一つの真相
未だ名も知らぬ青年の周囲の空気が歪む。
それが練気によるものか、彼の心境に合わせたものなのか。はたまた別の要因であるのかについてさえガーディア・ガルフは分かっていないのだが、彼は今、それらを含めいくつかの『謎』に直面していた。
第一に相手の名前。第二に今しがた放つ力の正体。第三に敵の持つ力量の正確な把握であるわけだが、ここまでは問題ない。
「鈍い痛みを覚えたのはいつぶりだろうね」
それらの問題を一時別の場所に置き、まず初めに知らなければならない事は単純明快。
『なぜ己に攻撃が当たるのか』と『なぜ己の攻撃が防がれるのか』についてである。
(何らかの種があるのは分かるが………………皆目見当もつかないとは)
これはガーディア・ガルフを知る者ならば誰もが同意する事であるのだが、『ガーディア・ガルフに攻撃を当てることはできない』かつ『ガーディア・ガルフの攻撃を避ける事はできない』のが当然なのだ。
全力のガーディア=ウェルダという反則を重ねた存在を除けば、光を遥か後方に置き去りにする速度で動く彼が防戦に回った場合、攻撃は全て彼を捉えられず空を切る。攻勢に至ったのならば回避も防御も全て通用せず、一撃ノックアウトの攻撃が絶えず飛んでくる。
(………………考えてみれば初めてのことだな。ここまでのわからない尽くしは)
だというのに目の前の男は攻撃を当ててきた。
彼の放つ蹴りや拳を、能力が発動する神器の先端部という極々狭い範囲で正確に防ぎ続けた。当たったこともあったものの、軽傷といえるかもわからないダメージで抑えているのだ。
これは明らかな異常であり、理由について予想がつかないことも初めての事であった。
「貴様は速さ自慢のようだな。それならこういうのはどうだ?」
他にも蒼野達三人の必殺の一撃をただの硬貨で防いだという信じられない謎などもあるのだが、対峙する名も知らぬ青年が、ガーディアが答えを出すまで待つ道理などあるはずもない。
無詠唱で繰り出された彼を中心として広がる雷の膜。それが部屋全体を包み込むように瞬く間に広がっていく。
「ここにきてそんなものが通用すると思っているとはな。正気を疑うよ」
当然その程度の攻撃をガーディアは突破する。
炎属性を得意とする彼は、瞬く間に掌から大量の属性粒子を放出し圧縮。作り出した炎の刃を振り抜き、目の前の雷の膜をあっさりと破壊する。
「!」
はずが、上手くいかない。
雷の膜は見た目からは想像できない硬度でガーディアの持つ炎の剣を弾き返すと粉々に砕き、彼の肉体を飲み込んでいく。
「貴様ぁ――――」
その運命を、ガーディアは当然のように覆す。
炎の刃が易々と砕かれた瞬間、彼は因果律『絶対消滅』を足に纏うよう発動。その状態で足を振り抜けば当然のように雷の膜は消え去ったのだが、その光景を目にした瞬間、ガーディアを睨みつける男は訝しげな声をあげ、
「いったい何をしたぁ!」
声を荒げる。信じられないという感情と怒りの感情をごちゃ混ぜにした様子で。
(それは私のセリフだよ)
だがそれは口には出さぬがガーディアとて同じである。
なぜなら今の接触時に彼は感じたのだ。
全ての能力において頂点に立つ力。因果律が不可解な結果を示したことを。
本来ならば過去に戻りあらゆる事象・法則・さらには未来を『なかったこと』にする絶対消滅の力が、上手く発動しなかった――――対消滅するような結果を示したことを。
「………………まさか」
そんな事態になった理由を、光を遥か後方に置き去りにする速度で動き、数万回にも及ぶ攻撃を繰り出しながらガーディアは考察。
それまでと同じように防がれる、または当てたとしても微量のダメージしか与えられない事態に直面しながらも辿り着くのだ。
一つの答えに。
そして
「「絶対!」」
名も知らぬ青年の攻撃が鼻に触れる…………というよりも僅かにめり込むという驚愕の結果から逃れるよう距離を取り、態勢を整えた直後、ガーディアは目にするのだ。
自分と同じように腕を前にかざしている目の前の存在を。
同じ言葉を口にする姿を。
そして自身の白銀の光に対応するように、黄金の光を掌に集めている様子を。
「消滅!」
「勝利!」
斯くして結果は示される。
神器相手以外ならば無敵を誇るはずの因果律『絶対消滅』は――――――相殺する。
同じく因果律である『絶対消滅』の力によって。
「…………………………考えを改めよう。お前………………名は何という」
その姿を前に、ガーディアと対峙する青年は考えを改める。
目の前にいる男を蒼野や優、それにゼオスと同じような、目を向ける必要もない雑兵とは別の存在と認識。
滅多に出会うことのない好敵手と理解しそう尋ね、
「ガーディア・ガルフ」
「――――――そうか! そうかそうか! そうかそうかそうかぁ!!」
その名を聞いた瞬間、態度を急変させ笑いだす。
これまで見せたような苛立った様子では断じてない。
一応は知り合いであった蒼野達に対するような慈悲でもない。
歓喜の念を口に出す。
そして心の底からの喜びを肩を揺らし表現し、
「初めましてだなぁ! 先輩!!」
動き出す。
これまでのような片手間での戦闘ではない。
全身全霊の力で襲い掛かるのだ。
そしてそれは、因果律を所有している以上の様々な驚きの事実に繋がことになる。
ここまでご閲覧いただきありがとうございます。
作者の宮田幸司です。
第五階層本戦その一なわけですが、敵対する存在がついにその力の一端を披露します。
本編最後にも記されている通り彼が秘めているのは様々で、見ていく中で少しでも絶望してもらえればと思います。
なお作者は彼を相性として『クソメガネ』と呼んでいます。
皆様にもそう呼んでいただければ幸いです。
それではまた次回、ぜひごらんください!




