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異能殺し


「動きを止めたな。ならば――――その首をいただく」

「そう簡単に首渡すかっての!」

「………………ちっ」

(折れた? てことはなのある名剣ではないのか!?)


 ノア・ロマネが手にしている黄金の剣は、実のところ大した業物ではない。

 確かな価値を秘めてはいるのだが、切れ味や硬度に関して言えばそこまで特徴のあるものではなく、むしろなまくらの類に属する品だ。

 これを手持ちの中でも最大の一品と彼が言いきる理由は、そこに付与した様々な術式や能力にある。


 少し前に康太の予想した通り、黄金の剣にはめ込まれている宝石には様々な術式が組み込まれている。


「無駄な抵抗を続けるな。どう足掻いてもお前は勝てん。そういう用意を私はしてきた!」

(再生するのかっ。厄介だなおい!)


 まず初めに、基本にして最も重要な修復の術式。

 黄金剣や術式や能力が刻まれた宝石が破壊された場合、すぐさま修復するために必須のもので、破壊されても機能するよう、一つだけでなく二つ内臓されている。

 次に剣の達人などではノア・ロマネが、数多の攻撃に反応する事が出来るための自動反応・自動追尾の能力。

 神器の能力無効化は、個々人の肉体の内部で発動する身体強化には通用しないため、これを使う事でノア・ロマネは防御面を強化。


「燃え尽きろ――――!」


 攻撃に関する面においては炎を纏うという単純な殺傷力の上昇は勿論の事、伏せている手札がいくつかあり、先に紹介した術技や能力の消費コストを抑えるための増幅装置ブースターももちろん内蔵している。


「そうら。次だ」

「クソッ!」


 このように彼は様々な力をこの剣に込めていたのだが、康太を最も苦しめるのは、対『異能』。すなわち康太のためだけに用意した『異能殺し』の力である。


「どうした? いつもの精細さがなくなっているぞ?」

「おかげさんでなぁ!」


 この力の効果は実に単純。

 『あらゆる異能を無効化』するというもので、これにより康太の異能『危険察知』は効果を発揮できず、つい先ほど太ももに深い傷を負うという結果になったのだ。

 無論これは能力にカテゴライズされるものである。

 なので康太の持つ神器による能力無効化の範囲。すなわち半径十五メートル内に入れば無効化されるものであるのだが、ノア・ロマネは万人が厄介視するその力を逆に利用する。


(わかっちまうのが逆にめんどくせぇ!)


 康太の異能『危険察知』は常に発動しているタイプで、よそ見していようが眠っていようが、はたまた回避不能の攻撃が迫っていようが自動的に発動するもので、この特徴が今、康太を苦しめている。

 

 『命の危機があればあらゆる攻撃に否が応でも反応してしまう』という特性を利用した。


「さあ次だ。足掻けよ古賀康太」

「クソッタレがぁ!」


 康太の周囲一帯に敷かれた紙片が数多の攻撃を繰り出す。

 その形は多種多様。

 人一人を容易くを包めるほどの規模の炎の渦もあれば、針のように細くとも貫通力に秀でたレーザーもあり、その全てが康太に牙を向けている。

 

 無論それらには黄金の剣に込められている異能無効化が付与されているため、攻撃が残り十五メートルの距離までは気づかれずに接近。

 そこから更に迫ることで康太はやっと神器に付与された能力無効化が発動し、異能『危険察知』の効果を発揮できるようになるのだが、これは康太にとって決して良い事態とはいえない。


 迫る攻撃の中には既に回避や防御が間に合わない物がいくつも含まれるのだ。


 だというのに康太持つ異能は不必要に反応してしまい、康太の脳と精神と集中力は消耗される。


「そうら。隙だらけだ!」

「ぐ………………おぉ………………!」


 ノア・ロマネの狙いはそこだ。


 彼は先に述べた三要素。

 つまり康太の『脳』と『精神』と『集中力』をゴリゴリと削り取っていき、その結果生まれた隙間に黄金の剣や視認しにくい風属性を用いた攻撃を潜り込ませ、当てていく。

 言うなれば普段ギルド『ウォーグレン』の若人が、格上相手に行っている戦術をそっくりそのまま叩きつけているのだ。


(いざ自分が受けるとここまで厄介か!)


 浅くだが右肩を切られ、宙を舞う自身の血潮に顔を歪める康太。

 そのタイミングで康太は僅かに怯み、その隙に撃ち込まれた斬撃を何とか回避。

 しかし直後に連撃とばかりに腹部に強烈な蹴りが入り、康太の口中が鉄の味で埋まり、二歩三歩と後退。


「ふん!」

「二度も三度も追撃を食らうかよ!」

「おのれっ」


 更なる一撃を今度はしっかり躱し、反撃の肘鉄を鼻先へ。僅かなあいだではあるが、攻撃の来ない空き時間を作る。


「まだ足掻ける、いや余裕があるか。『超人化』か。厄介なものだ」

「そりゃどうも!」


 となればこの戦いで負った傷全てを、手元にある水属性の箱を開け回復し、すぐに前に出て手にした神器の銃身を顔面に叩き込むが、全身に張り付く冷や汗は止まらない。


 水の箱単一では疲労や集中力の回復ができないからというわけではない。


(このままいけば十分も持たないか?)


 もっと単純な問題。康太の元々少なくて頼りがない粒子が、長期戦にもつれ込むことにより枯渇する可能性がチラついたゆえだ。


(だが、ここは攻める時だ!)

「来るか!」

 

 だとしても康太は一歩たりとも退く気はない。

 それは自分同様ノア・ロマネにも限界が迫っているという事を、こけた頬と鋭い瞳の真下にできた分厚く黒い隈。それに荒い呼吸から読み取れるゆえで、だからこそ康太は一歩たりとも退かない。


「おらぁぁぁぁ!」

「ヌゥッッッッ!!!!」


 まっすぐに振り下ろされた斬撃を体を捻って回避し、その捻りを拳に乗せ、亡き善のような声をあげながら打ち込む。

 無論その一撃は自動反応の力を持つ黄金の剣により防がれるが、『超人化』により強化された肉体から放たれた一撃は、さしたる強度を備えていない剣を容易に砕き、


「お、ぉぉぉぉぉッ!!!!」


 奥に控えるノア・ロマネの胴体に直撃。彼の肉体を数十メートル先の壁に叩きつけた。

 続く第二撃で心臓を射抜こうとするが、それは頭上から降り注いできた攻撃を回避するため中断され、けれど康太は実感を沸く。


(ギリギリではあるだろうな。だがこのままいけりゃ!)


 この戦いは決して勝算のないものではないと。

 薄氷一枚よりも遥かに厚くしっかりとした勝機を把握し、必ず掴んでみせると内心で意気込み、


(このままならば勝てる、などと思ってる空気だな。あれは)


 そんな康太の姿を手に取るよう正確に把握し、壁に叩きつけられ僅かに俯いていたノア・ロマネはほくそ笑む。


 悪しき愚者は、未だ自分の想定を超えることはないと思いながら。




「よし! 四階に到達するぞ!」

「………………先陣は俺がきる。お前たちは後ろにつけ」

「なら最後尾は俺だな。何かあったらすぐに能力を使う。だから掛け声を頼む!」


 二階をシュバルツに任せ通り過ぎ、康太とノア・ロマネが戦いを繰り広げる三階を超えた四人の若人が、四階へと繋がる最後の一段を登りきる。


「………………奇襲はない。相手は――――」

「――――そう。ここまで来ちゃったのね」

「………………そうか。あんたが相手か。ならここが、この戦いの大一番だな」


 直後、さして目立つ障害物もない、ノア・ロマネが座していた二階に似た空間で待ち受ける刺客と相まみえる。

 

 赤から金色へと変化する、太陽のような美しさを帯びた長髪に、人々を魅了する美しい貌。

 深海を連想させるような藍色の着物の上から羽織っているのは、その日の気分によって色を変える半纏なのだが、此度の色は何者にも染まることがない事を訴えかけるような黒色で、背中からは彼の者の象徴である虹色の羽。


「悪いが俺達はあんたの主人を止める必要がある。だから今回ばかりは押し通させてもらう!」

「ここから先に行ったところで、待ってるのは死だけ。だから、ここで止まりなさいギルド『ウォーグレン』。そしたら私からは手を出さないと約束する」

「お姉さま。もしアタシ達が嫌だと言ったら?」

「………………………………ここで朽ち果てるだけよ。当然でしょ?」

 

 すなわち――――セブンスター第一席。

 『不死鳥の座』アイビス・フォーカスが立ち塞がる。




 


ここまでご閲覧いただきありがとうございます。

作者の宮田幸司です。


白熱するVSノア・ロマネはここから更なる変化が起こります。

なお、本編で書くと長すぎるため省略したのですが、『異能無効化』の能力を神器の『能力無効化』の網を超えて付与した方法は、


必要な粒子を範囲外へと放出→付与する物に接触→粒子を決まった手順で混ぜ効果を発動

といった感じです。

言うなれば範囲外に出てから組み立ててるわけです。


ここら辺をプログラムしておけば、いちいち思い浮かべなくても命じるだけでやってくれるのがオート操作の利点ですね。


それではまた次回、ぜひご覧ください!

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