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OVER THE TOP


 『果て越え』の座を冠するにふさわしい二人の最強。

 彼らの戦いが大詰めを迎える。


 手探りの小競り合いから始まり、偽りとはいえ宇宙を舞台とした壮大な戦いを経て辿り着いた最終局面。

 その形は実に単純。誰もが経験したことのある接近戦であった。


「どうしたんだいガーディア・ガルフ!」 


 ただその激しさはやはり生半可な物ではなく、戦いの趨勢も大多数が考えるものとは違うものになっていた。


「得意の接近戦だというのに逃げてばかりじゃないか!」


 五階から四階へと続く床を砕き、戦っていたアイビス・フォーカスと積が消え去った空間へと落下する中、ゴットエンド・フォーカスが声をあげる。

 それはどちらの方がこの最後の衝突を有利に進めているのかを明確に示していた。


「僕の得意分野は中・長距離での戦闘だ。そんな僕にここまで押されて恥ずかしくはないのかい!?」


 ゴットエンド・フォーカスが生み出した二つの黄金の掌の速度はガーディアの速度にさえ負けぬもので、その動きは実に精彩で、ゴットエンド・フォーカスの手足そのものと言っても過言ではなかった。


 これに彼を『果て越え』たら占める異常な幸運が合わさり、ガーディアは今、人生で始めて接近戦で攻めあぐねているという状況に陥っていた。


「そこだ! 見えているぞ!」

(やはりだ。今の彼は、私の動きが完璧に見えている)


 とはいえガーディアが一方的に攻められる原因は単純にゴットエンド・フォーカスの運がいいというだけでは片付けられないのは明白だ。


 なぜなら今、彼はガーディアを目で追えている。

 空中を蹴り迫る攻撃を躱したかと思えばもう一方の掌が迫っており、それも躱したと思えば無数の弾丸が目と鼻の先にある。

 それらさえ対処したかと思えば既に黄金の掌が襲い掛かってきており、着地や態勢を整えるために床や壁に足をつければ、その一瞬を『止まっている』と捉え様々な攻撃を繰り出すその判断は、幸運頼りの結果ではない。視線で追えている故の戦術的なものであった。


「………………ずいぶんと動きが洗練されているが師は誰だい?」


 ただそれにしても手慣れており、気になったガーディアがそう尋ねる。

 ゴットエンド・フォーカスがわざわざ得意距離以外で戦う事などふつうはないはずで、であれば普段は使わない近接戦闘術を彼に叩き込んだ師がいると思ったのだ。


 そしてその人物は、時折彼が振り抜く二本の十手が描く軌道から一人だけ考えられ、


「剣聖ゲゼル・グレア。千年前貴方を仕留めた男が、この僕に戦い方を教えた師匠だ」 

「そうか………………………………………………………………そうか」


 予想通りの名前を告げられ、虚空を自由自在に掛けながらガーディアが思いを馳せる。

 もはや二度と会う事ができない、千年前にこの世界の未来を託した若者。

 彼の名残りを感じさせる動きの数々に思わず胸が熱くなり頬が緩む。


「この状況で笑えるか。大した心臓をしている!」

「そうだな。今のは迂闊だった。認めよう」

「その素直さが癪に障る!」


 とはいえゴットエンド・フォーカスの言うように悠長にしている余裕はない。

 多くの要素が積み重なった結果、この土壇場で思わぬ苦戦を強いられており、時が経つにつれゴットエンド・フォーカスの意気は増し動きが洗練され、両者の間に広がる差が広がっていく。


 つまり間違いなく絶望的な状況で、


「ッ!?」

「………………なんだと?」


 そのタイミングで変化が起こる。これまで優位に戦い続けていたゴットエンド・フォーカスが、ガーディアの攻撃を一切受けていないにも関わらず吐血。一瞬ではあるが攻撃の手が緩み、その隙を逃さずに撃ち込んだガーディアの蹴りが彼の二の腕を捉え、二人は数メートルほど距離を離しながら着地。

 ゴットエンド・フォーカスは粉々に砕けた腕の骨を再生させながら苛立たしげな表情を浮かべる。


「脆い体だ。こんなことならゲゼルさんやイグドラシルの言う通り、もっと体を鍛えておくべきだったよ!」

「君は………………私と同じ時間を歩めるように」

「………………気づくなよ」


 直後、二人の間に静寂の時が訪れるのだが、真っ赤に充血した目と鼻から流れる鼻血を目にしてガーディアは理解する。


 この戦いは見た目ほどゴットエンド・フォーカス有利ではないのだ。

 それは彼がガーディアの動きを完璧に把握するために目や脳の働きを強化する術技や能力を大量に使っているからで、その反動に耐え切れなくなった脳や体が悲鳴を上げているのであり、ここまでわかれば対処法もすぐに浮かぶ。

 待っているだけで自滅するのなら、攻め気を無くし回避に徹すれば、いともたやすく勝てるのだ。


「安心したまえ。ここまで素晴らしい戦いの結末を、つまらないものにすることは望んじゃいない」

「………………なんだと?」

「時間切れなんてつまらない勝ち方はいない。君を徹底的に叩き潰すと言っているんだ」


 だがガーディアはその道を選ばない。

 困難な道であるとわかっていてなお、この選択こそがここまで最高の戦いを繰り広げた相手に対する礼儀であると確信を持ち、指をさしながら断言。


「………………これも僕の幸運が招いた奇跡か? それとも貴様が阿呆なだけかい?」

「………………………」

「どちらにせよ、僕にとってありがたいことには変わりない………………なんにせよだ、どちらかが果てるその瞬間まで、踊り続けようじゃないか!」


 そしてそれに応じるようにゴットエンド・フォーカスが声をあげる。

 鼻血だけではない。血涙がメガネの奥の瞳から垂れだす事さえ意識の外に置き、

 二人は再び動き出すのだ。

 目の前にいる存在の希望を潰えさせるため。望む結果を得るために。


「「――――――」」


 面白いのはその『目的』が当初のものから変わっているという事。


 ゴットエンド・フォーカスは神の座イグドラシルを守るため、早々に決着をつけたがっていた。

 対するガーディア・ガルフは時間さえ稼げれば当初の目的は達成できるはずであった。


 だが今、極限状態に陥った二人の頭にそんな考えは存在しない。


 目の前にいる『同格の敵』。これを仕留める事に全神経全思考全能力を注いでいく。


 一歩進む間に千、万、いや億の戦術を組み最適解を選んで繰り出し、これにより生じた衝撃波が舞い散らせた瓦礫や砂埃を利用できないかと頭を回す。

 目の前にいる相手の手足や視線の動きから相手の動きを読みきり、その読まれた思考を逆手に寄るように更なる攻撃を繰り出す。

 変幻自在の神器と先端部に当てれば万物万象を吸い取れる神器が衝突を繰り返し、炎を中心とした十属性が衝突。続いて金と銀の因果律がぶつかり、掻き消え、その奥にいるガーディアが距離を詰め、征く手を阻むように黄金の掌が躍り出す。


「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

「っ!」


 その果てに両者は再び距離を詰め、雄たけびと血を吐き出しながら繰り出された十手による叩きつけが目標を完璧に捉え勢いよく地面へ。態勢を立て直す暇も与えず黄金の掌を動かし、目標を挽肉に変えるため振り下ろされる。


「………………っ」

「結果を変えたか!」


 が、上手く決まらない。

 叩きつけられた瞬間ガーディアは因果律『絶対消滅』を発動。自身が叩きつけられたことで『軋んだ地面』を、『粉々に砕けた地面』という結果に書き換え、既に康太の姿がなくなっている三階へと自主的に落下。

 迫る黄金の掌を超える速度で後退して躱すと真上へと駆け上り、自身と同じ時間を無理やり手に入れたゴットエンド・フォーカスとの近接戦を繰り広げる。


「無駄、だ!」


 その果てに黄金の掌による平手を叩き込んだのはいつ倒れてもおかしくないゴットエンド・フォーカスで、彼の顔には会心の笑みが浮かび、


「いやそうでもない」


 直後に凍る。

 たったの一撃で瀕死の重傷を負ったガーディアが告げた言葉の意味。それを知ったゆえに。


「な、んだと………………!?」


 彼をここまで支え続けてきた神器『戒の十手』。そのうちの一本の先端部分が切り落とされたゆえに。


ここまでご閲覧いただきありがとうございます。

作者の宮田幸司です。


既に語りましたが長く続いた二人の戦いもいよいよ大詰め。

ゴットエンド・フォーカスは他の誰もができなかったあらゆる強化を施す事でガーディアの視座を手に入れます。

なお、今回四階三階に降りた際に積と康太がいませんでしたが、この二人に関しては二人の『果て越え』が異空間で戦っていた空白の時間の間に各々のやることを見つけて進みました。

その辺りに関してはまた次回以降で。


兎にも角にも戦いはついに終わりへ。

次回ないし次々回にはこの戦いも終わるでしょう。


それではまた次回、ぜひごらんください!

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