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土方恭介VS李凱 三頁目


 数多の戦場を渡り歩いた李凱は、当然それに比例して様々な能力や粒子術、それに練気をその眼で見てきた。

 その中にはもちろん粒子の無効化や吸収もあったが、それでもこれほどの規模は初めてのものであると確信をもって言えた。

 

(これはなんとも………………派手にやってくれるではないかっ!)


 端的に言うとそれは超協力ん掃除機のようであった。

 恭介が掌の上に置いた銀の正方形。それに向け、強固な結びつきをしている『神の居城』を形成している粒子が吸収されていく。

 いやそれだけではない。

 先ほど行われた恭介による攻撃の嵐。

 それを耐える立役者となった椅子や机、他様々な物体でさえ粒子結合が解かれていき、先端部分から順に崩れていく。


「数分、といったところか………………………………」


 唸るような声で、原型を失っていく機材を見つめる李凱。

 彼の頭の奥に浮かぶのはそれらが解けてなくなるまでの時間ではない。


 このままいけば戦いが終わりを迎えるタイミングだ。


「では――――――」


 

 彼の見ている前で、吸収された粒子が土方恭介の肉体へと還元されていく。

 それにより大小様々な傷は消え、失われていた粒子も徐々にではあるが補充されていくことが一目で把握できる。


 つまりこのまま指を咥えて見ていれば、彼は十全になった恭介と再び戦う事になり、それに比例して彼は利用していた障害物を使えなくなってしまう事になるのだ。


 言うなれば今の彼は絶体絶命。

 ここで無理をしてでも足掻いて攻勢に出なければ、勝機を失う状態に陥ってしまったわけである。


「征くぞ!!」


 だというのに、彼の顔に浮かぶのは笑みであり、全身を包むのは歓喜の念だ。


 一手間違えれば敗北する。

 そんなギリギリの戦いを前に凄烈な喜びを感じ、己が肉体を駆け巡る血潮を、脳を、全身を沸騰させ、それを示すように、自身の身を纏う練気の勢いが増していく。


「貴方は………………化物だな」


 その光景を前に恭介は半ば呆れながら苦笑する。

 悠然とした足取りで李凱が一歩踏み出す度に揺れる一階フロア。

 近づく度に増していく身を潰すような練気による強烈な圧。

 それ等に息苦しさを覚えながらも彼は動じない。


 一歩ずつ迫ってくる李凱から距離を取るようにステップを踏み、集めた粒子を躊躇なく虹色の弾幕に変換。

 腰を落とし、一気に距離を詰め始める李凱の肉体へと向け、一斉に打ち出していく。


「カカ!」

「!」


 結果、戦狂いの両肩の端が削られ血の帯が宙を舞い、足元に当たった弾丸の余波が履いている黒い革靴の先っぽを変形。その奥に隠れてる親指が過剰に曲がるのだが、なおも獰猛な笑みを浮かべる李凱は怯むことなく距離を詰め、凶拳を発射。


 しかしそれは、恭介には向けられない。


 打ち出したのは恭介の肉体から右に五十センチほど離れた位置であり、全てを射抜く意志で打ち出された拳はまっすぐに伸び―――――『ガキン』と、嫌な音が二人の耳に届いた。


「手品の種は割れたぞ。次はどうする?」

「チィッ!」


 恭介が舌打ちして後退した直後に地面に転がったのは、手にしていた箱と同じ銀色をしたカード。

 掌では僅かに包めないサイズのそれが砕けたと同時に屋内全域を埋めていた力の塊。アイビス・フォーカスが得意とする十属性の弾丸は掻き消えた。


「ワシらが使っているメモリーの最大強化版といったところか。それを透明化させて浮かせていたようだが、探知すればすぐにわかる」

「クソッ!」

「たとえ粒子を持っていようと、使う手段がなくなれば無用の産物よ!」


 恭介が行っていた攻撃の種を自慢げに語る李凱を前にして、恭介が次に展開するのは、己が身と自分の側に置いたカードを守る、光の刃をこしらえた光輪。アイリーン・プリンセス由来の技術だ。


「見抜いたわ!」


 だがそれは李凱とてすでに何度か見た物で、加えて言えば恭介は本来の担い手ではない。

 であれば光輪の操作練度はアイリーンと比較し遥かに劣り、目が慣れた李凱ならば回避ないし破壊も可能であり、離れた分の距離を再び詰め、拳を連射。


「弾幕が消えんな。だがお主の身を守る光輪は消えた………………という事はもう一枚は面倒な治療術か?」


 二枚のカードを壊すと光輪は消え、李凱の言う通り、先ほどまで使っていた回復術まで失うことになった。


「残るはあと一枚か。中々楽しめたぞ。謎の男よ」


 空を飛ぶために必要な羽がもがれただけに留まらず、手足の大半を失ってしまった天使。


 それが今の恭介を表す状態であると李凱は考え、彼にしては落ち着いた口調で語り出す。


「………………まだ勝負は終わっていないうちから勝ち名乗りか? ずいぶんと余裕じゃないか?」

「言いよるな! ならば命尽きるその瞬間まで! ワシを楽しませるがよいわ!」


 しかし不敵に笑い強気な態度を見せる恭介を前にすれば、直前までと同じ猛るような言葉で語り始め、虹色の練気を纏ったまま、距離を一気に詰めていく。


「行け!」


 応じるように回復させた練気全てを消費する恭介。

 その姿はここが正念場であると明確に理解している故で、その意図を汲み取った李凱の笑みはより一層深いものに。


 人間でも獣でもない。

 人外の者としか凶悪な笑みを浮かべた彼は、これまでのように様々な機材を盾にしない。


「龍装!」


 身に纏う虹色の練気が、乾坤一擲の意志と叫びに呼応し姿形を変えていく。

 それは龍の頭部を模したものであり、その中に担い手である李凱をしまうと、彼の勇ましい疾走に合わせて前進。


「なにっ!?」


 降り注ぐ十色の弾丸全てを真正面から捻じ伏せ、立ち塞がる恭介を開いた咢で飲み込み、


「むぅん!」


 その奥で、なおも粒子の吸収を行う銀の箱を李凱は砕く。

 カードと比べると遥かに強固なそれは、しかし宇宙一固いと言われる神器ではなく、であれば彼が二度三度と叩けば容易く砕け、


「………………………………っ」


 エヴァの使う弾幕の力を宿したカードは壊されずに済んだのが、粒子切れにより停止。

 これにより展開していた恭介の手札は無意味な物に成り下がり、


「さらばだ! 強き者よ!!」


 勝利を確信した李凱の拳が、龍の咢に呑み込まれたダメージから俯いた恭介の脳天へと振り下ろされる。

 すなわちそれはこの戦いの終焉を告げる一撃であり、


「――――――――」

「なっ!?」

「悪いが、お前をここから先に通すわけにはいかないんだ。たとえ、大きな代償が待ち構えていようとだ」


 その刹那、予想だにしない事が起こる。

 俯いた姿勢のまま動き出した恭介。

 その速度は李凱の目では捉えられぬほどのものであり、気が付いた時には胴が斜めに十字を描くような形で切断。

 多量の血が宙を舞う中で恭介は振り返り、


「イクストーション(強奪者)!」


 己が本質、隠し続けていた真の力をついに発揮する。



ここまでご閲覧いただきありがとうございます。

作者の宮田幸司です。


これまで色々と出番があった恭介さんですが、借り物の力、お行儀のいい立ち振る舞いはこれで終了。

最終盤になり、ついに本領発揮。

そして一階フロアの決戦も大詰め。そんな彼の活躍広がる次回の話、楽しんでいただければと思います


それではまた次回、ぜひご覧ください


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