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最後の壁 一頁目


 積の見たところ優に治療してもらっているレオンの傷はかなり深く、目を覚ますように追加の術式を組み込んでいるようであるが望む結果を叩き出す様子は未だない。つまりかなり激しい戦いが繰り広げられた結果が今であり、即座の戦闘復帰は不可能。回復を終わらせるのにはさほど時間がかからないであろうが、復帰には少なくとも数分はかかると見積もった。

 続けて積が目にしたのは最前線で未だ戦いを繰り広げている蒼野と積で、こちらの戦況もあまり芳しくないと言わざる得ない。

 一目で見事と言える連携を行ってはいるが、般若の仮面を被った男の繰り出す斬撃が全てを上回っている。


 速度も。膂力も。技術も。


 蒼野は当然のことゼオスさえ完封しており、イグドラシルはその後ろで何の不安も抱いていない穏やかな顔で戦いを眺めている。


「………………」


 ここで積が行った行動は戦いを繰り広げる三者の無視だ。

 この戦いの目的がイグドラシルの目的を阻止する事である以上、わざわざ厄介な相手に構う必要はなく、彼女を仕留める事でこの戦いを終わらせようと考えたのだ。


「無駄ですよ。彼の剣からは逃れられない」


 そんな積の思惑を見通し神の座イグドラシルは嗤う。次いでその意味を積にわからせる。


「うぉ!?」

「こっちが必死に攻め込んでるってのに、まだ積に手出しできる余裕が残ってるのかよ!」

「………………先ほどの奴とは異なるタイプだが、目の前のこいつも間違いなく超一流。『超越者』クラスの上澄みだな」


 蒼野とゼオスは念話でこの意図を知らされたため手数を増やし彼を先に進めるよう画策するが思うように攻めきれず、目の前の怪物は二人の繰り出す斬撃を手にした二本の刀で弾くと、その一瞬の間に一振り。

 描いた軌跡に沿うように斬撃は床を砕きながら積へと接近。即座に繰り出した鋼鉄の盾をあっさりと切り捨てると、回避に移っていた積の髪の毛の先端部を切り裂いた。


「っ!」

 

 あと一歩遅れていれば命はなかった。

 その事実に冷や汗を掻き、二人の援護をしようと即座に反撃を繰り出すが全て軽々と捌かれる。

 そうして手数を使わせている間に前に出ようとすると必ず斬撃が飛来し、今度は積の体に正確に届く。


(こいつは………………何者なんだ?)


 それをガマバトラが作った籠手により防ぎながら積が考えるのは当然の疑問。

 目の前の般若の仮面をつけた存在の正体であるが、実の言えば積は過去の偉人に関してはイグドラシルを除けば一番知っている自信があった。

 これは彼の目指す夢の一つが『歴史上の偉大な剣士を知る』などと言う酔狂なものであったためで、この目的を達成するため、幼少期の頃に彼は一時期足繁く図書館に通っていた。

 ちなみにこの事実に関しては追及されると面倒だったため蒼野やゼオスには語っていないのだが、兎にも角にも彼は本に載せられるような歴史上の有名な剣士についてはかなり詳しかったのだ。


(二刀流でレオンさんを凌げる奴なんてほとんどいないし、シュバルツさんと戦えるゼオスと蒼野のコンビネーションを狂ったままで捌くなんて不可能に近いぞ。どうなってんだ)

 

 だからこそ言い切れるのは、レオンを超える二刀流の剣士などほとんど存在しないという事実。

 基本的に戦士の質と言うのは時を経るごとに増していくもので、現代の超一流はかつての超一流を凌駕するのが基本だ。

 無論ガーディアなどの例外も存在するが、そんなのは極めて少数だ。

 なので積はこうして戦いながら敵の正体を探るのだが、答えは一向に見つからない。


「………………なんだ。この感覚は」


 しかしである。積は同時に奇妙な感覚を味わっていた。

 こうして蒼野とゼオスが対峙する謎の存在。彼が繰り出す技の数々、そして動きに――――見覚えがあった。

 自分は彼を知っているという確信があったのだ。




「ここが――――黒海研究所か」 


 一方のシュバルツはといえば友アデットの遺言に従い、神の居城からしばらく離れた位置にある細長の塔。かつてミレニアムとの最終決戦が行われたその場所に足を踏み入れていた。


「この状況でわざわざ門番が設置してあるっていう事は、重要拠点であると判断してもよさそうだな!」


 とここで彼を出迎えたのは光沢のある真っ黒な体をした頭のない怪物達で、襲い掛かるそれらをシュバルツは手にした神器の一振りで一蹴。続けざまに襲い掛かってくる彼らの爪や砲撃。いやあらゆる攻撃を無限の斬撃により払い除け、発射口となってる存在らを潰していく。


「血の一滴も出ないが生き物のような動きを見せる。その上で鉱石に似た感触をしているとなると、気色の悪い見た目をしたロボットみたいなものなのか。こいつらは」


 既に体力面ならばアデットと戦った時の分を回復したシュバルツは息一つ乱すことなく、襲い掛かる嵐の猛攻を平然とした様子で捌きながら考察。ただそれは長くは続かなかった。


「!」


 空から降り注いだ攻撃の嵐。それまでとは質と量が大きく異なるそれが、シュバルツの余裕を根こそぎ奪い始めたのだ。

 となれば彼も本腰を入れる必要があり、自身に群がる大量の雑魚を沈めるため大剣を一振り。これにより真っ黒な体をした無数の個体は消え去り、その奥に控える個体に目を向け彼は確認するのだ。


「………………アイビス・フォーカスか!」

「あ、あら。うじゃうじゃ集まってるから何かいるとは思ったんだけど貴方だったのね。攻撃が当たってなくてホントによかったわ」

「いや当たる軌道だったよ。全部弾いたからよかったが、せめて誰がいるかくらい確認をしてほしいな」

「ごめんなさいね。あたしは気を読むのとか苦手だからまず全部ぶっ飛ばそうかと…………まぁなんにせよ無事でよかったわ! 一緒に先に進みましょ!」

「………………どうしてこう各勢力のトップ層っていうのは大雑把な奴が多いんだ。我が友にしてもそうなんだがね、もう少し敵味方の識別に意識を向けてほしいよ」


 そこにいたのはアルからの通信を聞き急いで黒海研究所まで移動したアイビス・フォーカスで、地上へと降下しながら謝罪。


「怪我しなかったんでしょ。ならいいじゃない」

「私だったからよかったものの、下手したら味方が死にかけてたんだが………………まあいい。この場所の探索をしたいんだが君は何か知ってるかね?」

「まぁ他人よりは。けどここに関してはイグちゃんは私を含めてほとんどの人に何も教えてなかったのよね。知ってるとしたら三賢人の一人メヴィアスだけど………………」

「たしか彼は死んでしまったんだったね。なんというか………………ことこの状況で有力な容疑者が一人増える事になるとはな」


 お互いの情報交換をするが得た物は芳しくなく、そうこうしている内に二人が戦いを行った事で開けた穴や斬撃の跡から沁み込むように黒い液体が溢れ出し個体へと変貌。顔のない怪物たちが威嚇するようなそぶりを見せる。


「でもメインコンピューターの居場所くらいはわかるわ。だから第一目的地はそこかしらね」

「私はこいつらが下からどんどん現れているのが気になるから下に行ってみよう。もしかしたら発生源を叩き壊せるかもしれないからな」

「なら二手に別れましょ。そっちの方が効率がいいわ」


 とはいえこの二人が彼ら程度に意識を割くこともなく、両者の間で今後の方針は決定。

 アイビス・フォーカスはメインコンピューターのある上に。シュバルツは地下へと向かって動き出した。


「――――――――!!」


 そしてそこからしばらく離れた位置に新たなる参戦者。

 鉄閃を退けながら仮面の狂軍を率いてきたギルガリエの姿があった。

ここまでご閲覧いただきありがとうございます。

作者の宮田幸司です。


両サイドでの物語が今回から本格的に開始。今回は平等に進みましたが次回以降はちょっと偏る気もします。

さてそんな終盤戦ですが最初の問題は今回のタイトル通り。

『彼らの前に立ち塞がる存在は一体誰だ?』というものです。

勘のいい方やここまでしっかりと読んできてくださった方ならすぐにわかる事かもしれませんが、もうしばしの間おつきあいいただければと思います。


それではまた次回、ぜひご覧ください!

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