クライマックスはすぐそこに
「………………めちゃくちゃデカい揺れだな。俺が寝てる間に階層を超える規模の大きな戦いでも始まったか?」
ガーディア・ガルフとゴットエンド・フォーカスによる熾烈な死闘が始まって数分後、彼らは異空間へと戦場を移すことになるのだが、この前後で色々な事が起きる。
その始まりは戦いの余波により康太が目を覚ました事に始まり、彼はすぐさま体中の傷をノアが置いていった治療薬で修復。自分が寝ている間に起きた事に関しては詳しくわからなかったが、少なくとも上にあがるのが最優先事項であると考え、周囲の警戒をしながら足を動かし始める。
『この連絡は全世界にいる『超越者』クラスの者達と、それに並ぶ力を持つ『万夫不当』に流している! 忙しい状況なのは重々承知しているが世界の明日を握るものになるはずだ。耳を向けて欲しい!』
「アルさん?」
のだが、すぐに止まる。耳に付けている通信機から急を要する事が一目でわかる知人の声が聞こえてきたゆえに。
『今現在の世界の状況は既に諸君は知っているはずだが、この状況を解決する糸口が見えてきた。その要素は二つあるわけだが、一つは既に対応済みだ。なので諸君にはもう一方に関してお願いしたいと私を筆頭とした科学者一同は考えている!』
続けて語られるのはこの騒ぎにおける重要施設となっているであろう二つの場所に関して。そのうちの一つである結界維持装置の破壊に関しては、近隣住民を助けながらウェルダが取り掛かっていることを伝え、その上で彼はもう一つの施設。シュバルツが語った黒海研究所へと向かってほしいことを伝えた。
『現状伝えられる情報は以上だが、何かわかったことがあればすぐに連絡する。また皆の意見を聞けるように回線は開いたままにしておくので、質問は勿論の事、他にも連絡があれば気軽にしてくれ!』
『アイビス・フォーカス了解! すぐに黒海研究所に向かうわ!』
『アイビス・フォーカスか! 助かる!』
それからされた説明を受けすぐに動き出したのはアイビス・フォーカスだ。
彼女は積に言われた通り世界中の人々を助けていたのだが、全ての原因が黒海研究所にある可能性が高いと判断すると、自動迎撃のシステムを世界各地に構築s多上で黒海研究所へ移動。彼女がそちらに向かい始めた事を告げたのをきっかけに他の者らも返事を返す。
(聞いた感じだとアイビスさんを筆頭に余裕がある竜人族や壊鬼の姉さんを中心とした鬼人族が向かう感じか。オレはどうするべきだ?)
康太はと言えば自分がどこに身を置けば状況を劇的に好転させることが出来るかについて顎に手を置きながら考え、
「………………しゃあねぇ。ちと面倒だがそうするべきだな。これに関してはオレにしかできないだろうしな!」
蒼野や優。ゼオスに積。それに恋人であるアビスの顔を思い浮かべ、少々逡巡した後に神の居城から飛び出る道を選んだ。
「お二人共聞いてください! どうやら仮面の野郎共に黒い海から溢れ出た奴らの一部が、黒海研究所に向かっているようです!」
「なるほどなるほど。とするならシュバルツ・シャークスの進言は的外れなわけでもなさそうだなアル」
「そうだな。それが分かっただけでも一安心だよジグマ。敵戦力に目立った影や並外れた強者はいるか!」
こうして戦力が続々と黒海研究所へと向かっていくと、それに対抗するように抵抗戦力も向かっていき、この様子からこの作戦が相手側にとって嫌なものであることを科学者一同は把握。ひとまず無駄な事にはならないと知ると胸を撫で下ろし、まとめ役であるアルが次いでそう質問。
「気になる戦力は………………います! ギルガリエ! 無所属最強のまま没したギルガリエが、弟子であった『十怪』の鉄閃を跳ね除けながら黒海研究所へと向かっています!」
「…………流石に止めきれんか。その辺りは既に向かってるシュバルツ・シャークスかアイビス・フォーカスに何とかしてもらうべきだろうな。エヴァ・フォーネスとアイリーン・プリンセスの様子はどうだ。彼女らが向かってくれれば百人力、いや一億人力だ!」
『私とあのクソアマの話をしたな! 単刀直入に言うと両方は無理だ!』
「………………両方?」
『そうだ! 一部が黒海研究所とやらに向かった影響だろうな! 片方だけなら向かえる! というかアイリーンのクソアマがそっちに向かうぞ!』
話を先に進めると神の居城の前で戦っているエヴァが怒声で答え、それを聞き近くにいたアイリーンが目を丸くした。
「あらいいの? 止めるだけなら私の専売特許よ?」
「数の暴力に対して強いのは私も同じだ。しかも今は夜! すなわち私の時間だ! 孤立無援なら好き勝手暴れられるから、そっちの方が都合がいいんだよ!」
「あぁそういう。ならまぁ、遠慮なくいかせてもらうわ」
ただ理由を聞くと何とも表現しにくい笑みを浮かべながらその場から退去。
その姿を見送りエヴァは笑う。優雅に。魔王のような風格を帯びながら。
「さて、これで私が本気を出すために邪魔だった枷は消えた――――お前ら塵一つ残ると思うなよ」
こうして孤独な戦いは始まる。
されど発揮される力の質は向上し、対峙する仮面の狂軍に絶望を叩き込む。
「よしいないな! ならこのまま上だ!」
そしてアイビス・フォーカスを戦力として外に出し、自身は上へと登っていった積はと言えば五階へと到達。異空間で戦い始めたため最強二人の姿は既になく、足を止めることなくさらに上へ。
ついに最上階へと到達し目にするのだ。
「わかっちゃいたが………………最後の最後まで修羅場だなオイ!」
敗北し意識を失ったレオン・マクドウェルを回復するため離脱している優の姿。
そんな彼女の前に立ち剣を構える蒼野とゼオスの様子。
「おや、あなたまで来たんですか積。これは予想外ですね」
そしてそんな彼らを優雅な笑みで迎え入れる神の座イグドラシルと、
「―――――――――――――」
その前に立つ般若の仮面を顔に装着した最後の関門の姿を。
ここまでご閲覧いただきありがとうございます。
作者の宮田幸司です。
色々とあった四章後編は終盤へ。戦いに参加し未だ残っている面々は己が向かうべき二つの戦場へと向かいます。
という事でここからは二ヶ所同時進行!
終局へと向け進んでいきます!
それではまた次回、ぜひごらんください!




