頂に立つ者 二頁目
実際に見た者がいるかは定かではないが、神器は宇宙創成の際に生じるエネルギーをぶつけられたとしても砕けないと言われており、真偽はともあれ砕くことは困難極まりなく、できたものは以下の三種類に分かれている。
第一に生物の限界を超えているとしか思えぬ怪力を発揮する者。
天賦の才を極限まで鍛え上げたシュバルツ・シャークスや、『果て越え』ガーディア・ガルフから生まれたガーディア=ウェルダがこれにあたる。
第二に熱による融解。
強固な物体である神器にも一応は融点が設けられているようで、それを溶かすだけの熱を発する事が出来れば、神器を無力化する事が可能なのだ。
これに関してはガーディア・ガルフが当てはまる。
そして最後に超強力な粒子術を使える者。
ミレニアム相手に攻撃を仕掛けたアイビス・フォーカスがこの例に当てはまり、未遂で終わった身なれど、延々と攻撃を続けていれば彼女はミレニアムを包む黄金の鎧を砕けていたであろうことは間違いない。
だが最後の選択肢に関して重要な事が一つある。
『一撃』で成されたものではない。『延々と続ける事』で得られるはずの成果なのだ。
今のようにたた一度触れただけで、持ち主が削りきられると確信を抱ける状態にまで追い込まれるなど、誰も見たことがないはずだ。
(もう一個気になったんだけどいい?)
(優?)
(さっき両手に持ってる十手に触れた際にさ、妙な感覚に陥ったのよね。力を抜き取られたっていう感じかしら?)
「十手………………力を抜き取られた」
続けて提示された事柄は、つい先ほどの接触時に優の身に訪れた不可思議な事態で、報告を受けてすぐ、蒼野が口に出す。
「この十手が気になるのかい? 君達さえよければ詳しく教えてあげよう」
「え?」
その発言に探りを入れるような意図は一切なかったのだ。
しかし蒼野の言葉を耳にした目の前の男は、持っていた十手を軽く振り回しながら、友人に話しかけるような気安さで口を開く。
「名前はさっき呟いた通り『戒の十手』。もちろん神器だ。能力は『吸収と放出』」
「吸収と放出?」
「この十手の先端部分は、接触したあらゆるエネルギーを吸収する。地面に触れた際に生じる小さな衝撃は勿論の事、粒子だろうと練気だろうと、能力だろうと単純な打撃斬撃だろうと、全て吸収する」
「つまり………………範囲が極小の無敵の盾ってことかしら?」
「そう思ってくれて構わないがそれだけじゃない。無敵の盾は無敵の矛にもなる」
「…………矛にも?」
「吸収したエネルギーを同じく先端部から放出できてね。その際に圧縮して貫通力のある弾丸にもできるし、刃にして斬撃にも利用できる。しかもストックしたエネルギーを使う期限はないと来た」
そうして語られる十手の能力は、決して派手なものではない。しかし応用が利き、なおかつ強力であることに対しては疑いようがない。
「………………なぜ俺達にそこまで教える。知らない方が有利に戦えたはずだ」
問題は素直に重要な情報を吐き出したという事実であり、ともすれば当然の疑問がゼオスの口を突いて出て、
「深い理由はないよ。さっき言った通り、この戦いを楽しみたいだけさ」
すると目の前の存在は目を細め、うっすらと笑いながらそう告げ、直後に三人が抱いた感想は同様のもの。
『部分的にはあっているかもしれないが、完璧に信用するわけにはいかない』というものだ。
「なんにせよ先端部に触れちゃいけないってのは本当みたいね。アタシがさっき攻撃を封じられた時も、先端部分だったから」
「………………そうだな。その辺りに関しては信じてもいいだろう」
ただ納得できる点もあったため、この問題に関しては一度凍結。
これにより問題は最初の地点まで戻ってくる。
すなわち神器を壊すほどの力は、あの光球のどこからやってくるのか。元を辿ればどのようにして生まれているかについてだ。
(一番単純な答えはお姉さまがやれるような粒子の自動回復を利用したものかしら。これに粒子増幅系の力を合わせればいけるかも)
(威力の底上げは、圧縮して小さくした結果か)
(………………高速回転によって削られたような印象を受けた。その辺りも関係するのだろうな)
「さてと、そろそろいいかい?」
「「!!」」
これに関してはすぐさま意見を念話で出し合う三人であるが、戦いに悦を見出そうとする存在が待つだけの理由がなく、
「僕に関する情報は多少なりとも開示したつもりだ。その上で考える時間も与えた。ならさっきほど退屈な衝突にはならないだろう?」
「おいおいまさか」
「もしかしてそれが全部神器壊せる威力なの? 冗談きついってば」
彼が両手を広げると二十を超える小さな光球が虚空に浮かびあがり、彼の周りをゆっくりと動き回り始める。
かと思えば主の一指しで光速に近い速度で動き出す。
「原点回帰!」
「!」
幸運だったのは向かう先が蒼野であった事で、迫る光球は全て真っ赤な光に呑み込まれ、その姿を消滅――――――しきらず貫通。
「ア、時間破戒!」
この事態に蒼野は激しく動揺する。
彼の知る限り撃ち出された破滅の赤い光は、相手が神器でもない限り触れてきた全ての物体を零に戻してきたのだ。
触れたにも関わらず前に進むなど前代未聞の事であった。
「ホントにめちゃくちゃな粒子を集めてあったのね。あの球」
「原点回帰抜けて姿があるってことはそういうことだよな………………」
とはいえ続く時間破戒により、消滅までの時間をカット。
想定外の出来事に遭いながらも光球は跡形もなく消え去り、三人は危機的状況を乗り越え、
「九割以上はあれだけで終わるのだが、そうはならなかった。ならば――――ミドルツー」
更なる危機が現れる。
「優さん優さん………………あれはどう思う?」
「あれが全部神器壊せる殺傷力なんて信じたくないわね」
「………………文句を言っても仕方があるまい」
現れたのは一メートルに届かない程度の大きさの虹色の輝きを放つ球。
その数は四十を超えており、それを目にした彼らの口から数秒前の会話に酷似した内容が発せられ、
「では――――」
「原点回帰!」
「!」
目の前の存在が指示を出し動き出すよりも早く、蒼野が手にしている切れ味ゼロの剣を一振り。
撃ち出された真っ赤な光は全ての球体を瞬く間に飲み込み、彼らに向け撃ち出す暇もなく消滅させていき、
「いいな。とてもいい。それはどこまで通用するんだい?」
「………………なに?」
「ラージスリー」
「嘘でしょ………………」
迫る。更なる危機が。
一メートルを容易く超える光球として。
百個以上の数で。
今度は担い手の周囲ではなく屋内全域に広がる。
「さて、次はどうするのかな? できる事なら、さっきの真っ赤な光以外の攻略方法を見せてもらいたいんだけどね」
この光景を前にして三人は確信を抱く。
目の前の青年にはまだ秘密がある。
そしてその真相を知らない限り、自分たちはこの得体のしれない存在に決して勝てない、と。
いや命を失う定めにあると。
ここまでご閲覧いただきありがとうございます。
作者の宮田幸司です。
VS第五階層フロアガーディアン戦その2はいかがだったでしょうか?
おそらく四章後半戦における大一番なので、満足していただける出来になればと思う次第です。
さてそんな戦いですが、次回で一つの区切り目。その後は第4階層に戻ったりして、そのあとに再開という手筈になるかと思います。
で、ここで一つご報告。実は明後日が忙しく更新できそうもないため、お休みさせていただきます。
なので次回の更新は1月16日の深夜となりますのでよろしくお願いいたします。
それではまた次回、ぜひごらんください!




