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眠り虎、目を覚ます


 神の居城五階にて対峙する存在。己と同じ『果て越え』ゴットエンド・フォーカスとの戦いは、正直に言うと劣勢であった。いや初めて絶体絶命な状況に陥ったといってもいいだろう。


 自分と同一の存在であるウェルダとの戦いでも同じような状況になったのだが、あの時は心強い友がいた。他にも数多くの仲間がいた。

 それと比べ今はたった一人のため、やはり初めての経験といっても過言ではあるまい。


「――――――」

「っ」


 遠くから聞こえてくる声がなんと言っているかまではわからないが上機嫌であることは間違いなく、ゴットエンド・フォーカスがそのような様子を示すのも当然の状況であった。


 なにせガーディアがどれだけ足掻こうが攻撃はクリーンヒットにならず、どれだけ躱そうが完璧には避けられずジワジワと削られていく。


 どちらの方が有利かは明白で、覆すための手段が見えない。


 つまりこのまま時間が経てば、ガーディア・ガルフは負けるのだ。

 人生で初めて、全力で挑み、演技などでもなく本当に負けるのだ。


(時間はあとどれだけ稼げばいいかな?)


 ただガーディアにとって悪くない話もある。

 それは無理をしてまで『勝ちに行く必要がない』ことだ。

 なにせ重要なのはこの化物を蒼野達のもとへ送らないことであり、その目的は達成できるとなれば極論ではあるが時間を稼ぐだけで仕事は終わるのだ。


 無論逃げ回っているだけでは大技を叩き込む余裕を作ってしまうため攻撃を挟む必要はあるが、必ず勝つ必要がないと考えれば気が楽ではある。


「しつこいな! 何をしても無駄なんだよ!」

(これもダメ………………いやさっきよりは多少マシか?) 


 その心の余裕を用いて、ガーディアは様々な方法で攻撃を仕掛けてきた。

 炎の噴射を利用した軌道の変化に神速の貫手。神器の形状変化も試したし、普段はやらないような投擲槍の生成も行った。


「ちょこまかとよく躱す!」


 回避に関して普段しないような工夫を施し、フィールドが宇宙全てという利点を生かし、全速力で一直線に駆けたりもした。普段は描けないよう軌道で飛び跳ねたりもした。


「………………………………ふっ」


 そのように普段やらない連携や技術。それに全力疾走や軌道を描いているうちにガーディア・ガルフは――――――楽しくなってきたのだ。戦う事が。


(よく考えてみれば、ここまで熱心に相手を倒すための策を考えるのは初めてだな。これは中々)


 それはこれまで戦いを作業的、ないし『勝つため』に行ってきた彼にとって初めての事で、感じたことのない高揚感が身を包む。嬉々とした感情が充実感に変化し、体をこれまで以上に動かす原動力になる。


 より鋭く、より早く。


 脳はかつてない速度でアイディアを吐き出し、ガーディアはそれを一つずつ試していく。


 それは彼にとって初めての経験。極上の時間であった。


「なっ!?」


 そんな時間が数分、否ガーディア・ガルフにとってその十倍続いたところで変化が訪れる。

 どれだけ攻撃しても皮膚に当てる程度であった状況と異なる結果の到来。


 つまりゴットエンド・フォーカスが『負傷』したのだ。


「なるほど。そういう事か」


 その光景を両の眼で捉え、童のような笑みを浮かべる。


 かつて積に唆され見せた太陽のような温かさと見るものを魅了する美しさを伴ったものではない。


 純真無垢ゆえの残酷さで彩られたものを顔に浮かべる。


「っっっっ!」


 それをはっきりと見たゴットエンド・フォーカスが連想したのは、子供がその邪悪さを知らず虫の足を千切る姿で、背筋に冷たいものを迸らせながら理解するのだ。


 目の前の存在は――――――――――――自分で遊んでいるのだと。


「次だ。壊れるなよ後輩」


 そう思った矢先、ガーディアの姿が目の前から掻き消える。


「これはっ! この数は!」


 他者に知覚させることのない、『光速』という言葉を嘲笑うような神速の移動。これを行いながら頭上を埋めるように打ち出されたのは一億を超える炎でできた小さな針で、ゴットエンド・フォーカスは身を守るため冷気の嵐と鋼の盾を瞬く間に頭上に展開。襲い掛かるそれらを全て防ぐだけの準備を整え、


「ぬぅ!?」


 それが降り注ぐよりも遥かに早く、手にした十手がエネルギーを吸収した感覚を覚える。

 とすればそちらに目を向けるが既にガーディアの姿はなく、身を守るために事前に貼っておいた風圧の盾を突き破るような衝撃が襲い掛かる。


「この!」


 そのタイミングで初めてガーディアの姿を確認できた彼が目にしたのは、万物を弾くような風圧に抵抗しながら自分の鼻先すれすれのところまで蹴りを近づけている彼の様子で、すぐさま前方百八十度全てを埋めるような砲撃を撃ち込み、視界に入る全ての星が消滅。


(足先から仕込み針のような物をだしていたのか!)


 その際に僅かに体をのけぞらせたため直撃することはなかったのだが、彼の額に一本の赤い線が刻まれ舌打ち。

 のけぞっていたため背後の景色が映るのだが、そこで目にするのだ。


 確固たる意志を瞳に宿し、口を僅かではあるが喜悦の形に歪めたガーディア・ガルフの姿を。


「きさ、ま!!!!」


 彼は即座に攻撃がまだ終わっていない事を把握し、そんな彼の胴体に最速の突きが放たれる。


「ぐっ」


 ゴットエンド・フォーカスはそれを膝から力が抜けるという偶然。いや彼にとっての必然で躱し、間髪入れず打ち込まれた蹴りは手にしていた十手の先端部で防御。

 既にもう一方の先端部はガーディアの胴体を捉えていたゆえに砲撃を撃ち込み、


「………………ちっ。また掠るのか」


 それが胸の辺りに接触したためガーディアは後退するが、その際に神器『白皇の牙』で作り出した手裏剣を投擲。今度はゴットエンド・フォーカスの太ももに掠り、その結果に不満を覚えた彼は舌打ちをすると苛立たしげな声をあげ、


「さてどうだ」

「なにを…………………………ぐぁ!?」


 直後、ガーディアが指を鳴らすと異変が起きる。

 ゴットエンド・フォーカスの額と太ももにできた二つの浅い傷から炎が噴き出し彼の体を焼いたのだ。


「ようやく理解できた。君のその類まれなる幸運というのは絶対無敵というわけではないんだね」

「なん、だとぉ………………!」


 感じたことのない熱さが二ヶ所から迸り、その傷をゴットエンド・フォーカスはすぐに修復。それを見届けた上で、ガーディアは彼を指さしながら口を開く。


「話を聞いた時から疑問に思っていたんだ。君の言う幸運、いや主人公補正というのは本当に絶対的なものなのか、とね」


 その内容はゴットエンド・フォーカスが嬉々として語った自身の力。ガーディアを敗北に追いやる最大の要因に関してで、


「君が願えばそれがどんなものでも叶うんだろう? なら『ガーディア・ガルフを殺す』『攻撃は全て自分に触れない』と願えば、簡単にこの戦いは終わるはずなんだ。そしてそれは、私以外にも戦う相手がいると宣う君ならば絶対にしている事だ」

「なにが、言いたい………………………………」


 語る。懇切丁寧に。自分が至った答えに辿り着くまでの道筋を。


「そうならないという事は『願えば叶う』という類の力ではないということで、ここから先は私の推測なんだが、君の言う補正は、正確に言うなら『願った事を引き寄せる』力だね」

「!」

「だから攻撃は当たるし、防御する機会は与えられる。けどそれが効果を発揮するかはどうかは君と相手次第だ。そこから正しい対応を繰り返せば――――――――」


 その話は終わりへと向け進んでいき、かと思えばガーディアの姿はゴットエンド・フォーカスの目の前から再び消失。


「なんだこの! 馬鹿らしいほどの手数は!?」


 瞬きを一度行った直後、展開したあらゆる防御に何らかの攻撃が当たる感触がする。

 それは五秒十秒と続き、

 

「攻撃は当たる」


 その果てに、ゴットエンド・フォーカスの着ている紫のスーツの右肩が切り裂かれ、その奥にある肉体にしっかりとした切り傷が刻まれ鮮血が宇宙空間に飛び散り、


「だがまだ決定打には程遠いな。もう少し速度と手数を増やそうか」


 その宣言を契機にガーディア・ガルフの反撃が始まる。

ここまでご閲覧いただきありがとうございます。

作者の宮田幸司です。


さてついに始まりました反撃フェーズ。

これまでは結構一方的な蹂躙劇だったのですが、ここから両者あらゆる手段を用いる拮抗状態。全力全開の戦いとなります。


これまでもすさまじいスケールだったわけですが、それが更にパワーアップします。


一応言っておきますと、こんなのは今回の戦いだけです。

戦場が全力を発揮できる場所で、両者『果て越え』ゆえのものです。


それではまた次回、ぜひごらんください!」

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