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アイビス・フォーカスVS原口積 三頁目


「まずは目の前の奴をどうするか、だ」


 頭の奥底に思い浮かべ望んだ未来。

 これを手に入れるため意気込む積の前に最初に立ちはだかったものは溶岩に巨大な岩の破片。それに高熱のガスが混ざった火砕流であり、目にした途端積は掌を真横へ。その動作に合わせて作り出されたのは身の丈を超える大きさの巨大な鋼鉄の団扇であり、


「吹き飛ばせ!」


 それを振り抜き繰り出される強烈な風が、高熱のガスと溶岩を押し返す。とすれば避ける必要があるのは内部に高温のガスが溜まった溶岩の欠片だけとなり、積はこれを難なく突破。アイビス・フォーカスへの距離を詰めていく。


「………………ふぅん。じゃあ次は――――これよ!」


 その光景を見届けた直後、次なる一手は繰り出される。

 それは指から伸びている五本の糸で、幾度となく振り抜かれ迫るそれを積は時に跳躍。時に屈んで回避。


「射程圏内に………………入った!」


 自分の思い通りに物事が進んでいる事実に僅かに言葉を弾ませながら距離を詰め、この戦いに終止符を打つ秘策の錬成を始め、


「ふん!!」

「がっ!?」


 それが終わるよりも早くアイビス・フォーカスの体が消え、かと思えば頬に強烈な衝撃が迸り真横に吹き飛ぶ。


(今の、は!?)


 それは遠距離戦を好む彼女が普段使うことはない雷属性による肉体強化による一撃なのだが、追い打ちとして繰り出された水の斬撃を躱したところで積は気が付く。


「姉御………………あんたまさか」

「あたしを倒すんでしょ? ならこれまで倒してきたあたし奴らの攻撃くらいは簡単に捌けなくっちゃね」


 最初に繰り出された火砕流は、情報通りならば元セブンスター第七位であるオーバーのもの。

 次に行った糸の攻撃はパペットマスターを模倣したもので、雷属性を用いた肉体能力の向上はボルト・デイン。最後の追い打ちに関してはソードマンという偽名を名乗っていた頃のシュバルツのもの。


 つまり今繰り出されている攻撃は全て、積が蒼野達と共に歩んだ道のり再現なのだ。


「さ、続けましょ。次はゴロレムが使う氷人形。出来栄えに関しては大目に見てね」

「クソッ」


 違いがあるとすれば、その威力と範囲。

 早急に積を仕留めなければならない彼女が繰り出すそれらは、全て威力と規模が本来の使い手よりも増しており、積を着実に追い詰めていく。


「ギャン・ガイアの使う木の幹。それにシェンジェン・ノースパスの見えない爆発」

「エアボムまでマネできるのかよ。半端ねぇな!」

「当然でしょあたしを誰だと思ってるのよ」


 繰り出された木の幹が邪悪な緑の光を纏っており、必死に躱したところで不可視の爆発が連続して発生。


「これはアイリーン・プリンセス」

「っ」


 能力判定のためシュバルツの持つ神器の欠片を埋め込んだ積には効果がないが、周囲一帯を見渡せない状況で続けて撃ち込まれた光属性の弾丸は別だ。

 光属性の塊ゆえに貫通まではしなかったが、積の胴体に直撃すると内臓を深々と捩じり、抑えきれない吐き気から生じた吐しゃ物が地面を汚す。


「これはレオンの使う斬撃!」

「ク、ソォ!!」


 そうして足を止めた積へとアイビス・フォーカスが距離を詰める。

 両足を狙うように炎を纏った剣を振り抜き、積は咄嗟に出した鋼鉄の盾で防御。

 バターのように易々と溶けていく様に顔を歪めるが、盾をかちあげ剣を弾き飛ばすと、反撃の蹴りを彼女の胴体に打ち込んだ。


「エヴァ・フォーネスの使う十属性の光弾は………………模倣にならないわね。私だって同じような事をしてるんだし」

「お、おぉぉぉぉ!!」


 体をくの字に曲げ吹き飛んでいくアイビス・フォーカスへと向け、再び秘策を撃つ準備を行っていく。

 けれどダメだ。

 それが終わるよりも早く十色の弾丸が積へと飛来する。


「しまった! こいつは逃げ場を奪うための!?」


 それ等から身を守るよう、積は一瞬で作れる最大硬度の壁を地面から生やすが、訪れるはずの衝撃は迸らない。

 むしろ自分を包囲する虹色の柱となり、逃げ場を失った積の背後に、太陽のグラデーションのような色合いの長髪を揺らしたアイビス・フォーカスが移動。


「ヒュンレイの氷銃」

「っっっっ!」


 左手に掴んでいる氷の銃から繰り出された弾丸が積の首から下を瞬く間に凍らせ、


「そして――――――善の拳」


 トドメとばかりに繰り出した拳が積が急いで生成した盾に衝突。

 虚空に浮かんでいるそれはアイビス・フォーカスの一撃を受けきれず背後にいる積の体にぶつかり、彼が生み出した分厚い黒鉄の壁に叩きつけた。


「これは………………誰の真似でもないわね。炸裂弾」

「がっ!?」


 その状態で胴体を吹き飛ばすような爆発を受けた積の体は鋼鉄の壁を突き破り、ぼろ雑巾のようになりながら神の居城の壁に衝突。そのまま立っていることすらできず地面に沈み、とどめを刺すためにアイビス・フォーカスは接近。


「範囲も力も、本物を超えてる自負があたしにはあるわ」

「………………」

「けどどれもこれも所詮は猿真似。自分で言ってて恥ずかしいけど『効果的な使い方』って意味なら、たぶん専門職の人らの方が数枚上手でしょうね………………物量差で押し込めるけど」

「………………………………………………」

「なんにせよこれで終わり。あんたは目的を果たせず、あたしは上に登って三人を助ける。まぁわかりきってた結果ね」


 真上に立ち見下ろしたところでため息を吐き、


「最後に言い残すことはない? 勝者の慈悲として、それくらいはしておくべきだと思うの」


 切羽詰まった状況にはふさわしくない気軽な口ぶりでそう尋ね耳にする事になる。


「………………ダの、真似は………………」

「なあに? 声が小さくてよく聞こえないんだけど?」

「『デスピア・レオダの猿真似はしないのか』って聞いたんだよ」

「………………………………………………………………………………………………」

「ガーディアさんやシュバルツさんの真似ができないのは仕方がないんだけどな、そこもできないとなると、存外姉御も大したことないんだな」

「自分から痛い目に遭いに来るなんて」


 彼女に対し決して口にしてはならない言葉を。


「あんたがドMだなんて知らなかったわ!」

「うぐぅ!?」


 とすれば後の展開は決まっている。

 もはやロクに動けない積の胴体を蹴り上げもう一度壁に叩きつけると、空中に浮かび背中から生えている翼が発光。いたるところに高速回転する丸鋸の刃が現れ、炎や雷を纏い、照準を積に合わせる。


「あぁそれとね、こうやっていたぶる前に言ってたあんたの発言で、一つだけ間違ってたところがあったわよ」

「………………な、に?」

「『殺したくないから四肢を切断する程度』みたいなこと言ってたけど、見積もりが甘すぎるのよ。あたしなら首から下を全部奪っても、延命する事が可能よ」


 言いながら撃ちだされたそれらは正確に積へと接近。


「ここ、はぁ!」


 咄嗟に跳躍したことで上半身と下半身が分離することは避けられたが、右腕が切り取られ両脚が切り取られた………………かと思えば、積の全身から鋼色の飛沫があがった。


「はぁ! あんたいつ成り代わったのよ!?」


 その光景を前にアイビス・フォーカスは動揺。同時に急速に頭を回転させる。


(あたしが目を離した隙ってことよね? それなら鉄の壁を生成したタイミング? 確かにあの時は一瞬視界から外れたけど、逃げ場は失っていたはず………………いえそれより気にするべきは!)


 『どのタイミングで成り代わられたのか』に関して割いていた思考は、けれど一瞬後には別の事に移っていく。


(問題は! あいつがどこから迫るか!)


 当然それは自身の負ける可能性に関して。


 自身が負けるとすれば接近戦を挑まれた場合のみであり、ゆえに不意打ちを繰り出されると思ったアイビス・フォーカスは周囲に意識を張り巡らせ、


「………………あ!」


 一歩遅れて気が付く。

 視界の端。ついさっきまで自分が見ていた積の胴体から、失われた両足と右腕がにょっきりと生えてきている光景を。そしてそのまま動き出しながら鉄の壁を生成し、その奥に姿を消していく様子を。


「ああもう! しくじった!」


 それからすぐに様々な場所で生成された刃が彼女へと飛来するのだが、それを片手で弾くころには既に、彼女は積が行った仕掛けに気が付いていた。


「偽物のフリをしたってわけねっ!」


 そうだ。四肢の大半を切り取られた積は、あの瞬間自分の周りに液体状の鋼鉄をバラまいた。

 それによって『自分は偽物である』と誤認させ意識を外すことで、康太同様虎の子の切り札として持っていた超再生薬で四肢を取り戻すと、身を隠し、反撃にまで至ったのだ。


「面倒なことするわねぇ。でも――――あんたの使う粒子の形は分かってるのよ」


 その反撃はしかし、一瞬で無に帰す。

 アイビス・フォーカスが手にした正方形の物体。いわゆるルービックキューブが凄まじい速度で動き出し、六面全てを完成させる。

 これにより粒子化すると周囲一帯を包み込み、積が繰り出した刃が、視界を奪うために用意した鋼鉄の壁が、粒子同士の結合が解れ無に還す。


 アイビス・フォーカスの奥義が一つ『完全分解』の発動である。


「………………頭に血を昇らせて正常な判断能力を奪い、その上でハッタリで危機的状況を切り抜ける………………正直あんたのことを舐めてたわ。でも――――これで終わりよ」


 続く行動は誰かの模倣にあらず。

 神教を千年守り抜いた彼女が磨いて来た己の身しか使えぬ秘技である。


「虹よ。舞い降りよ!」

(羽は………………目くらまし! いや逃げ場を奪うためのものか!)


 飛翔すると同時に背中に生えてる虹色の翼が巨大化。それは無数の羽箒となり戦場一体に不規則な動きで降り注ぎ、即座にその正体を見抜いた積は合間を縫うように移動。これから行われるであろう大技を避けるため、他と比較すれば僅か程度でも大きな空間に逃げようと躍起になり、


「風属性の………………弾丸!?」

「正確には杭ね。さて――――」


 その途中で、肩や太ももに風属性で構成された不可視の杭が直撃。刺し貫かれることはなかったものの壁に叩きつけられ、その状態で目にするのだ。


「弓に………………矢?」

「銃を筆頭に色々な遠距離武器がある現代じゃ時代遅れに見えるかしら? けどあたしは、やっぱり始めて掴んだこれがしっくりくるのよねぇ」


 二人のガーディアが使うものとはまた別の、美しい黄金の光を帯びた炎。

 それらは彼女の身の丈ピッタリの大弓となり、そこに装填されるのは更なる輝きを放つ黄金の矢で、


「駆けろ――――不死鳥!」


 彼女は口にするのだ。

 己が名と同じ、その一撃の解号を。


 とすれば撃ち出された一撃は積の体を貫き勝負を決するものとなるのだが――――外れる。大きく上に逸れる事によって。


「これ、は!」


 その理由を積はすぐに理解した。アイビス・フォーカスの青ざめた表情を目にしたため。

 そして感じたことのない存在の感覚に襲われたため。


 つまり


「間に合わなかった………………」


 蒼野達は遭遇したのだ。

 この神の居城に潜む、最大最強の難敵に。

ここまでご閲覧いただきありがとうございます。

作者の宮田幸司です。


今回の話は過去敵の技や動きの再現。

色々な物語は一度は行われる奴だったので、ちょっと憧れてた事だったりします。といっても最後はアイビス・フォーカス自身の技になりましたが。


そんな戦いは一気に進み、同時に第五階層でも動きに変化が。

次回の話は第五階層へ。

イグドラシルへと続く道に立ち塞がる最後の障害たる人物の登場から開戦までを語っていきます。


それではまた次回、ぜひごらんください!


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