ウェルダ無双
成長という言葉は、何も身体的なものだけを表す言葉ではない。意味合いとしては、知識面や精神的なものも当然のように含まれている。
「く、来るな! 俺達に近寄るなぁ!!」
もちろんその枠組みは人間だけでなく獣にも適用され、さらに範囲を広げれば、不幸にも現在惑星『ウルアーデ』を襲っている怪物にも及んでしまっている。
「――――――――!!」
「――――――!!」
「!!」
獣の形のものも、人間の形をしたものも、彼らは等しく頭部を持っていなかった。
だから声を発する事はできなかったのだが、襲い掛かる彼らの様子を冷静に俯瞰できるものがいたのならば、すぐに気が付くだろう。
彼らは今――――楽しんでいるのだと。
自分たちの持つあらゆる力で人間を殺しているという事実が。
逃げ惑う人々の姿が。
そして聞こえてくる悲鳴が。
顔がないにも関わらずはっきりと感じ取り、跳ねまわるような自身の心境を示すように体をバタバタとさせていた。
――――楽しいと!
――――もっと殺したいと!
凶器となった全身を振り回し、至る所で血の噴水を噴き上げる事で示しており、
「に、逃げろぉ! 俺達じゃもう手に負えない!」
「遠くに行くんだ。少しでも!!」
かと思えば浮足立つような気持ちからは想像できないような一糸乱れぬ連携を繰り出し、必死の人らを易々と追い詰め、殺していく。
「耐えろ! 耐え続ければきっと援軍がやって来る!」
「――――――!」
「!!」
そんなことを続ける中、都心部から離れた田舎町にいた個体たちは勘づく。
今いる場所から少し離れた位置に、単独の個体が降り立ったという事を。
そういう者は目の前で無駄な抵抗をしている複数人よりも崩しやすく、絶望の悲鳴を上げやすい。
そう学習していた彼らは手っ取り早く快感を得るため、目の前で粘る面々を置き去りに迅速に移動。
先頭を走る顔のない巨大な四足歩行の巨体が得物の気配をいち早く感じ取ると、勢いよく目標へと向け飛び跳ね、前足から伸びている鋭い爪を突きつけ、しかし対象はあっさりと防御。
ただ彼らも、これまでに積んできた経験から、その結果は十分に想定していたのだろう。
その個体が爪を掴んだ個体を投げ飛ばし終えた時には既に周りを囲っており、寸分乱れぬ足取りで接近。全方位から突き出された爪や鎌を模した腕は勢いよく目標へ向かい、
「んだそりゃ。攻撃のつもりか? 餓鬼が駄々をこねるにせよ、もう少しマシな事すんぞ」
ビクともせず弾かれる。それは鋼属性粒子を圧縮した強固な壁にぶつかったかのような感覚であり、知性がある故に彼等は困惑。
攻撃を受けた男、すなわちガーディア=ウェルダがため息を吐きながら拳を頭上へ掲げると、彼等はみな防御態勢を取り訪れる衝撃に備えるが………………無駄である。
技術など全く使われていない。ただの拳の無造作な振り抜きが防御など無かったかのような勢いで彼等の全身を粉砕し、運良く当たらなかった個体が怯んで一歩後ずさるが、前に出ながら撃ち込まれた追撃の拳が胴体を捉え、粉々に砕け散った。
「あ、ありがとうございます! なんといえばいいか!! このお礼は必ず!!!!」
「気にすんなついでだ。俺の目的は………………あぁそこにあるのか。ちょっとどいてろ」
その姿を前にして涙ぐむ人々を適当にあしらい救世主として崇められるウェルダは前へ。アルから頼まれていた結界維持装置を易々と踏み砕くと、次の場所へと向け跳躍。
「どこもかしこも同じ顔………………いや量産品だらけだな。うっとおしいんだよお前らは」
十数秒で新たな結界維持装置の側へと移動すると、顔のない怪物らに襲われている人らを助けながら結界維持装置を壊し新たな場所へ。
「………………さっきまでとは様子が違うみたいだな」
そこで目にした光景は先ほどまでとは違っていた。
ウェルダの到来を予期していたように百体近くが集まり、着地と同時に雪崩のような勢いで迫っていく。
「数揃えただけでどうにかなるわけがねぇだろ馬鹿が」
その全てが黒い炎に包まれる。
魔眼『黒雛』
見るだけで対象を黒い炎で侵すその力が、炎に包まれた全個体を消し炭へと瞬く間に変貌させ、ウェルダは悠然とした足取りで三つ目の結界維持装置を破壊。
次なる場所へと瞬く間に移動すると、周辺にいた顔のない怪物全てを今度はただの疾走と拳だけで一瞬で倒し、そこに落ちている結界維持装置を破壊。
「次」
次の場所で待ち構えていた怪物たちは、掌から出した黒い炎の放射で易々と薙ぎ払い、
「次!」
そのさらに後に訪れた場所では、横一文字に振り抜かれた立った一発の蹴りの衝撃だけで、迫る怪物全てを真っ二つに切り裂き、痕跡すら残さぬという様子で一瞥し、黒い炎で燃やし尽くした。
「………………ようやくわかったのか。数に意味なんてねぇってよ」
それが更に五回ほど続いたところで変化が起きた。
それまで数で押しきっていた怪物達が姿を消し、他の人間たちに襲い掛かることもなく見たことのない個体がウェルダを待ち構えていたのだ。
身長は二メートル少々。全身を光沢のある黒い塊で形成し、両手を両刃剣にした頭のない怪物。
その個体はウェルダが使った物と同じ黒い炎を両刃剣に宿しており、地面を踏む足取りにも先ほどまでには感じなかった理性が感じられ、
「いいぜ。こい――――」
ウェルダが僅かに口角を吊り上げ構えた瞬間、巨体が距離を詰める。
その速度は先ほどまでの比ではない。万夫不当の猛者達さえ凌ぐほどのもので、打ち込んだ膝内が顔面に直撃した際に周囲に迸った衝撃は、周りの木々を逸らし、地面に散っていた砂を噴き上げたほどだ。
「………………この程度か?」
だが、効かない。
刃のように鋭い膝の先端部から生じた衝撃は、ウェルダの鼻先にあと一つ残さず受け止められ、ウェルダは髪の毛を掻きながら退屈そうに呟くと、逃げる暇を与えず右手の手刀で胴体を貫き、一拍遅れて全身が黒い炎で燃焼。
巨体は二秒ほど経ったところで消し炭さえ残さず消え去り、ウェルダは退屈げに結界維持装置をまたも破壊。
あまりにも大きな力の差、いや生物としての次元の差を見せつけた。
「積! 彼らをこの場に戻しなさい!」
一方の神の居城四階エリア。
そこでは蒼野と優。それにゼオスの三人を上へと上げてしまったアイビス・フォーカスが声をあげ、しかし積は神妙な顔で返事。
「あんたがここで待ち構えてるってことは次が最上階。イグドラシルのいる場所だ。もちろん警備の兵くらい用意してるだろうが、それだっけあの三人ならきっと退けられると俺は信じて」
淡々と言葉を紡ぐが、アイビス・フォーカスの様子は変わらない。
つい数秒前と同じ焦燥感に駆られたもので、その状態のまま彼女は告げるのだ。
「違うの! 間違ってる! この上には………………もう一人フロアマスターが存在する!」
「なに?」
「そしてそいつは………………人間じゃないの! 生物の枠組みから外れた化物よ!」
この上で待っている最後の刺客。
自分さえ易々と退けたその存在に関しての情報を。
ここまでご閲覧いただきありがとうございます。
作者の宮田幸司です。
本日は夜分遅くの更新。次の日が休みだとこうなりがちなので、気を付けなければと思います…………
さて本編はここ最近は全く見ていなかった無双回。
ウェルダによる圧倒的な力の披露の回です。
相手がド外道やら畜生の類なので、こういうのを軽く捻るような勢いで滅ぼしていくのってかっこいいですよね。
さて次回からはついに神の居城内部の戦い第四回戦。
積がついにアイビス・フォーカスに挑みます。
それではまた次回、ぜひご覧ください!




