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シュバルツ・シャークスVSアデット・フランク 二頁目


 神器『万象縛鎖』は神の座イグドラシル・フォーカスが最強と語る神器だ。

 長さは無限。加えて神器の硬度を宿した黄金の鎖は、使用者の視界内ならばどこからでも空間を裂き現れる事ができ、一度に複数本展開する事が可能な代物だ。


 これだけでも最低限を遥かに上回る性能を秘めているこの神器の真骨頂は、防御や拘束に重点を置いているゆえに、神器の中でも最高硬度を秘めた防御型であること。

 そしてそれゆえに、一度四肢を全て縛られた相手はごく一部の例外を除き、神器の硬度を破ることができないため、動けずになぶり殺す事がかのうだという事だ。


「このッ!」


 ではシュバルツ・シャークスはどうかと言われれば、大多数の枠組みから逸れた存在であると言えるだろう。

 彼はごくごく一部の例外。すなわち素の膂力で神器を砕いたり引きちぎることが可能な埒外な怪物であるのだ。


「シュバルツぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!」

(足に新しい物を巻いていたか!)

「アァァァァァァァァァァァァ!!!!」


 だがそれでも問題が残されている。


 神器が秘めているスペックの問題では断じてない。

 それ以上に単純な話であるが――――アデット・フランクは強いのだ。

 狂化して理性を失ってなお、身の毛がよだつほどに。


「狂ってるなら他の奴らと同じく原始人みたいな単純思考になれってんだ!」


 肉体に沁みついた技術はこの世界に存在する数多の戦士たちの中でも群を抜いた、それこそ『果て越え』ガーディア・ガルフに指をかけるほどのものであり、狂化してなおシュバルツの全力に匹敵するほどのものを秘めており、シュバルツが足に巻き付いた鎖を外すよりも遥かに早く、雄たけびを上げたアデットが腕を引き、あらゆる抵抗を許さぬ徒でも言うように黒雲が敷かれた宙に投げ、一直線に地面へ。


「アァ!!!!」

「ぬぅぉ!?」


 周囲一帯を揺らすほどの衝撃をシュバルツは咄嗟に差し出した右腕で全て受けきったが、アデットの動きは止まらない。

 そのまま体制を立て直させる暇もなく彼の体を再び宙に浮かせると、空中で何度も回転させた末に神の居城を囲うように構成された白亜の壁へと投擲。


「ッッッッッッァ!!?」


 凄まじい勢いを伴い背中から叩きつけられたシュバルツはm丈夫な肉体に宿っていた酸素を全て奪われ、脳と視界が大きくぶれる。


「オォォォォォォ!」

「SHI!??」


 その状態でもなお、数多の異名で呼ばれたシュバルツの動きに陰りはない。

 アデット・フランクが追撃として繰り出した槍の刺突を手刀で容易に弾くと、アデット・フランクの血肉を突き破りながら飛び出た無数の刃をものともせずにショルダータックルを繰り出し真正面にある建物百十五棟を貫通して止まったところで首根っこを掴み、白亜の壁の向こう側にまで投げ飛ばした。


「魔ママ麻真磨!!!!」

「フーーーーーハーーーー!!!!」

「邪魔だ! どけ!!」


 そのまま戦場をラスタリアの外へと移そうとするシュバルツを阻んだのは、周囲に散っていた別の『仮面の狂軍』複数人で、しかしそれらは、シュバルツの『相手にならない』とでも言うような咆哮と共に放たれたフルスイングで、全員明後日の方角へと吹き飛ばす。


「師士死史視しシ四!!!!」

「少しは怯めよお前はよぉ!」


 その一連の動作は時間にすれば一秒にも満たないものだが、シュバルツが一呼吸つこうとしたときには既にアデット・フランクは彼の隣に立ち、両者の怒気の混じった声が重なり真正面からの衝突が開始。


「おぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

「シュゥゥゥゥゥゥゥ!!!!」


 最初の衝突は人切り包丁の神器と黒い靄を纏った、変哲なところなど何もない槍が衝突。接触したところで槍の穂先は粉々に砕け、


「バァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!」


 次に繰り出した湾曲刀も一度の接触で粉々に崩壊。

 三手目の棍棒、四手目の岩の塊も易々と砕き、そのタイミングで背後から奇襲を突くように現れた黄金の鎖も、シュバルツはしっかりと叩き落とす。


「ルツゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥァァァァァァァァァァァ!!」

「しつ、こい!!!!」


 時間にして0.5秒それが続き、ぶつかっては砕けてという結果が一万回を超えたところで、シュバルツがさらに一歩前進し状況の変化を画策。

 繰り出された乾坤一擲の一撃に対し、アデット・フランクが繰り出したのは鈍色の槍による最初と同じ刺突であり、


「あぁ!?」


 叩き切るように刃を振り下ろしたところで、異変に気が付いた。

 接触したものの正体は槍ではなく先端部に刃を付けた三節棍であり、折れ曲がった先端部分が自身の足の甲を深々と抉ったのだ。

 この結果を認識した瞬間、シュバルツの意識は怒りの声と共に、一瞬ではあるが真下に。


「死っ!」

「クソッ!」


 その意識の変化を完璧に見切り、足のつま先から刃を出したアデットの蹴りがシュバルツの胴体へと直進。

 防ぐように腕を掲げた瞬間、シュバルツは気が付いた。自分の足にいつの間にか鎖が巻き付いていたことに。そしてそれが原因で態勢を崩されたことに。


(俺が一歩前に出る事を見切って罠を張っていたのか!)


 それがどのようなタイミングで、自分に気づかれずに巻き付いていたのかをシュバルツは即座に見抜くが、時すでに遅し。

 繰り出された蹴りの角度はこの展開を予期していたかのように軌道を真下に変え、勢いよく降下。

 シュバルツはアデットの脛を掴むことでしっかりと防ぐが、脛を突き破り飛び出た丸鋸が彼の掌を引き裂き、一瞬だけ怯んだ瞬間、彼の全身は黄金の鎖により簀巻き状態に移行。


「足の指先から頭のてっぺんまで武器満載のびっくり人間だな。お前は!」


 投げ飛ばされ、白亜の壁の向こう側まで吹き飛んだシュバルツは、地面に接触する直前のタイミングで鎖を引きちぎり自由の身となると、大樹が根を張るようにどっしりと地面を踏み、


「来い!」


 迫るアデットを前に神器『ディアボロス』を中段に構え咆哮。


「シュバルツゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!」


 負けじと叫ぶアデット・フランクの繰り出す攻撃全てを捌き、


「それはもう見た!」


 槍の一撃に擬態した三節棍のフェイントも、足元に敷かれた黄金の鎖も、完璧に看破した上で大上段に構え、


「――――――――ッ」


 一瞬、動きが止まり、その隙に繰り出された鉤爪の一撃に肉体が引き裂かれる。


(ダメだ)


 そうなった理由は至極単純。


「お前とはできないよ――――――殺し合いなんて」


 覚悟を決めなければ互角にも持っていけない。

 それほどの強敵を前にして、自分の欠点を自覚をしていてなお、この優しい巨人は最後の一線を踏み越える事が出来ずにいたのだ。

 

  

ここまでご閲覧いただきありがとうございます。

作者の宮田幸司です。


康太VSノア・ロマネの時にあったような変化球でもない。

恭介VS李凱の時のような切り札による一発勝負でもない全力全開の泥臭い戦い。


振り返ってみるとに四章前半の最後まで戻らなくてはならないような戦いです。

しかも舞台に立つ二人がそのとき以上に強いと来ました。


頭をひねくり回せばこのまま何話でも書ける戦いの気もしますが、シュバ公がずっとウジウジしていると思うのも違うので、次回くらいで話を大きく動かせれば………………


それではまた次回、ぜひご覧ください!

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