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『果て越え』ガーディア・ガルフVS『果て越え』ゴットエンド・フォーカス


 ゴットエンド・フォーカスが使うワールド・エンドは絶技と呼ぶにふさわしいものである。

 数多の星に数多の銀河を内包した、色彩はなくとも本物と同じ広大さを秘めている偽りの世界。これを粉々に破壊するという規模・威力ともに反則染みた技である。

 それこそ発動すれば、誰が相手であろうと必ず勝てるという自負があった。

 どのような規格外が相手であろうと、勝てるのだ。


「作ったのは君なのだから当然と言えば当然だがね。まさか宇宙そのものを粉々にする技を持っているとは………………恐れ入ったし感心したよ」

「――――――」


 はずなのに、ガーディア・ガルフの声はなおも聞こえてくる。

 荒い息を吐く使い手の背後に立ち、攻撃を仕掛けるようなこともせず、服に焦げ跡一つつけず彼の後ろに佇んでいた。


「………………迂闊だったな。『絶対消滅』の力か」


 その姿を見た瞬間、ゴットエンド・フォーカスは思わず膝から崩れ落ちそうになるが、彼の幸運はこの土壇場で答えを引き寄せる。


「おかしいと思ったんだ。いくら早いとはいえ限度がある。銀河群を躱したのも、宇宙崩壊に巻き込まれなかったのも、元を辿れば因果律が原因だな!」


 そうだ。如何にガーディアが異常な速度を誇っているとしても限度というものある。光を遥かに超える速度であるとしても、巨大な銀河群や宇宙の崩壊から逃れるなど不可能なはずなのだ。


「更に言うなら、そういえば貴様は他人とは違う時間の中を生きていて、思考能力が異常だったはずな。となると僕の猛攻を躱した絡繰は、その辺りを上手く合わせた結果だな」

「流石に銀河群や宇宙全体を因果律で包むようなことはないと思ってたからね。上手くいって良かったよ」


 その無理難題を突破した方法はまさしく今、ゴットエンド・フォーカスが推測した通り。

 ガーディアは自分が躱せないし防げないほどの攻撃が来た瞬間、その都度因果律『絶対消滅』を発動。

 自分とゴットエンド・フォーカスの間にある距離を『なかったこと』にすることで距離を縮め、安全圏に潜り込んでいたのだ。

 当然神器が秘めている能力無効化の効果で手の届く距離まで近づくことはできなかったが、それでもゴットエンド・フォーカスを中心とした半径三十メートル周辺にまでは移動することができ、厄介な攻撃を躱すきっかけとしていた。


「本当に恐ろしい男だな貴様は。だが種は理解できた。ならば後は蹂躙するだけだ」

「………………そううまくいくかな?」


 自身がかつてないほど追い込まれていることをゴットエンド・フォーカスは理解している。

 それでも傲岸不遜な態度を崩さず、神器『戒の十手を握る力をより強固なものとし、対するガーディアはすぐにでも距離を詰められるよう腰を落とす。


 そうしている両者の間に流れる空気はそれまでの激しさからは想像できないほど静かなもので、これまで続いていた激しい戦いが嘘のような静寂さが、ゴットエンド・フォーカスが作り上げた新たな宇宙空間を埋める。


 だが気づいていた。


 途方もない量の粒子を己が身に蓄え、想像を絶する幸運で身を包んだ因果律『絶対勝利』を持つ『果て越え』は、


 異常な速さに技量。それに思考能力を持つ因果律『絶対消滅』の所有者たる『果て越え』は、


 決して真似する事の出来ない特異性を秘めた二人の『果て越え』は理解していたのだ。


 もう間もなくこの戦いは終わるのだと。


 宇宙という広大な空間を舞台とした互いが死力を尽くした戦いの結末。

 それがすぐそこにまで迫っているのだと。


「「………………………………」」



 わかっているからこそ、その動きはこれまでと比べて緩慢な、いや慎重なものとなる。

 一歩横に移動するだけだというのに数秒かけ、対象の一挙一動を見逃さぬよう神経を集中させ、


「――――」

「瞳術かっ。小癪な真似を!」


 ガーディアが先手を取る。

 右の瞳に真っ白な炎が奔り、合わせるように見つめた対象を白い炎の砲撃で吹き飛ばす『白雛』が発動。ゴットエンド・フォーカスの顔面に円形の白炎が叩きつけられる。

 無論その程度の攻撃が防がれないわけがなく、炎は目標の顔に届くはるか前に不可視の守りにより相殺。だがガーディアの目的は当てる事ではない。


「いない!」


 防御により一瞬視界が遮られたタイミングでガーディアは光を置き去りにする速度で移動を開始。と同時にゴットエンド・フォーカスを包んでいた数多の防御策が、音を立てながら剥がれ落ちていく。


「むぅぅん!」


 ゴットエンド・フォーカスが攻勢に移ったのはガーディアが全ての守りを破壊する二歩手前で、新たに作り出した宇宙に存在する十数光年離れた位置にある銀河を分解。自身の周囲に粒子にして漂わせ、


「粉微塵になるといい!」


 自身を包むように無数の光り輝く丸鋸の刃へと変換して回転。それは数多の防御を破壊するため前に出ていたガーディアを襲い、ガーディアはこれを破壊するのではなく躱した。

 破壊した場合、自分の居場所を知られると悟ったゆえに。


「そこだな」

「完全に勘なのだろう? だというのに当てるか。やはり反則的だな」


 ただそのような思惑はことゴットエンド・フォーカス相手には意味がなく、回避に移った直後に打ち出された弾丸は丸鋸を回避するため後退したガーディアに接触。これを躱すために彼は体を捻り、それに合わせるように無限に近いエネルギー弾を『絶対勝利』を付与した上で発射。単純な数の暴力でガーディアに挑む。


「やはりそこに移動したか! わかりやすい頭で助かるよ!」


 因果律『全体消滅』により互いの距離を詰め回避したガーディアであるが、ゴットエンド・フォーカスは気にせず更なる攻撃を繰り出す。

 手にしていた二本の十手の先端部からこれまで溜めていた大量の衝撃を放出。躱した先にいるガーディアの肉体へと正確に注いでいく。


「ふむ。それが君への道を塞ぐ最後の障害か」

「なんだと?」

「君が手にする神器を除いて、他の邪魔者は潰させてもらった」


 ここまではゴットエンド・フォーカスの思惑通りの展開。そしてガーディアにとっても思い描いていた通りの図面であり、ここから状況が変化する。

 無数の防御の解除に取り組んでいたガーディアが、万全を期して攻撃に移ったのだ。


「この………………動きは!?」

「君と戦う事で覚えた新たな境地だ。感謝するよゴットエンド・フォーカス」


 その動きは複雑怪奇。例えるなら蛇が這うようにガーディア自身と繰り出す拳の軌道が曲線を描き、ゴットエンド・フォーカスが急いで作った障壁や十手の守りをこれまでよりも遥かに早く突破。その奥にいるゴットエンド・フォーカスの体に拳が突き刺さり、身に纏った強化や硬化さえ貫通する威力にゴットエンド・フォーカスの体が悲鳴を上げた。


「捕まえ、たぁ!」


 そうやって攻撃を受けてもゴットエンド・フォーカスは目的を完遂する。

 どれだけ当ててもダメージになる前に躱すのならば、躱せない環境を作ればいい。

 そう理解しするとガーディアの右手を脇に挟み、左足を自身の右足と丈夫な鎖でつなぎ、


「死ねぇぇぇぇ!!」


 繰り出していく。ガーディアの全身を包むような攻撃を、四方八方から勢いよく。


「がぁっ!?」

「………………………………」

「致命傷なんて………………お構いなしか!」


 これによりついにガーディアが攻撃を躱しきれず直撃によるダメージを受ける。

 たったの一秒で下半身を失い、更に右目と左腕を失う。

 けれどその状態でもなおガーディアは『白雛』を発動しゴットエンドの頭部に直撃。衝撃により掴まれていた右腕が解放されると自身の命がこと切れる瞬間まで攻撃を撃ち込み、ついにゴットエンド・フォーカスの首に神器の刃が接触する。


「くそ!」


 とはいえ首を刎ね飛ばすような結果には至らず、ゴットエンド・フォーカスは寸でのところで後退。

 両者の距離が離れ能力が使えるようになった瞬間、ガーディアは絶対消滅を使い負った傷を『なかったこと』にし、


「ほんの少し、あと一度瞬きするくらい耐えていれば、私は死んでいただろう」

「………………………………っ」

「その状態の私から離れるとは運がないな。それともこういうべきか? 『先輩を立てて道を譲る、実にいい後輩だよ』とね」


 その口から言葉を零す。

 他人の機微に関しては把握しずらい彼にしては珍しく、ゴットエンド・フォーカスが激怒しそうな単語を上手く使い明確に煽り、


「貴様!」

「その善意に応えよう」


 それが終わりを示す言葉であった。

 直後にガーディアが指を鳴らすとゴットエンド・フォーカスの体の至る所に潜ませていた炎属性粒子が膨張。そして凝固。

 刃となりゴットエンド・フォーカスの体を幾重にも切り刻んでいく。


「なん、だこれは!?」

「かすり傷を致命傷に変える『火奔』という技でね、君のように触れるだけでも一苦労な相手にはよく効くんだ。無論回復して来るんだろうが」

「っっっっっっ!」

「だとしても問題ない。そちらに意識を割いている間に、それ以上のダメージを与えられるからね」


 すぐに回復に努めようとするゴットエンド・フォーカスであるが、ガーディアは足を止めない。

 この戦いで会得した数多の防御策をすり抜けるための新たな力。最短距離を進むのではなく隙間を縫うような動きと拳で傷をつけていき、火奔を都度発動してダメージを蓄積。

 今やゴットエンド・フォーカスは無限に回復しては傷つく生きたサンドバックとなり、


「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

「移動か!」


 その姿が突如なくなる。数分前と同じく別の宇宙へと逃げ、ガーディアがいる宇宙を破壊するつもりなのだ。


「無駄だ。もはや意味など」


 これを受けたガーディアは自身のいる宇宙が崩壊するよりも早く絶対消滅を発動しゴットエンド・フォーカスのいる空間へと移動。


「なんだと!?」


 そこで目にするのだ。

 移動した先の彼のいる空間もまた崩壊直前を示すようにひび割れていることを。

 そしてそれを目にした彼は会心の笑みを浮かべながらまた別の宇宙へと逃げていく。


「これだけの宇宙を作っては壊すか。君はまさに破壊と創造を司る神だな」

「お、おぉぉぉぉぉぉぉぉ!?」


 だが間に合わない。

 崩壊直前の宇宙に完璧なタイミングで呼び出したにも関わらず、異常な量の時間を持つガーディア・ガルフの姿はゴットエンド・フォーカスの後を追っており、絶叫をあげた彼は様々な攻撃を放ちながら更に遠くへ。


「ば、馬鹿な馬鹿な馬鹿なぁ! に、逃げても」


 新たな宇宙を更に作るもすぐにガーディアは追いつき、どれだけ攻撃を繰り出し当てようとしても、守りを固めて攻撃を防ごうとも掻い潜り、


「逃げても逃げても逃げても!!!!!!」


 絶対的な幸運で守られてきた彼の肉体が傷ついていく。経験したことがないほどに。

 そしてそれはついに彼の限界に迫り、


「この僕に――――近寄るなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」


 咆哮をあげ繰り出す。

 目前にいる彼を薙ぎ払うため、周辺の銀河全てを塵に変え、目前にいるガーディアへと発射。ガーディアの体を確かに捉え、


「如何に最強の幸運を身に宿していようと」

「!」

「半狂乱になった状態では十全の効果を発揮しないか」


 けれどそれは極限まで研ぎ澄まされたガーディアの集中力を上回ることはなく、余波によるダメージさえ完璧に受け流すような回避を行いながら前へ進み、十手の守りさえ完璧に攻略した上で繰り出された踵落としがゴットエンド・フォーカスの腹部に突き刺さり、


「は、果て超えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!!!」


 叫ぶ。

 内部に溜めていた怨念全てを吐き出すように、ゴットエンド・フォーカスは叫ぶのだ。

 そして


「………………実に残念だよ後輩」


 惜しむようなガーディアの声と共に、彼らを包み込む空間が音を立てて崩壊した。

 

ここまでご閲覧いただきありがとうございます。

作者の宮田幸司です。


遅くなってしまい申し訳ありません。今回もまた長めの更新となります。


二桁以上にもわたり続いたVSゴットエンド・フォーカスもついにクライマックスへ。

宇宙空間を舞台にした最後の衝突は、規模以上に互いの敵意や勝利への執念が見えるようなものにしたつもりですがいかがだったでしょうか?

これにより両者は正しい世界へ。

彼等が交わす会話の内容。そして戦いの行方とは?


それではまた次回、ぜひごらんください!



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