な光が浸食。

 最上階に張り巡らされたいくつもの分厚い木の根を易々と破壊しながら前へと進み、天井や壁を破壊しながら空へと伸びた。


「照準が甘いですね。それでは私には届きません。そして――――時間切れです」

「………………ッ」

「ゼオス!?」


 だがイグドラシルに当たることはなく、このタイミングでゼオスによる足止めを突破した修羅の仮面が彼女と合流。


「いや全部狙い通りだよ」


 する直前、必勝の笑みが積の顔面に浮かび、続いて変化が訪れる。


「っっっっっっ!!」

「ムゥ!?」


 音一つ立てることなく、イグドラシルの頭部と胸部が吹き飛ぶ。

 その原因たる弾丸。数千キロ離れた位置から行われた康太による狙撃はもう一方の障害にも降り注ぐがこちらは防がれ、しかしその態勢を大きく崩し蒼野とゼオスが疾走。


「く、崩せ!?」

「…………きれん!」


 優が封印術を叩き込むための隙を狙う彼らは、しかし思うようにいかない。

 大きく態勢を崩した今でも、手数で勝っていようと、堅牢な要塞のような守りで目標は全てを凌ぐ。


「はぁ!」


 そしてこの瞬間、機を伺っていたレオン・マクドウェルが動き出す。

 真横から繰り出された渾身の一撃は仮面を裂き首を切り、修羅の仮面だったものの動きを一瞬であるが遅らせる。


 このタイミングを好機と見た蒼野とゼオスは動き出す――――――はずが止まる。

 その正体を目にしたゆえに。




「イグドラシル。お前………………」

「どうしたのですか積。不死の化け物なんて飽きるほど見てきたはずでしょう? それこそお隣にいる彼女とて、同じようなもののはずでは?」

「馬鹿な事を言うんじゃねぇ! あんたのそれは………………それは!!」


 一方の積と優であるが、彼らもまた目にするのだ。

 失った部位を瞬く間に修復す神の座イグドラシル。彼女の血と肉の奥に秘めた物体。体の修復を行っているものの正体。


 それがこの世界に未曽有の災害をもたらしている『黒い海』であることを。


 

 

 仮面を外れて正体を知った今、蒼野とゼオスは気づいた。

 いやようやく理解した。


 自分たちは彼の正体を思い出せないのではない。『知りたくなかった』のだと。


 なぜならそれは全ての答えであるゆえに。


 今のように狂っているわけではない。正常だったころの神の座イグドラシルが誰もが胸を痛める悪事に携わっていたという証拠であるゆえに。


「ゲゼルさん………………」


 千年前の戦争終了の立役者。


 現代における神教守護の要。


 そして――――あらゆる戦いの始まりとなった男。




 剣聖ゲゼル・グレアがそこにいた。





ここまでご閲覧いただきありがとうございます。

作者の宮田幸司です。


長々と引っ張ってきましたがついに四章後半戦、最終決戦のカードが提示できる段階に辿り着きました。


そうです。

最後の戦いはギルド『ウォーグレン』VS今という時代を作り上げた立役者二名。これにマクドウェル卿が混ざった形になります。


最後の最後、この物語の終わりに至る戦い。ぜひ最後までご覧ください


それではまた次回、ぜひごらんください!

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