黄金の郷愁
『ダメだ勝てん! 選択肢が多すぎる!』
『おいおい、私相手にそれだとガーディアに勝つなんぞ夢のまた夢だぞ。それでいいのかお前は?』
『よくはないが………………文句の一つくらいいってもいいだろう』
アデット・フランクがシュバルツの前で構える。
その瞬間に脳内を駆け巡ったのは、過去の記憶。今はもうやってこない、千年前の懐かしい日々の一幕。
『いいっちゃいいが、そんなことしてる暇があったら、今みたいな相手の場合の対策の一つでも練るべきじゃないか? ガーディアは私よりやれることが多いんだし、文句を言ったところでいい案が思い浮かぶわけじゃないだろ?』
『………………例えばどういう案がある?』
『そうだな………………相手を自分の沿ったレールに乗せる、なんていうのはどうだ。お前が私に翻弄されるのは、私が繰り出す手の全てにいちいち対処しようとするから。言うなれば『受け身』だからだ』
『………………まぁ、そうだな。間違ってないぞ』
『だろ? ならそうやって待ち構えるのではなく、お前から私の動きを制限する。自分から動き出して、己の理想とする形に持っていくように、素早い攻撃や設置型の罠を敷いていくんだ』
『今までの俺は、アイツが繰り出すあらゆる動きに対処できるよう鍛えていたんだが、こっちから相手側の選択肢を狭めるってことか………………………………もう一戦頼む!』
『少し休んだ後にな』
学校の授業が終わり、生徒会の仕事も一通り終えた後、ガーディアがいない、もしくは何も変な提案をしない場合、彼らはよく模擬戦をしていた。
大体がシュバルツの提案から始まるそれは、頭を使うような作業が多かったアデット・フランクにとってもちょうどいい息抜きで、その際に彼等は新しい戦法の練習をしたり、お互いにアドバイスを送ったりしていた。
『よし………………やろうかシュバルツ』
「おう! それじゃあ!』
『いざ!』
そんな風に模擬戦を行う際、いつも同じような構えをアデット・フランクは取るのだ。
右足を前に、左足を後ろに置き、右手に剣を、左手に槍を掴み、龍の顎を形成するよう広げるのだ。
対するシュバルツは巨大な鉄塊のような大剣を中段に構え、『いつでも来い』とでも言うような空気を発し、両者は嬉々として衝突する。
そんな時間を彼らはよく過ごしていたのだ。
『お! なんだなんだ! 面白そうなことやってるじゃねぇか! 俺も混ぜろよ!』
『げ! ガーディア!?』
『君を超えるための特訓だから、見られていては効果半減な気がするんだがね………………』
『固いこと言うなって。てかそういうのは本人に試しながらやった方が効果があるだろ。というわけではいドーン!」
『ふ、不意打ちぃ………………!?』
『真正面からやって不意打ちなもんかってんだ。そりゃ俺を前にして『げ!』なんてほざいた分だ』
本当に、本当に楽しい日々だったのだ。
重い責務もなく、戦争とも程遠い生活を送っており………………アデット・フランク彼らの側にいた。
そんな日々は一日一日、いや毎秒が、彼にとって宝石のように光り輝いていた。
「まさか………………友よ。お前に、お前にとってこの戦いはそういうものなのか………………? 正気を失ってなお、あの楽しかった日々の続きだと?」
その美しい記憶の一端を、両者にとって最高に楽しかった日々の証を、今、アデット・フランクは自分の前で見せている。
それを前にした瞬間、溢れ出た熱い感情がシュバルツの巨躯と心を満たす。
悲しみや怒りを塗り替え、彼の心に全く違う思いを抱かせる。
今、自分が、一体何をするべきかという明確な指針を得て、顔に張り付いていた涙と鼻水を拭い取り、
「だと…………すれば………………だとすれば!!!!」
狂気に満ちた友を前に声を張り上げ、手にした神器を中段に構える。かつてと同じように闘気を放つ。
「シュバルツゥゥゥゥゥゥ!!!!」
それを合図とするようにアデット・フランクが飛来。
剣と槍に加え、無数の黄金の鎖を虚空から撃ち出しながら瞬く間に距離を詰め、
「――――――――ハァァァァ!!!!!!」
シュバルツ・シャークスが――――駆ける。交錯する。そして過ぎ去る。
迫りくる悉くを手にした神器で砕きながら、アデット・フランクの持つ剣と槍を一瞬で破壊しながら、その奥に控える友を、たった一撃で真っ二つに切り裂きながら。
「友よ! 私は君に勝つぞ! それこそが………………今! 君に示せる! 最大限の礼儀だ!!」
それは決意の表れ。
目の前にいる友と向き合い、対決するという強い意志。
アデット・フランクとシュバルツ・シャークス。
千年前に生まれた二人の『超越者』。
彼らの本当の戦いはここから始まる。
ここまでご閲覧いただきありがとうございます。
作者の宮田幸司です。
少々短めで申し訳ありません。
体調が悪かった結果、このようになってしまいました。
明後日には普段通りの量を書けるよう体調を整える所存なので、しばしお待ちいただければと思います。
そんな本編ですが、区切りとしてはそこまで悪いものではないのでは、なんて思ってます。
なんにせよここからが本番。
シュバルツ・シャークスは本気を出し、アデット・フランクも未知の一手を繰り出し続きます。
それではまた次回、ぜひご覧ください!




