武の境地が抱くもの 三頁目
ご閲覧ありがとうございます。
前回の物語を一部修正したのでここでご報告を。
修正したのはこの戦いのルールで、
『相手を気絶した瞬間勝利。それに加え蒼野達は場外にどれだけ吹き飛ばされても大丈夫だが、ブドーはは場外に言った瞬間敗北』
となります。
なお、フィールドは円形の石造りの闘技場となります
ロッセニムの闘技王ブドーはずっと気になっていたのだ。
戦う事しかできぬ自分の元に、なぜヒュンレイ・ノースパスが部下を送ってきたのか。
「……朧炎月」
「風刃・八閃!」
「なんのまだまだ!」
ゼオス自信を中心に描かれた紫紺の炎でできた円と八発の風の刃を躱しながら、延々と考え続ける。
自分には人にものを教える『学』はなく、人を導くことに適しているかと問われれば『否』と断言できる。
そんな自分に殺し屋と平和主義者という水と油の性格の二人の仲を持つなどという難しい話題を振られた理由、それがずっと頭の奥で引っかかっており、馬鹿なりに頭を悩ませていた。
「引けゼオス!」
「……貴様が命令するな」
その理由はこの光景、すなわち意識せず無意識で連携を取り息を合わす、戦いの場を設けたかったからなのだと彼はその時理解した。
「時間回帰!」
「レオグン!」
「……時空門」
命の危機が迫ればそれを乗り越えるために対立する者達でも手を取り合う。
その状態を疑似的に作りだし二人の仲を修復することこそ、ヒュンレイの目的であったのだ。
命を賭けることにより生まれる緊張感の代わりに、衆人環視の緊張感に包まれることで無様な姿は見せられないという緊張感を与え、自分のような格上の存在と戦わせる。
「……引け、古賀蒼野」
「クッソ!」
そうしている内に両者の胸に巣喰っていたわだかまりは本人たちが気が付かぬうちにほぐれ、意識無意識のどちらかはわからないが、今は様々な連携攻撃を繰り出し続ける。
「どうした、まだ某に一撃も攻撃を当てていないぞ!」
二人の連携によって繰り出される攻撃の精度は、この戦いを見る全ての者がはっきりと理解できる程研ぎ澄まされている。
それは水と油の二人が会話をして共通の強敵を打倒しているという証、つまりヒュンレイが望んだ、心を通わせるという行為が成功している証である。
にもかかわらず一撃も当てられないという結果は、ブドーと二人の実力差を鮮明に表していた。
「くそ、やっぱ一撃が遠いなぁ」
「……無駄口を叩くな。動きを止めるな。諦めるな。どれか一つでも当てはまれば、それで終わりだ」
それも当然といえば当然。
闘技王の称号を持つブドーは先程の蒼野やゼオスと比べ格上の人物との戦いにおいても、かすり傷一つ負う事なく勝利している。
それを知りながらもゼオスは撃破を目指し、蒼野も一撃でも当てようと死力を尽くすが、二人が想定するよりも早く体力の限界が訪れる。
「ダメだ……届かねぇ」
「…………そもそもの問題としてだ、これはおかしいぞ」
戦いが始まってから十数分、攻撃を避けるために休むことなく全力で動き続けていた蒼野とゼオスが足を止める。
荒い息に上下に揺れる肩は二人の限界を告げていたのだが、蒼野もゼオスも自身のその様子に疑問を覚える。
「まさか十数分も粘られるとは、予想外だったぞ。善殿とヒュンレイ殿は、良い部下を育てているな」
「……俺は入ってから手ほどきを受けた覚えはないがな」
「ならば目がよかったのだ! 砂の山に埋もれていたダイヤを掴み取る、観察眼が優れていたのだ!」
そんな二人を見下ろすのは、太陽の光を一身に浴びて輝く闘技場の主。
周囲の人々には聞こえずとも二人にははっきりと聞こえる声でそう告げる彼の姿に、異様な前向きさを感じる蒼野とゼオスだが、そこに思考を割く余裕はない。
「君たちの戦いに敬意を称し、某が極めし技術の一端をお見せしよう!」
そう告げると同時に、ブドーが遠距離同士の打ち合いを止め、初めて前進。
「あ……」
まさに一瞬の出来事であった。
瞬きすらしていない蒼野の前で彼は懐深くまで一瞬で接近。
「このっ!」
風属性を体に乗せ最速の動きで体を動かす蒼野だが、その一撃が到達するよりも早く、蒼野の両足が大地を離れ、彼の見る世界が反転。
「これ、は!?」
そうなったところで蒼野は理解した。
自身の手で触れられる距離まで詰めた闘技王が、どうやって相手を下しているのか。
それは投げ技だ。
見ている観客はもちろんの事、投げられた本人さえ足さばきを受け体を浮かべられ世界が反転するまで気が付かぬほど、無駄のない洗練された動作に単純な速さ。
蒼野も実際に投げられたことでそこまで辿り着くが、
「受けるがいい!」
頭が理解し対処するための何らかの行動を起こそうと動くが、そんな暇など一切与えることなく、ブドーは蒼野を勢いよく彼を背から地面へと叩きつける。
「あ……が!」
叩きつけられた地面がその場所を中心に大きく陥没し、体内に循環していた空気全てが抜けるような感覚に続き、強烈な痛みが全身を襲い意識が遠のく。
「まだ、だ!」
それでも、まだ終わったわけではない。
石造りの闘技場の地面に沈む寸前に蒼野は自身の腕を真上へと伸ばし、地面に叩きつけられ意識を手放す瞬間、瞳に映った王の影へと腕の動かす。
「ぬぅ!?」
完全に極まったと考え完全に油断していたブドーはそれを完璧に躱す事は敵わず、僅かに掠る程度だが頬に接触。
皮膚一枚傷つける程度の小さな傷だが、闘技王の体に傷を負わせた。
「………………まさか一矢報いるとは。恐れ入った」
穏やかな笑みを浮かべながら、意識を失った蒼野を城外へ移動させてから戻ったブドー。
彼は蒼野を見るのと同じ穏やかな目で仮面を被っているゼオスを見つめた。
「戦い続けても結果は火を見るよりも明らかだが……どうする?」
「……負けを認めろと?」
「勝算のない戦いを続けるほど意味なことをするタチには見えぬがな。それにこれ以上は、観客も望ん営内だろう」
「……………………」
ブドーがそう告げると、周囲を見渡したゼオスが苦々しい表情をしながら武器を腰に収め、両手をあげる。
その姿に苦笑をしながらもブドーがアラタに視線を向け、それを見届けたアラタがマイクを手にして場外から声を上げる。
『挑戦者が敗北を認めたためそこまで! 勝者! ミスタァァァァブドォォォォ!』
男の熱い叫びが会場を占める。
それに合わせて歓声が上がるが、その中に交じっている自分たちに対する賛辞の言葉の数々を聞きゼオスが目を丸くする。
「どうしたのかね?」
「……なぜ俺達が賞賛される? 俺達は敗者だぞ?」
「そんな事か。彼らは勝負の勝ち負け、つまり結果だけを見に来ているわけではない。
戦いの過程まで見ているという事だ。例えば様々な能力や戦術、他にも色々なものを見届けた上で、評価を出しているのだ」
なんだそれは、ゼオスは思わずそう口にする。
勝たなければ生き残れない、それが少年にとっての常識だ。
それを容易く否定する歓声を聞き自信と周囲の価値観の素後に驚きながら、彼は懐から先程少年に渡されたチケットを取りだす。
この世界にはまだまだ自分の知らない未知の事象が広がっている。
そう考えた時、正体不明の少年からもらったチケットは、これまで以上に輝いて見えた。
ここまでご閲覧いただきありがとうございます。
作者の宮田幸司です。
少々遅れてしまい申し訳ありません、本日分の更新でございます。
という事で今回はブドーの実力のお披露目回です。
本編で出た通り彼の得意技は様々な投げ技で、今回も前回の棍使いとの戦いもそれで勝利しています。
それに加えてもう少しトリックがあるのですが、それについては明日か明後日に語れればと思います。
それではまた明日




