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暁を目指す者達


『郷愁に駆られているかもしれないがすまないな。大切な話がある』

「…………ああ、そうだったな。待たせてすまないなアル・スペンディオ」

『…………問題ない。それよりも先に貴方の方の報告が欲しい。戦闘中は音声通信を切っていたんだが、何かあったのか? 足取りがはっきりしている』

「………………実は」


 熾烈な戦いが終わり、勝者の姿が戦場から離れ見えなくなる。

 となれば次にシュバルツが目指す場所は友アデットが示した黒海研究所であったのだが、そのタイミングで耳についている発信機から声が。

 説明を頼まれるとシュバルツは黒海研究所へと向け進みながら説明を続けるのだが、全て聞いたところでアルの声が曇った。


「どうした?」

『死者の疑似的な蘇生に千年前から関わっていた存在の言葉か。確かに無下にはできないな。だが我々にとっては都合が悪いと言わざる得ない』

「………………………………というと?」

『こちらはこちらで怪しい反応のある場所を見つけてな。貴方にはそっちに向かってほしいと思っていたんだ。だが………………』

「別の目的地が出来てしまった、か。どうする? 残念ながら私の体は一つだから、両方に向かう事はできないぞ?」

『………………』


 彼らが連絡をしたのは『何らかの問題がある』と確信を抱ける場所、すなわち結界維持装置を見つけたためで、その対処のためにシュバルツに連絡をしたのだ。

 けれどシュバルツの友であるアデットの言葉も軽視することはできず、この状況を打破するための活路を見つけたにもかかわらず、即断即決を下せない状況になってしまった。


(あるいはこれさえもイグドラシルの策か?)

 

 通信機越しを握るアルの頭の奥にそんな嫌な言葉が思い浮かぶが、そちらに意志を割く余裕はないと考え、強制的に明後日の方角に吹き飛ばす。


「で、どうするんだアル。これは私のよく当たる予想だがね、無理に我々の要求を通そうとしても彼は従わない類なのではないか?」

「そう、だな。できたとしても、最高のパフォーマンスは期待できないな」


 直後、邪念を抱いていることを察したジグマが頬杖を掻きながら自分らが抱えている問題を投げかけると、アルも同意。


(ガーディア殿は………………だめだな。別の役割がある)


 他にも一人だけこの状況で頼れる切り札を知ってはいたが、積から使用しないよう言われていたため渋々ながら諦め、であれば早急に別案を出す必要があり、


「所長。ラスタリアから通信が来ています」

「ラスタリアから? この場所がバレたという事か?」

「いえ。個人携帯を使ってのお電話で、聖野さんからです」


 そんな中、思わぬ人物から電話がやって来る。


「………………場所バレしないよう妨害電波を飛ばしておけ。私は電話に出る」


 とすれば現状打破の名案が浮かばない彼は藁にも縋るような気持ちで部下から携帯を取り耳元へ。


「もしもし。私だが」

『アルさん! お久しぶりです聖野です! よかった! 電話がつながった!』

「…………先に聞いておくが君は味方でいいんだな? 三秒後には『馬鹿め電話に出たか!』なんて言わないよな?」

『しませんよそんなこと! それで今俺は前線から離れたんですけど、手伝えることはありますか?』


 聞こえてきた声の主がどこに所属しているか、それが頭の奥をよぎった瞬間アルが苦い顔をするのだが、これも取り払った。

 今重要なのは目の前に掲げられている難問を解決する事なのだ。

 そのためならば毒さえ飲み干す覚悟をした彼は、理屈や理論を投げ捨て彼を信用する覚悟を決める。


「………………ある。が、ダメだな。君には任せられない」

『それは………………俺が神教所属だからですか』

「違うな。君一人に任せても、解決できない問題だからだ。申し訳ないが君では力不足なんだ」


 だがため息はなおも漏れる。

 聖野では現状を打破できるだけの力を持っていないという非情な現実が立ち塞がるゆえに。


 今求めているのは『超越者』カテゴリーの最強クラス。

 それこそシュバルツ・シャークスや各勢力の最強クラス。

 アイビス・フォーカス。シャロウズ・フォンデュやエルドラなどなのだ。それ以下の者が各地を巡り結界維持装置を全て破壊するのは不可能だと考えられた。


「その場には君以外に誰かいるか? 人数さえ揃えられれば頼むこともできるんだが」


 とはいえこの問題は世界各地を巡るという問題がある故だ。

 複数人で各個撃破を狙うならば聖野も十分戦力になると考えられる。

 であれば他にも応援を期待できないかを彼は訪ね、


『………………力が足りないんですね。それなら俺、一人だけあてがあります。どんな難題も突破してくれそうな存在を知ってます!』

「………………なんだって?」


 聖野は告げるのだ。その人物の名と番号を。

 すると血相を変えたアルは急いで電話を行い、数秒待ったところで聞こえてくるのだ。

 希望の声が。


 


 惑星『ウルアーデ』は今、世界中余すところなく戦場となっていた。

 正確に言えば、知的生命体が集まっている場所が顔のない化物に襲われているという状況で、人々はその対処に追われていたのだが、彼らに三度目の強化が入ったところで、状況は悪い方に転がり出した。


 これまでやや優勢ないし拮抗状態を保っていたところが崩れ出し、そうでないところも市民の誘導に回せるだけの手が減っていた。

 屈強な竜人族も単体では敗北しかけ、戦力を各所に送っていたエルレインやベルラテスなど各勢力の要たる場所も、敵側の戦力が自分らに集中してきたことにより、自分たちの住む大地に守りを専念しなければならない事態になり始めていた。


「ホントにいいのかよ。俺がいなくて」


 そんな中一か所だけ、ただ一か所だけ、圧倒的優勢という言葉でも全く足りない、恐ろしいほどの蹂躙劇を見せている場所があった。


「大丈夫です。今日までの貴方との訓練で、みなほんの少し前までとは見間違えるほど強くなり、この上で我らが主、茨の王が力を取り戻しているのです。籠城戦に持ち込めば、いくらでも耐えられます!」


 毒を持つ個体がいた。

 鋼鉄だろうがバターのように切り裂く個体がいた。

 狙った獲物を延々と追い詰め、死に至らせる個体がいた。


 その全ては男が反応を確認すると同時に噴き上がった炎により絶命し、ならば男を狙い攻撃を仕掛けてみるが躱される。もしくは皮膚にさえ傷が残せず反撃の拳で死に絶える。


 そしてそんな彼の周りにいる兵も屈強で、この絶望的な状況でも、誰一人失わず自分らに迫って来た相手の対処をしていた。


「…………俺が戻ってくるまでのあいだ、必ず耐えて見せろ」


 その姿を見て、自分に自信ありげな笑みで話しかける小さな老兵を見て、男はアルから投げかけられた要請に応じるのだ。


 斯くして事態は急転する。


 強くなったシュバルツさえなお凌ぐ。

 かつて惑星『ウルアーデ』の全戦力を注ぎ打倒した男。


 ガーディア=ウェルダが動き出す。





 

ここまでご閲覧いただきありがとうございます。

作者の宮田幸司です。


新しい年がやってきましたね。今年もどんどん書いていくことになると思うので、皆さまよろしくお願いいたします!


さてそんな新年一発目は分かりやすい特大戦力投入回!

前章最後にしてこれまでで最強の敵であったウェルダさんが、此度は味方として動き出します!

弱体化したのは既に語られていますが、それでも絶対なる強者の活躍をお楽しみに!


そしてメインの戦場である神の居城での戦いは四回戦へ!

こちらもご期待ください!


それではまた次回、是非ご覧ください!

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