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ROAD TO TWO 三頁目

みなさまお世話になります。

作者の宮田幸司です。


申し訳ありません。

前回分に引き続き、投稿忘れとなっております。

25日分はしっかりと投稿するので、よろしくお願いいたします。


 それは極上の一撃だった。

 シュバルツの鍛え上げられた肉体を、それを拘束する数多の黄金の鎖を、易々と貫き砕くほどの威力を秘めており、その上でシュバルツは身動きを封じられ、躱すことのできない状態に陥っていた。

 咄嗟にシュバルツが砂埃と水しぶきを書き上げて邪魔をしたが、アデット・フランクは彼の気配を正確に捉え、彼を射抜いたのだ。


 つまり、戦いは終わったのだ。


「………………生きている?」

「種も仕掛けもある手品のおかげだよ」


 だというのに、シュバルツ・シャークスは生きている。未だ健在な様子を友の前に晒す。


 遍く全てを滅ぼす断罪の一。

 それは彼の体を掠めてさえおらず、片目を閉じ余裕の笑みを浮かべる彼は、自身の体を拘束していた黄金の鎖を全て砕いていた。


「………………練気、か」

(まぁ、流石に気づくよな)


 そのトリックをアデット・フランクは理解する。


「気配だけを………………その場所に留めた」


 わかってしまえば実に単純。

 亡くなった原口善が土壇場で好んで使った技術で、自然と発せられる己が気配を、練気に乗せてその場に残し、気配を無くした本体は小ジャンプで横に逸れる。

 もちろんこれだけでは姿が見えてしまうため、シュバルツは目くらましに砂埃と水蒸気を舞わせ、気配を頼りに攻撃を繰り出したアデット・フランクは攻撃を外したというわけだ。


「次は――――範囲を広げよう」

「まぁ………………そう来るよな!」


 だが、二度目はない。


 仕掛けがシンプルであるという事は対策も実に単純かつ簡潔に済ませてしまえ、その言葉を聞き終えるよりも早くシュバルツは前進。

 自分と友を包んだ黄金の殻を二度と作らせないよう、絶えず動き回り、囲いなど作れないよう意識を配る。


「舞え――――我が手足」

「さっきの一撃を見た時も思ったが………………お前、本気で世界を壊す気か?」


 とここでアデット・フランクが口ずさむ呪文を耳にしてシュバルツが声をあげるのだが、これはアデット・フランクが行う攻撃の規模が大きく関わる。


 大前提として、一部の威力自慢の戦士たちは、自分が放つ攻撃に一種の限度や制限を設けている。

 容赦なく攻撃を撃ち出し地面に当たったり彼方にまで飛ばした場合、恐ろしいほどの被害が出るためである。


「人の気も知らず好き勝手やりやがる!」


 パワータイプのシュバルツなどはその最たる例で、彼は戦場となる場所を注意深く観察したうえで、攻撃の威力や規模を決めてい戦っている。


 かつて蒼野達と戦った白い塔などのように全力全開で戦える場というのは実に希少で、大抵の場合、攻撃をする際、自分の攻撃を地面にぶつけないようにしており、もしもその辺りなどに関して遠慮せず攻撃を行えば、ウークに巨大な湖を作り上げた時などの比ではない。

 巨大な都市や浮島を、たった一撃で破壊してしまう危険性を孕んでいるのだ。


 その危険性を今のアデット・フランクも秘めていたのだが、他の者のように遠慮する素振りはない。

 狂気に染まっているゆえに当然ではあるのだが、周りに与える被害を考えることなく攻撃を続け、二人が戦場としていた小島はものの数分で崩壊寸前の状態に陥っていた。


「――――、――――!」

「待てアデット! ここはまずい!」


 状況はシュバルツにとって更に好ましくないものに変化する。

 彼の優れた聴覚が世界崩壊の危機を目前としながら逃げきれず、この場所に留まっていた老人の悲鳴を捉えたのだ。


「我が具足よ――――惑わせ」

「馬鹿が! 無関係の他人を殺すんじゃねぇ!」


 だからといって今のアデット・フランクが攻撃を緩めるわけがないのだが、それでもシュバルツは、彼に一般市民を殺させることに対し強烈な忌避感を覚えた。


 自分と友が殺し合う、これはまだ許せる。

 アデット・フランクが見覚えのある構えを取ったことで、この戦いが千年前に行っていた模擬戦の延長線上にあると無理やりでも納得したからだ。


 だがそこに他の人らを巻き込むことは違うと彼は思った。


 この戦いは最初から最後まで、自分と彼の二人だけの間で終わるべきものであると信じていたのだ。


『こちらアル・スペンディオ! ようやく見つけたぞ! 聞こえるかシュバルツ・シャークス!」


 そのタイミングで、彼の側を通り過ぎた物体があった。

 それは真っ白な紙片で折られた一羽の紙鶴で、シュバルツの耳元で解かれると通信機が出現。吸い込まれるように彼の耳元に装着されると、聞き覚えのある声が届く。


『実は貴方に頼みがある! 今すぐに――――』

「アル・スペンディオか! ちょうどよかった! こっちは今手が離せない状況なんだが、できるだけ地盤の固い場所! その上で人のいないところを教えて欲しい!」

『………………………………先にそちらの要望に応えよう』


 彼は続けて説明を始めるのだが、老人の声から離れるよう木々の間を駆けまわるシュバルツが割り込んで発言。

 焦燥感の籠った声と言葉の意味。それに聞こえてくる爆撃音のような物から事態を察した事でアルは押し黙り、手元にあるキーボードを操作。


『いい候補地が見つかった。それは――――――』


 最適な土地を瞬時に探り出すと早口で説明し、


「そうか………………そうか」


 シュバルツが反応を返す。

 今にも泣き出しそうな声で、言葉を絞る。


 直後に迫ったアデット・フランクの槍の一撃を、彼は躱すことなく胴体で受け、


「ありがとうアル・スペンディオ。君に感謝を。そして………………行こう友よ。私達が戦うにふさわしい場所に!」


 その全身を抱きかかえ、体中が貫かれる感覚を覚えながら跳躍。

 ほんの数秒ほど飛んだ結果、彼らはこの戦いの終点に辿り着くのだ。


「ここ、は………………」


 瞬間、死体であるはずのアデット・フランクの言葉が揺れる。あるはずのない感情が浮かび上がる。

 なぜならその場所を、彼は知っていたのだ。


 千年もの時が経ち、とうの昔に捨て去られた場所なのだ。影も形も残っていない。

 けれど土の匂いが、吹きすさぶ風が、彼の奥底に眠る記憶を掘り起こす。


 友と過ごした学び舎の記憶を


 友と鎬を削った校庭での日々を


 友と歩いた帰り道を


 他にもあらゆる記憶が彼の脳裏を駆け巡り、


「俺やあいつはかつてあった戦争の戦犯だからな。とうの昔に捨て去られた場所さ。だけど………………なんか変な気持ちになるな。こういうの、なんて言うんだろうな?」


 それが正しいものであると、なんとも言えない笑みと声をしながらシュバルツは告げる。


 そう、彼らは返って来たのだ。


 青春時代を過ごした故郷に。


 アデット・フランクが死した、因縁の地に。


ここまでご閲覧いただきありがとうございます。

作者の宮田幸司です。


長かった千年前の二人組による戦いもいよいよ大詰め。

十話越えはちょっと久しぶりですね。


最後の決戦は彼らの出身地!

どのような結末を迎えるか、ぜひぜひ見届けてくださいね!


それではまた次回、ぜひご覧ください!

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