シュバルツ・シャークスVSアデット・フランク 一頁目
『本当にこんなことが許されると思っているのかイグドラシル!』
『許されます! 上手くいけば………………世界が良い方向に進む!』
全てのきっかけ、始まりは千年前のこと。
イグドラシル・フォーカスが既に旗を握り戦火に飛び込んでいた時代。アデット・フランクが死に、埋葬され、ガーディア・ガルフらが悲しみに暮れていた、ある雨の日のことだ。
彼女は危険を承知の上で、死した若者を蘇らせるため、大雨に濡れながら墓荒らしという大罪を侵した。
この時すでにガーディア・ガルフとその仲間達の強さは世界中で知れ渡っており、それゆえ彼女は危惧したのだ。
友が死した事により、ガーディア・ガルフらが暴走する事を。
怒りに身を任せ、世界中に思いもよらぬ災厄を引き起こす事を。
世界を滅ぼしてしまう事を。
彼女は恐れたのだ。
(ここが! 世界の分岐点かもしれないんだ! 頑張れわたし~!)
後々の歴史を見れば、彼らにそのような意志がなかったのは明白なのだが、兎にも角にも当時の彼女は必死で、その状況を改善するために作り上げたのがあるアイテム。
死者蘇生のために作り上げた、真っ白な仮面である。
「死者の蘇生は賢教の長い歴史において、誰も成し得なかった偉業だ! それをこの土壇場で成功させるなど!」
「いえできたはずです! 全ての始まり。粒子を発見し広めた賢者王は万能の天才であった。そしてその中には、死者を蘇生させる術があった。私はそう確信しています!」
「ならばなぜそれが残されていない!」
「死者の蘇生は………………偉業ではない。禁忌なんです!」
「それは一体、どういう?」
背後にいる側近に、雷雨に負けぬよう声を張り上げながら説明するイグドラシルは、訝しむような声に対しても返事をしようとするが声が止まる。
ガツンと、持っていたスコップに何か大きいものが触れた音と感触がしたのだ。
「………………この辺りは火葬ではなく土葬ですから、死体はあるはずです。問題は………………エヴァ・フォーネスが何らかの術式を仕掛けていないかどうかですが…………」
「…………ここまでくれば一蓮托生だ。どいてくれ。能力が相手ならなんとかなる」
恐る恐る掘り起こし、姿を現した木製の棺の表面に優しく触るイグドラシル。
彼女を跳ねのけたのは背後にいる青年で、腰に差していた槍の神器の内の一本を掴みながら接触。しかしなんの反応もなく、安堵の息を吐いたところで棺をゆっくりと開き、中を見る。
するとそこには死してから数日経った、死に化粧がしっかりとされ、冷たい土の中だった故か未だ腐敗臭をさせていないアデット・フランクの姿があり、
「………………お願いです。どうか。どうか彼に再び光を!」
縋るような声を絞り出しながら、イグドラシルは手にしていた仮面を顔に装着。
一秒、二秒と、雷雨の音さえ聞こえない緊張が続き、
「!!!!」
轟く雷鳴を背景に立ち上がる。死したはずの若者が勢いよく。
「や、やった!」
その姿を前にして顔を綻ばせるイグドラシルであるが、その表情は直後に凍る。
「退け!」
「ギルガリエ!?」
自身の顔面へと向け振り抜かれる手刀。その威力は凄まじく、背後に控えていた二槍の達人は防ぐために差し出した両手に奔る痺れに顔を歪め、
「Sibaaaaa………………」
直後に彼女らは理解する。
実験は失敗したと。しかし………………完全な敗北ではないと。
事実アデット・フランクは動き出し、この経験をもとに彼女は目指すことになるのだ。
完全なる死者の復活。そして不死身の仮面の軍団の作成を。
シュバルツ・シャークスは――――――嘘をついていた。
誰かに対してではない。自分に対し嘘をついていた。
なぜなら彼は、途中から気づいていた。いやもしかしたら最初から察していたのかもしれない。
ガーディアが不在の時、賭博の楽園で始めて戦った時から。
断片的に自分の名前を呼び、数多の武器を使いこなす姿を前に、既視感を覚えていた。
だがそれでも無視した。
最も得意な鎖だけは使わずにいたゆえに。
大切な友が――――怨差の叫びをあげながら自らに襲い掛かるなど、信じたくなかったゆえに。
彼は見て見ぬふりをした。
全てが白日の下に晒される前に、何も知らず退ける事を選んで。
けれどどうしても手にかける事が出来ず、自然と最後の一線だけは踏めず。
「シュシュシュシューーーーーーシュバルツゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!!!!!」
そんな中途半端な選択が今、彼に対し牙を剥く。
虚空を裂き現れた、先端部にひし形の鋭利な刃物を付けた黄金の鎖。これを振り回しながら、これまでとは比べ物にならない勢いでカオス………………否アデット・フランクは襲い掛かる。
「アデット! 私……いや俺だ! 話を、話を聞いてくれ!!」
「阿婀嗚呼合唖堊あァァァァァァァァァァ!!」
「お、おぉ!?」
その練度はこれまでの比ではない。
生前を遥かに超える勢いと技量で、右手に掴んだ黄金の鎖を操作。
目前の存在の破滅を願うように、殺意に染まったそれを空中で回転させ続け、空気を震わせる。
「ッ!」
その動作から勢いよく横一文字に振り抜かれた鎖は、アデット・フランクの視界に飛び込んだ全ての物質を真っ二つに両断し、その光景を見届けるよりも早く、左手の骨と肉と皮膚を突き破って現れた鉤爪でシュバルツへと接近し攻撃。
「クソッ!」
本来のシュバルツならば、防ぐだけに留まらず手痛い反撃を行っていただろう。
しかし今の余裕のない彼では防御するのが精いっぱいで、普段のように踏ん張ることもできず背後に飛び退き、そこで目にする。
(二本目の鎖を左手に!? 一本だけしか出せないわけではないのか!)
右手だけではない。左手にも黄金の鎖を装着し、腕を真正面へとかざすと同時に弾丸のように打ち出される光景を。更にそこから地面に潜り、上昇と降下を繰り返し、いくつもの山を描きながら自分へと迫る姿を。
「――――むん!」
その脅威を、今度はしっかりと跳ね除ける。
神器を壊せる彼は、迷うことなく迫る脅威を両断。
黄金の鎖はひし形の刃物が付いた先端部から砕け、宙に光り輝く破片を飛び散らせた。
「シュ、シュシュシュシュゥゥゥゥゥゥゥ!!!!」
「話を聞かないというのなら! まずは! その鎖を貰う!」
続く距離を詰めながらの右腕の一振りから放り出される鎖の一撃も、今度はしっかりと粉々に砕き、今度こそちゃんと話し合おうとシュバルツは憤怒の表情を晒し続ける友にまっすぐに向き合い、
「これは!?」
思い知ることになる。
自分の目論見があまりにも甘すぎたことを。
何の前触れもなく、突如虚空を裂き現れた無数の黄金の鎖。
それはアデット・フランクが掴むまでもなくシュバルツの四肢にしっかりと巻き付き動きを制限。
「こんなものぉ!」
彼はすぐさま自慢の筋肉で無理矢理砕くが………………遅い。
「ガッ!?」
「ァァァァァァァァァァ………………………………」
既に距離を詰めていたアデット・フランクが突き出した左手の鉤爪が彼の鍛え抜かれた胸板に深く突き刺さり、
「アアアアアアアアァァァァァァァァ!!!!」
耳を塞ぎたくなるような痛ましい絶叫と共に差し出された右腕から飛び出た砲身。
そこから放たれた鈍色の光が、シュバルツの全身を包み込んだ。
ここまでご閲覧いただきありがとうございます。
作者の宮田幸司です。
シュバルツ・シャークスVSアデット・フランク本格始動!
これまでの二戦より一段階上の実力者同士の真正面からのガチンコ対決の始まりです!
なお本編でも詳しい説明がされますが、今のアデットは死亡時よりも遥かに強いです。
死んでも動き続けたため、経験値を溜めまくったとでも思っていただければ。
この二人の戦いは今回から中盤戦。ぜひぜひ最後までご覧ください!
それではまた次回、ぜひご覧ください!




