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最後の壁 六頁目


 鉄閃らの見ている前でギルガリエの持つ二本の魔槍が光を帯びる。

 今度のそれは全身を包んでおり、対峙する戦士たちに強力な不快感を与えた。


「おいおいおいおい!」

「あの野郎の必殺については勿論知ってるが、あの変貌ぶりに関しちゃ未知の領域だな。筋肉お化けかよ!?」


 変化はそれだけで留まらない。大きく一歩踏み込むと同時にギルガリエという男を構成する全身の筋肉が急速膨張。今にもはちきれんばかりになった状態のまま彼は白い魔槍『イールバング』を持った右腕を大きく振りかぶり、


「――――――来やがる!」


 誰かが邪魔をするより早く投げるが、それはロケットの発射を迎え撃つ者達に連想させ、けれどその威力はそんなものを遥かに超えていた。


「俺が前に立つ! テメェ等は後ろに下がってろ!」


 ここで即座に皆の盾となったのはエルドラで、あらゆる攻撃の威力を削ぐ自身の肉体に力を込め、真正面から受ける姿勢を見せる。


「む、おぉぉ!?」


 生前は無所属最強の戦士であったギルガリエが放つ奥義『聖邪螺旋貫』は二つの槍の神器の合わせ技である。


 白の魔槍『イールバング』の能力『空間屈折』により、まっすぐ飛ぶはずの槍の軌道は幾重にも折れ曲がり相手の防御を掻い潜り直撃し、その後に放たれる黒い魔槍『カオクロフィー』は『空間削除』を駆使する事で空気を中心とした諸々の抵抗を抹消。速度を無限に上昇させ、白い魔槍が捉えた敵対者の肉体を射抜く。


「お、おぉぉぉぉぉぉぉ! なん、だ! この威力はぁ!!?」

「止めきれてねぇぞ! となりゃあれは!」


 最も厄介なことはこの奥義の対象が一人に限らない事だ。軌道を自由自在に変化させる白い魔槍は一人を捉えると奥へと突き進み、更なる軌道の変化により新たな得物に照準を合わせるのだ。

 今回に至ってもその性能は発揮され、止めきれないエルドラを押しながらその奥にいるナラストへと狙いを定め、エルドラの背に彼を張り付けると更に壊鬼、鉄閃へと繋いでいく。

 最後に狙うのは自分の同族を捉えているアイリーン・プリンセスであったのだが、空間屈折の能力が壊鬼の持つ神器の効果で発動できないため断念。


「させないわ!」


 そうして唯一難を逃れたアイリーンが光のナイフを無数に注ぎ決定打の阻止を狙うが――――無意味だ。

 生前の彼ならばいざ知らず、死体と化したギルガリエはどれほどの損傷を受けても動くことを辞めることはなく、


「――――――!」


 声にならない叫びを喉奥から発しながら、槍使いというカテゴリーにおいて究極の一投は放たれる。

 そしてそれは強固な肉体を持つエルドラの体を射抜き、彼を一撃で動けなくするに至った。


「白き槍は捻じれ狂い――――黒き槍は万物万象を貫き殺す」

「え!?」


 この技の真に恐ろしい点はその連射性にある。

 肉体と技術の結晶であるこの技は、一度使ったかと思えば二度三度と撃ち出すことが可能なのだ。

 しかも死人である今ならば体力の消耗や肉体の損傷。さらには痛覚に関してまで気にする必要はなく、この場に援軍としてやって仮面の狂軍らの中に体を埋めたギルガリエは、その切っ先をアイリーンへと向けていた。


「また来るぞ! 死ぬ気で避けろ聖女様!」


 直後に打ち出される第二打を前に、エルドラの体に隠れていたため直撃を避けた壊鬼が叫ぶ。

 するとそんなことなど聞くまでもないとでも言いたげな様子でアイリーンは移動を始め、彼女は他の面々を抑えるのを控え、回避に移行。


「しまっ!?」


 だがそれがいけなかった。

 仮面の狂軍らは意志を持たない軍隊であるが連携が取れないわけではない。ゆえに攻撃の手が止んだかと思えば回避行動に移行しているアイリーンの体にまとわりつき動きを阻害し、そんな彼女を斜め上から白い槍が射抜いた。


「ちっくしょうが!」


 無論それだけで白い魔槍の進軍が止まるわけもなく、次いで疲労と負傷により動けなくなっていたナラストと壊鬼を捕縛。鉄閃に関しては壊鬼の持つ神器の効果で『空間屈折』を行えなくなったため諦め、黒い魔槍を投擲。


「「ッッッッ!!」」


 三人の体を見事に貫いた証拠として切っ先を赤くして、二本の魔槍は彼の手元に帰還。


「おぉぉぉぉぉぉらぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 と同時に原口善の如き雄たけびを上げ、エルドラの体に隠れていた鉄閃が前に出る。

 三度目を打ち出すよりも早く、再生力を使いきらす算段で決死の猛攻を仕掛けにかかる。


「こんの…………邪魔するな馬鹿ども!!」


 その行く手を阻むのはつい先ほどギルガリエの援護をした仮面の狂軍の面々だ。

 アイリーンの呪縛から解放された彼らは意気揚々とした様子で鉄閃へと飛び掛かり、つい先ほどまでと比べ遥かに回復力が落ちたギルガリエがもう一度打ち出すだけの時間を稼ぐ。


「そうね。やっぱり彼らは邪魔よね」

「お前………………」

「なら、ここは私に任せなさい。死守して見せるわ!」


 とはいえだ、相手の邪魔をするという事に関してならば彼女、すなわちアイリーン・プリンセスの右に出る物は、たとえ複数人と比較しても、たとえ死にかけであってもいるはずがなく、口から泥のような血を流し、抉られたヘソから脇腹の辺りの回復をしながら、再び有象無象の行く手を阻む。


「覚悟しろよコノヤロウ! 封印なんて生半可な終わりじゃねぇ! これが! アンタが望んだ!」


 これにより一対一の状況は出来上がり、この戦いを決する覚悟で鉄閃は攻める。攻め立てる。


「死に方だぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」


 その動きの速度は、鋭さは、これまでよりも更に増している。彼がこの土壇場で『扉』を開いたゆえに。

 つい先ほどよりもより高次元な存在へと至る切符を手に入れ、急激な成長を今この瞬間に行い続けているゆえに。


 繰り出す薙ぎが、突きが、他様々な動作が時を経るごとに増していく。

 神器でないゆえに正面からぶつかれば叩き折られてしまうが、その度に新しい槍を作り攻撃を続けていく。


「もう………………少し!」


 彼の視界に映るギルガリエの回復速度は落ちていき、繰り出す攻撃にも目と体は完璧についていけている。

 飛び散る血潮が、汗が、熱した鉄閃の体を冷まし、無理な深追いをせず確実な攻撃と回避を繰り返す。


「あと! 少し!」


 鉄の槍と木の槍が体を射抜き、水と氷と光の槍が動きを阻害する。

 闇の槍が視界を奪い照準を外し、雷と炎の槍が地面に突き刺さり雷と炎の柱がギルガリエを包み込む。


「土の咆哮!」


 土の槍で地面を叩けば地面が隆起しギルガリエの腹部を貫く円錐を生み出し、


「桃の洗礼!」


 全てを終わらせるべく、風属性を固めた風属性の槍で首を切る。


「がぁ!?」


 その未来が、土壇場で崩れる。

 アイリーンの足止めを抜けきった個体が鉄閃を横合いから殴り飛ばしたのだ。

 そしてそのようにして時間ができればギルガリエが自身の腹を貫く土の拘束から抜けるのは容易く、


「この!」

「白き槍は捻じれ狂い――――黒き槍は万物万象を貫き殺す」


 急いで援護に向かったアイリーンの攻撃の嵐を受けながらも跳躍し、この場にいる誰よりも高高度で自身の筋肉に力を入れ膨張。

 白い魔槍は強烈な白い光に包まれ撃ち出され、アイリーンの片足を奪いながら目標である鉄閃の胴体へ。続く黒い魔槍は狙い通りに鉄閃を射抜き、致死量に至る紅い液体が大地を濡らした。


「まだ! まだ………………だ!」


 もはや視界も霞む鉄閃が返す刀で繰り出した鋼の槍の投擲は着地した若き姿の師を捉え、けれどなんの足止めにもならぬとばかりに彼は駆動。

 その両手には再び二本の神器が掴まれ、同じ言葉を口ずさむ。


「――――――」


 はずが、止まる。

 先ほど鉄閃の槍が貫いた右肩から大量の黒い煙を漏らしながら、体の至る所に罅を刻みながら止まる。


「………………そうか。よく頑張ったな馬鹿弟子」


 その果てに、男は慈愛の籠った声でそう呟いた。




「ちょっと待って! これって!」

「おいおいマジか。いや………………当然と言えば当然か」


 一方の黒海研究所ではアイビス・フォーカスとシュバルツ・シャークスの二人が声をあげた。


 アイビス・フォーカスは被験者リストに書かれた最後の名前。

 シュバルツ・シャークスは下に降りた結果見つけた一際大きな培養槽に書かれた名前。


 別々の場所にいながら奇しくも同じものを見つめ唖然とした。



ここまでご閲覧いただきありがとうございます。

作者の宮田幸司です。


VSギルガリエはついに終わりへ。後は彼の独白だけとなりました。

そして戦場はついに『神の居城』最上階へ!

少年少女最後の戦いが始まります!


それではまた次回、ぜひごらんください!

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