THE SHAKE 二頁目
振り返ってみればなんとも冷たく血生臭い人生であったと康太は考える。
共に過ごした蒼野が凄まじい甘ちゃんであったゆえ、そのバランスを取るために厳しい視点になった自覚があり、けれど後悔は微塵もない。
選んだ道は正しく、その成果として今も大切な義兄弟は生きているという実感があるのだ。
「しねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
「………………ッ」
だというのに今、彼はいつものように力を振るう事に躊躇していた。
胸の奥を刺すチクリとした痛み。
それがたまらなく嫌だった。
「やはり五人の中ではお前が一番厄介だよ古賀康太!」
「お褒めいただいて光栄だよクソヤロウ!」
『神の居城』二階フロアの戦いは互角の状況が続いていた。
攻撃の割合を見れば八割方がノア・ロマネによるもので、康太の繰り出す攻撃の数はあまりにも少ない。
シロバや蒼野が使うような巨大な竜巻が、ヘルスが撃ち出すような雷の砲撃が、アイリーンが駆使するような光る剣が、他にも数々の強烈巨大な攻撃が、絶え間なく康太に迫る。
「おのれちょこまかと!」
ゆえに一見すればノア・ロマネが有利なように思えるのだがそうならない理由が康太にはあった。
「馬鹿みたいに騒いでなきゃやってられないくらい疲れてるんだろ? ならとっとと眠れよ」
「地雷の類か!? 小癪なぁ!!」
異能『危険察知』と、優れた銃の腕前。それに攻撃の多彩さ。
これら複数の要素がが絡まり、状況は五分五分になっていた。
特に十属性の増幅と、合体させることで多種多様な形での発露が可能な神器『天弓兵装』による妨害は効果的だ。
ノア・ロマネが初めて目にする、雷と鋼と炎を混ぜた設置型爆雷。これが爆発したことで彼は攻撃の手を緩め足踏み。
「そこだ」
「おの、れぇっ!」
その一瞬を、康太は決して見逃さない。
照準を合わし引き金を引くまでの動作を、亡きヒュンレイから習った『クイック』で瞬時に行い反撃。
放たれた弾丸は目標の肩を抉り、けれどすぐに紙片から取り出した治療薬を使われ、傷は塞がり亡くなった分の肉が補充。
「アンタが相手だと脳天ぶっ飛ばす即死か気絶じゃなけりゃ意味がねぇんだよな。めんどくせぇことありゃしねぇ」
グロテスクな光景を前に苦い顔をしながら呟く康太であるが、勝ちきれない理由はそこにあった。
実に単純な事に、全身を無数の紙片に変えられるノアを仕留めるならば、能力無効化の効果が付与されない『天弓兵装』では意味がなく、銃弾で射抜かなければならない。
しかも口にした通り、脳を一発で射抜くか、昏睡状態に持ち込まなければ勝ち目がないと来た。
「面倒な銃弾だ。まさか神器の能力無効化の力を付与されてるとはな……………………これは戦い方を変えるべきだろうな」
とくれば自身が死ぬ可能性は僅かなものである。
そう理解しているがノア・ロマネは、しかし微塵も油断しない。
ごく僅かな敗因を潰すため、手元に置いた紙片の中から一本の剣を取り出した。
「そいつは…………」
「わざわざ貴様の戦場で戦う必要もない。手持ちの中でも最高クラスの物を使って、一気に仕留めさせてもらおう!」
彼が手にした剣は、柄に無数の宝石を嵌めた柄から切っ先まで黄金色の豪華絢爛な両刃剣であったのだが、目にした瞬間、康太の脳が警報を鳴らす。
あれは危険極まりないものであると瞬時に理解し、
「――――ふっ!」
その意味をすぐに知ることになる。
ノア・ロマネの体が、ゼオスの神器が駆使するのと同様に瞬間移動で真後ろにまで移動してきたのだ。
(首!)
目にすることはできずとも、『危険察知』の異能により首元に熱い感覚が迸る。
直後に、一切の躊躇なくしゃがむ康太。
「チッ」
必殺の意思を込められた大振りはこれにより空を切り、追撃のためノアの腕はすぐに下に向けられ、
「オレが接近戦を苦手としてる? そりゃそうかもしれないが、アンタだって人の事は言えねぇだろうが!」
それが到達するより早く、跳ね上がった康太の蹴りがノアの腹部へと撃ち込まれ――――防がれた。
突如攻撃の軌道が変化し、黄金の両刃剣が間に入って来たのだ。
「あぁ!?」
「貴様の言う通り、私は接近戦が不得手だ。だからこそ、その面を補う力もこの剣には存在している!」
(自動防御の類か!)
ノア・ロマネの咆哮の意味を察し、考えるよりも先に飛び退く康太。
同時に振り絞られた引き金により撃ち出された銃弾はノアの顔面へと正確に飛んでいくが、ノア・ロマネの焦点が銃弾に定まっていないにも関わらず、手にした剣で防がれる。
つまり康太の予想が的中したというわけだ。
「キリがねぇな!」
そうしている間にも康太の脳は警報を鳴らし続ける。
危険を感じた方角は前後上下左右全てに渡り、康太は即座に木と土の箱を粒子を補充し開封。
土壁と大樹の幹が、紙片から繰り出される破壊光線や巨大な氷柱を防ぎ、
「雷! 地! 風! 光! 鋼!」
「!」
「こっちはあのクライシス・デルエスク相手に粘ってんだ。なめんじゃねぇ!」
本命である胴体を狙ったノア・ロマネの突きを、脇腹に掠った程度に抑えたところで声をあげ、五色の箱を合成した箱を開封。
十色の箱からなる『天弓兵装』が持つ奥義の一つ。肉体強化『超人化』が発動する。
「オレが接近戦が苦手だから、ぶち殺せるって算段だったよな?」
「むっ!?」
ノア・ロマネが繰り出す炎を纏った斬撃をこれまでの比ではなく機敏な動きで躱す康太。
その身は反撃を打ち出すには十分な余裕があり、拳の先には真っ白な銃の神器が握られ、
「ならよぉ!」
「ッッッッ!!」
鈍器として振り抜かれたそれは黄金の剣による防御の向こう側にまで衝撃が伝い、神器のよる攻撃のためノア・ロマネは体を紙にして散乱させることが出来ず、表情を苦痛に満ちたものに変化させながら後方へ。
「小癪な真似を!」
「その接近戦で!!」
吹き飛ぶ最中、追撃を阻むように天井に張り付くように設置させていた紙片から攻撃の数々が打ち出されるが、『点』を狙った攻撃は強化された反射神経と異能『危険察知』の合わせ技で易々と躱し、躱しきれない範囲を持つ『面』攻撃は、時に手にした銃を鈍器として振り抜き、時に残った箱を開き、相殺させて突破。
「ぶち殺してやるよ!!!!」
「きさっ!」
拳の届く距離まで近づいた瞬間、振り抜かれた黄金の剣の一撃を躱し、顔面を殴打。ノア・ロマネの肉体はこれまでにない勢いで吹き飛び壁に叩きつけられ、
「ブァッ!?」
「私を………………舐めるなよ外道がぁ!!」
しかし自身の右太ももが大きく抉られる。
それは攻撃された瞬間に繰り出したノア・ロマネ必死の反撃で、未だこの戦いの趨勢が決まっていない証であった。
ここまでご閲覧いただきありがとうございます。
作者の宮田幸司です。
最初から全身全霊の全力全開。互いの命を絶つための戦いが本格始動です。
攻撃の規模や手段の違いはあれど、互いに得手不得手が似通っている者達の戦い。
それを一階フロア以上の規模で描きます。
彼等のテーマが何かは、終わった時に覚えていれば語らせていただきます。
それではまた次回、ぜひご覧ください!




