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LAST DANCE


 今すぐに出るべきだ 

 いや出るべきじゃない。もう少し状況を見守ろう


 神の居城第五階層の空間に亀裂が奔った瞬間、どこかで声があがった。

 それはこの戦いを最も深い位置から覗いている者達の会話であり、彼らは他の誰もいないその空間で、自分たちの前に立ち塞がる最大の障害たちの様子を伺っていた。


 そんな彼らは二つの意見に分かれていた。


 一つは『ここで行動を起こすべきだ』と口にする者ら。

 もう一つは逆に『静観を貫き事の成り行きを見守ろう』と口にする者らだ。


 彼らのそのような会話はしばし続き、結果的に選んだ道は現状維持である静観であった。


 これがどのような結果になるのかを知る者は誰もおらず、しかしこの選択が後に大きな影響を与える事になる。



「これは個人的な意見なのだがね。もし君が私と同じ位相に座しているというのなら、私の事を『果て越え』とだけは呼んじゃいけないと思うんだ」


 神の居城第五階層に奔った亀裂が粉々に砕けたのは白黒の世界が形成されたおよそ十五分後の事であり、二人の最強が正しい世界へと帰還。強固な床全体に数多の亀裂が奔り、立ち昇った砂埃が止んだ後、ガーディア・ガルフが語り出す。


「何故なら『果て越え』という呼び名は、大抵は忌み名として用いられるからだ」

「なん、だとぉ?」

「恐れる時。対峙し敗北した時。無念の撤退を行う時。もしくはかしこまったり敬う時。他にも様々な状況で人々は私を『果て越え』と呼んできたよ。そしてそのどれもが、私を『上』と認識しての言葉だった」

「!」


 自身の真正面で腹を抱えて膝をつくゴットエンド・フォーカスに対し持論を展開し続け、その結末がどこに向かっているのかを察知した瞬間、聞いていた側の男は痛みとは別の理由で顔を歪めた。


「つまりつい先ほどのあの瞬間、君は私を格上と認めた。知らずのうちに敗北を認めたんだ」


 指をさしながらガーディアが告げた言葉はまさしくこの戦いの終止符を打つためのもので、ゴットエンド・フォーカスは反論できず押し黙り、


「ここで負ければ…………貴様は上にあがるだろう?」


 次に口を開いたのはそれから数秒経たところで、彼が発した言葉は先ほどの問いの答えになってはいなかった。


「あぁいいよ答えなくて。そのくらいのことは想像がつく」


 加えて言えば今しがた口にした通りガーディアの答えはわかりきったもので、ゆえに何か言われるよりも早く言葉を阻むと彼は立ち上がり、傷の修復を済ますと未だ闘気のある様子を見せつける。


「僕はね、それが看過できないんだ。あの人に害をもたらすお前たちが許せないんだ。だから………………まだ勝負は終わってないんだよ!」


 その身に纏う闘気に陰りはない。いや守るべき存在が現実世界に戻り近づいたことで、不退転の覚悟により増していく。


「………………………………格付けは自ら行ったというのにかい?」

「それとて貴様の勝手な決めつけだ! なにせ僕には! まだ戦う手段がある!」


 言いながらゴットエンド・フォーカスが掌を覆うように展開したもの。

 それは光り輝く球体と先の見えない黒で形成された球体であるのだが、それを見た瞬間にガーディアは息を呑む。今しがた自分がたどり着いた答えを信じられない者と思う。


「君は間違いなく傑物だ。史上最強の名を譲ることを考えてもいいほどに」


 繰り出された二つの物体の正体は極致である。

 光と闇。真っ向から相反する二つの属性を神の子ゴットエンド・フォーカスは信じられない事に会得しているのだ。


「どうやら君は、まだ私を楽しませてくれるらしい」


 この光景を前にすれば勝負を決めた気でいたガーディアも流石に昂り、口角が吊り上がる。直立不動の姿勢から僅かに腰を落とし、周辺に散らばっていた邪魔な小石を掃っていく。


「お褒めにあずかり光栄だよ。けれどこれはまだ未完成なんだ」


 だがまだだ。まだなのだ。ゴットエンド・フォーカスの秘策はここからさらに進化する。彼は二つの極致を近づけたかと思えば一つに無理やりまとめるという無謀な試みを敢行。

 強烈なエネルギーの塊を一つにまとめる。しかも対極に位置する二つの属性を。


 そんな事は誰が聞いても無理だというだろう。上手くいくわけがないと断言する。


「はぁぁぁぁぁ!!」


 しかし全人類他の誰もが不可能であるとしても、ゴットエンド・フォーカスだけは成し遂げられる。

 多彩な手札に持ち前の幸運。それに大量の粒子を惜しみなく投入し、灰の部分が一切存在しない、白と黒が綺麗にまざった真球を形成。そこに黄金の輝き。すなわち因果律『絶対勝利』を注ぎ、


「金剛神――――――」


 その果てに姿を変えていく。


「………………これは」


 ゴットエンド・フォーカスが作り出した最後の切り札。それは自慢の遠距離戦では適わぬ存在。すなわちガーディア・ガルフのような怪物を想定して作った対抗策で、


「―――――双掌!」


 彼らの場に現れたのは、人の身を包めるほどの大きさを備えた二つの黄金の掌。

 それが宙を漂っている姿はやや滑稽で、思ってもみなかった物体の出現を前にしてさしものガーディアも呆気にとられ、


「っっっっ!?」


 その瞬間の事であった。彼の全身に味わったことのない衝撃が迸り、背後の壁に当たったと同時に全身の骨が粉々に。

 追撃として放たれたもう一本に関しては何とか目でとらえる事ができ、足裏から炎を噴射して避けきれたのだが、その余波だけで神の居城が大きく揺れた。


「速度重視にし過ぎたか。本来の予定なら、初撃が当たった時点で殺していたはずなんだがな」

「神器を服の下に広げていなかったら死んでたよ。間違いなくね」

 

 つまり――――戦いは続くのだ。形を変えてこれからも。

 最後の最後。二人のうちのどちらかが躍り切れなくなるその時まで。



ここまでご閲覧いただきありがとうございます。

作者の宮田幸司です。


ガーディア・ガルフVSゴットエンド・フォーカスは現実世界に戻って次のステージへ。

といってもこれが正真正銘最終ラウンド。終わりはすぐそこです。


彼らの胸に秘めたもの。発揮される技と力。


それが向かう結末にもうしばしお付き合いください。


それではまた次回、ぜひごらんください!

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