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シュバルツ・シャークスVSアデット・フランク 三頁目


 シュバルツ・シャークスはバトルマニアの類であり真剣勝負を行うことを好んでいた。

 だというのに相手の命まで奪う事は嫌うタイプの人間であった。


 どれほどの死闘を演じようと、どれほど自分が敗北寸前まで追い込まれようと、相手を『倒す』ことは嬉々として行うものの『殺す』ことに関しては否定的であった。


 それは戦争を経験したゆえに、命の大切さを知っているからである。

 それは一度だけの生死を賭けた戦いより、何度でも全力全開を楽しみたいという欲求からである。

 それは友であり超えるべき目標のガーディア・ガルフとの戦いに関しても同じである。


「グッオォ………………ッ!」


 無論いざとなれば殺す事に躊躇いはない。戦士としてそれは当然のことであると彼は自覚しており、事実千年前に起きた世界中を巻き込む大戦争では、少なくない数の敵対者を殺めたのだ。


 だが………………だがそれでも、彼は善性を持た人間であり、であればどうしても殺せない相手というのは存在する。


「か、回復を………………しなければ!」


 口からドロドロの濁った赤を吐き、片膝をつくほどの傷と疲弊を己が身に刻みながらも――――覚悟を決めなければ死ぬのは自分であるという自覚がありながらも、最後の一線を超える事が出来ない相手がいた。


「………………ひどい状況だな。こりゃ」


 それこそが今目の前にいる存在。


 千年前、助けることが出来ず、目の前で死に絶えた無二の親友。


 すなわちアデット・フランクであるのだが、彼がこうなっているのを責めるのは酷であろう。


「もう一度………………今度は俺自身の手で殺せってか?」


 シュバルツはかつて、アデット・フランクを失ったことを後悔した。

 その後悔を糧として今の強さを手に入れるきっかけを得たのだ。


 もう二度と、大切な人を失わないために強くなったのだ。


 そのきっかけが目の前にいて、狂ってはいるものの動き、声をあげている。


 これがどれほどの奇跡なのか、シュバルツは分かっている。


 更に言えば、もしかしたら何とかして蘇らせる方法があるのかもしれないのだ。


「んなこと………………御免被る!」


 そんな大切な親友を殺す、つまり存在するかもしれない可能性を自ら潰す事など、確かな強さを持っているものの、本質的には心優しい青年である彼にできるわけがなかったのだ。


「シュュュュュバァァァァァァァァ!!」


 当然のことであるが、今のアデット・フランクがシュバルツのそんな繊細な心持ちを察するわけがない。

 いやもし察したとしても、その手を緩めるなどという選択肢は存在しない。


 感情の赴くまま、通常ならば既に喉が引き裂かれているであろう勢いで咆哮をあげ、木々の間を駆け、防戦一方のシュバルツへ突進。

 シュバルツがそれを躱すと、黄金の鎖を百本以上を、四方八方から飛ばして動き回る彼の足を止め、その間に距離を詰め、体術と体の至る所から飛び出す暗器で圧倒。


「グ、オォ………………ッ」

「アァァァァァァァァ!」


 月の光が分厚い黒雲に隠される中、両者は抜け、過去に激しい戦いがあったことを示すように崩壊した廃村の中へと飛び込み、シュバルツは身を顰めるように原型を残していた建物の影へ。


「SHIIIIIIIIIIIIIIIIIBAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!」


 だがそれは悪手である。普段の彼ならば絶対に選択しない一手である。

 それを示すようにアデット・フランクの背中を突き破り、彼の胴体と同じサイズの機関銃が虚空に出現。

 絶叫をかき消す勢いで弾丸の嵐が建物を破壊し、その奥に隠れているシュバルツの姿が露わになると、近づくことなく黄金の鎖を展開し捕獲を試みる。


「クソッ!」


 こうなればシュバルツは非常にキツイ。

 彼は遠距離攻撃を行える手段を持ってはいるが、それでも本質的には距離を詰め、近距離戦に持っていくことで真骨頂を発揮できる類の戦士だ。


 今のように逃げ回っていたところで勝機はなく、そんな当たり前のことを正確に判断できないほど、彼は混乱していた。


「しまっ!?」


 そんな時間が続く事およそ十数秒。

 銃弾と黄金の鎖に対し、シュバルツは五十万回以上手にした巨大な神器で抵抗するが、見逃した黄金の鎖が足首に突き刺さり、そのままグルグルと巻き付く。


 そうなれば、深手は避けられない。

 当然のように振り解こうとするがアデット・フランクの動きは素早く、彼の巨体は瓦礫散らばる地面の上を引きずられ、勢いよく虚空へと持ち上げられる同時に銃弾の嵐が接近。


「まず、い!」


 エヴァが作った純白のマントを防御に回すが十万発以上受けたところで食い破られ、防ぎきれなかった分がシュバルツの全身に突き刺さる。


「アァァァァァァァ!」


 無論迫る魔の手はそれだけではない。同時に繰り出された槍や刀剣の類が四肢や腹部を貫き、それでも心臓と顔面に衝突するよう両手を持っていく。


「………………キツイな。本当に」


 結果、ふらついた末に片膝をつき項垂れるが、それほどの攻撃を受けても、シュバルツの目には怒りは宿らない。


 鉤爪で持ち上げた大地の塊を投げつけられようと、殺意に彩られた瓦礫の弾幕を撃ち込まれようと、はたまたついさっきまでのように機関銃と黄金の鎖で追い詰められようと、


 彼は目の前の友を憎めなかった。仕留めるべき相手として見れず、


「くそ。みっともないな。今の俺は」


 気が付けば涙と鼻水が流れていた。


 友であるガーディア・ガルフを救ってくれた彼らを助けると言いながら、その役目を果たせない自分が情けなかった。


 自分の身内が相手というだけで、母に捨てられた幼子のように泣きじゃくる自分が許せなかった。


 絶対にありえない死者の蘇生を夢見ている自分が愚かだった。


 その全てが目と鼻から零れ、シュバルツ・シャークスはらしくもなく地に伏せながら、今の己の姿を自嘲する。


「アァ――――――――――」


 そんな彼の前でアデット・フランクはか細い声をあげ、右足を前に、左足を後ろに置き、右手に剣を、左手に槍を掴み、龍の顎を形成するように上下に構える。


「!」


 その姿を目にした瞬間、シュバルツの脳裏によぎる記憶があった。






 

 


 

ここまでご閲覧いただきありがとうございます。

作者の宮田幸司です。


ちょいと珍しいキャラクターの心理描写重点回。引き続き劣勢が続いていますがそれもここまで。


次回、回想の末に反撃開始です。


それではまた次回、ぜひご覧ください!

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