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THE SHAKE 三頁目

先にこちらで謝罪を。

前回の話でノアが待ち構えているのが二階。カオスが三階と記述しましたが、こちらは誤りです。

本来はカオス二階のノア三階となりますのでよろしくお願いいたします


(時間がねぇな)


 三階で繰り広げられている戦いはなおも続いている。

 両者共に得意である中・遠距離を捨て挑んだ近距離での殴り合いは互角。

 否、わずかではあるが康太優勢の様相を示していたのだが、いち早く焦燥感に駆られる事になったのは有利に立ち回っているはずの康太であった。


(あと――――十五分!)


 彼が意識し出したのは、生まれてこのかた延々と己の頭を悩まし続ける命題。粒子の枯渇である。

 生まれつき他と比較して粒子量が少ない康太は、ブースターの類を用いたとしても潤沢な粒子を備える、ないし自動的に補給される者のように長期戦を挑むことが出来ない。

 手にしている銃の神器のみ内蔵した疑似銀河の運営により半永久的に銃弾を撃ち続ける事が出来るが、少なくとも他の粒子術や能力の使用は、かなり慎重に行わなければならないのだ。


 その生まれ持った弱点は今、彼の身にはっきりと襲い掛かり、


(ここで――――――決める!)


 この状況を打破する。すなわち勝負を決めにかかる決断を彼はする。


「オレの残り粒子全てを! この衝突に!)


 ツリ目気味の猫のような瞳を僅かに細め、肩に巻いた土方恭介から貰った鉢巻をたなびかせながら、この戦いに終止符を打つため疾走する。

 十五分ほど持つはずであった粒子を燃料として続々とつぎ込んでいき、これにより康太の肉体に大きな変化が訪れる。


「ここにきて速度が上がるだと!? 貴様! 今まで手を抜いていたな!!」

「切り札晒すのは勝負を決める時だけだって決めてるんでなぁ!」


 康太の速度が増す。

 接触型の罠の機動を置き去りにできる速度にまで到達する。

 康太の反射神経が増す。

 迫る攻撃の嵐全てを躱し、ノア・ロマネの繰り出す斬撃を十分に躱せるだけの余力を得る。

 康太の放つ拳の威力が桁違いの物に変貌する。

 速度と反射神経の上乗せされた状態で繰り出される銃身の殴打は、ノア・ロマネの全身を執拗に叩き続け、血の華を咲き乱す。


「おおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「ぐ! つぁっ!? お、ぶば………………っっっっ!!」


 防御させる隙を与えず、回避なども絶対させない。それどころか衝撃により吹き飛ぶ暇さえ与えぬ勢いで殴り続け、


「調子に………………」

「!」

「乗るな!」

「乗ってねぇよバカヤロウ!!」

「!?」


 ノア・ロマネ必死の反撃を、発射台である腕を掴む事で容易くあしらい、頭上から降り注ぐ攻撃を防ぐための盾として利用。

 神器の能力無効化により、全身を紙にして逃げる事が出来ない彼の身に自身が繰り出した数多の属性攻撃が突き刺さるが、康太は手を緩めない。

 叫び声をあげる暇さえ与えず地面へと叩きつける。


「!?!?!?!?!?!?」


 数多の攻撃を受けても崩れることのなかった硬度の床がノア・ロマネの顔面を潰し、その結果を見るよりも早く、振り抜かいた蹴りが鳩尾に直撃。

 空気が口から抜けていく音を聞きながら、康太は彼が吹き飛んでいくのを見届け、


「決める!」


 壁に衝突した瞬間をしっかりと見極め、血に濡れ、真っ赤に染まった二本の銃の狙いをノア・ロマネに。


「仕留める!」


 一切の躊躇なく引き金を絞ると、この戦いを終わらせるべく銃弾は撃ち出され、


「――――――銃弾の定理バレットライン


 降り注ぐ紙片から繰り出された鋼鉄の道に触れると、鉄の道の上を進み、結果的にノア・ロマネから少々離れた位置に突き刺さることで制止。


「…………銃弾の軌道を変えるのか? いやだが、俺の放つ銃弾は能力無効化の力が………………」

「あらゆる軌道を想定して作られたこの鋼鉄の道に能力は使っていない。これは複雑怪奇な計算の末に導き出された、対銃弾用の道具。つまりお前専用の対策だ古賀康太」

「!」


 思わぬ状況を前にして、警戒心を勢いよく引き上げ、状況の変化を見守っていた康太の前で、ノア・ロマネは立ち上がる。


 致命傷に近い数と深さの傷を、瞬く間に修復しながら。


(仕留めきれなかったか!)


 この結果に対し顔を歪める康太は、しかし諦めるような素振りは見せない。

 全ての粒子を捧げた特攻を行ったとはいえ、秒数にすればほんの二、三秒の出来事だ。

 であれば未だ十分に動けるだけの余力が残っており、目に見えるほど顕著な疲労を抱えているノア・ロマネが相手ならば、もう一度好機が巡ってくる可能性は十分にあると思い、


「もう十分だろう」

「あ? テメェ何言って」

「注げ、活力のイエローレイン


 目にすることになるのだ。


 自身の頭上で一枚の紙片を開いたノア・ロマネに起きた変化を。


 降り注いだ輝く雨が体に付着した直後、鋭い刀のような瞳にできていた真っ黒な隈が消え去り、積もりに積もった疲労により荒くなっていた息が正常に戻り、顔色が見る見るうちに健常者の物になっていく様子を。


「なぁっっっっっっ!?」

「哀れだな古賀康太。術技や能力のストック数だけならば、デュークを遥かに超える私が、本当に疲労回復の力を持っていないと思っていたのか?」

「なら、なんで………………今まで」

「決まっているだろう。心底許せぬお前を――――絶望の底に沈めた上で殺すためだ!!」


 とはいえ纏う悪意に怒気。発するテンションだけはそのままに、攻め入るためにノア・ロマネが一歩前に進み、


「っ!」

「無駄だぁ!」

「ぐがっ!?」


 たったそれだけの事で、全身を支配するような警報が康太の脳内に鳴り響く。

 ゆえにすぐさまその場から離れるが――――遅い。

 気が付いた時には背中に数本の剣がぶつかり、強化された肉体の皮膚を貫き、肉に刺り血が流れる。


「んのやろう!」


 異能による直感ではない。もっと漠然とした、しかしはっきりとした感覚が康太を突き動かす。

 ここで勝負を仕掛けなければ、この戦いは自身の死で終わると理解する。

 ゆえに再び全力全開で『超人化』を起動し、


「そうか! まだ余力が残されていたのか! それだけは予想外だ! だが!!」

「ッッッッ!!」

「全て無駄だ! 無駄! 無駄! 無駄ぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 ノア・ロマネは、そんな康太の抵抗をも嘲笑う。

 先ほどまでとは別次元。

 範囲も速度も、威力も連射性も、全てが比較にならない攻撃の嵐を撃ち込んでいく。


 これまでのような駆け引きなど全くない、単純明快な質量攻撃で、康太の行く手を遮り、瞬く間に壁に叩きつけた。


「な、め、る、なぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 まさしく絶対的な力の差を思い知らされた康太であるが、だからといって大人しく受けに回るつもりはない。

 このまま座して待てば、待ち受ける結末は『死』だけであると理解しているゆえに、全身が悲鳴を上げるが理性を捨てる事で吹っ切り、歯を食いしばりながら、攻撃の圧が薄い場所へと即座に移動。立て直そうと考え、


「相手の思考能力を奪い、余裕をなくし、ミスを誘う。今までお前が私にやって来たことだ」


 直後、康太が避難場所として移動した所で待ち構えていたノア・ロマネが腕を振り抜く。


「――――――――!」

「終わりだな」


 それは理性を投げ捨てた故の代償か。はたまた意図的に誘導された故か。

 なんにせよ康太の右腕は吹き飛び、


「雷鳴一閃!」


 続く雷纏いし一太刀で、両足のくるぶしから先が消え去った。


「我が妹アークの無念を! ここに晴らす!!!!」

「ッ!」


 終止符とばかりに振り抜かれたのは首を狩るための一撃であったが、康太はこれを左手に持っていた神器で防御。

 しかし踏ん張りがきかない空中で耐えきれるはずもなく、二度三度と跳ねて鮮血で床を汚しながら壁に両方の足首と右手を失た康太がぶつかり、


「勝機などとうになくなっているのにまだ足掻くか。まぁいい。アークが味わったであろう絶望を、その身にもう少しだけ叩きつけてやろう!」

「だから………………オレ達は関係ねぇっての」


 心底からの怒気を込めたノア・ロマネの一言に、うんざりした様子で答えた。


「………………」


 だとしても、それは事態が好転するきっかけにはならないと康太の冷静な部分が指摘。


「………………………………………………」


 思わず目を閉じ諦めようかと思った康太は、


『いや勝ち方なんて色々あるだろ。そこらへんお前も単細胞だよな』

『うっせぇよ』


「………………………………………………………………あ?」


 そのタイミングで脳裏を掠めるのだ。

 今より数年前に行った、とある会話を。

ここまでご閲覧いただきありがとうございます。

作者の宮田幸司です。


遅くなってしまい申し訳ありません。本日分の更新です。

互角に近い戦いから一転。急転直下の如き勢いで戦いは康太劣勢の状況に変化します。


とここで彼が思い浮かべたのは過去の記憶。

これが一体何を示すのか、気になる続きは次のお話で!


それではまた次回、ぜひご覧ください!!

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