土方恭介VS李凱 二頁目
十秒以上にも及ぶアイビス・フォーカスやエヴァ・フォーネスに並ぶ攻撃の嵐。
これにより形成された炎と煙は、衝撃を逃がすだけの空間がないため爆心地を中心に上へと昇り、かと思えば攻撃が終わりを迎えると同時に、枷が外れ、窮屈な部屋から解放されたかのような勢いで一階全体へと広がっていく。
(手ごたえはあったが………………実際にはどうだ?)
その結果をただ一人見守っていたのはこの攻撃を始めた土方恭介で、凄まじい破壊力に衝撃。他にも爆音や炎を生み出した光景を見ても、しかし彼は満足するようなことはなかった。
勝利したという確固たる証拠。それを見つけるまでは決して油断しないという様子で爆心地まで繋がる道を風属性粒子の塊で作り出し、その結果目にした光景に眉を顰め渋い表情をする。
(あれは………………)
そこで目にしたのは確かな成果があった事を示す血痕。そして少々離れた位置に転がる机や椅子で、
「………………」
結果を見た直後、恭介を包むような光輪が複数展開。アイリーン・プリンセスの力を模したそれには無数の光の刃が付着しており、使い手の意図を汲んだように勢いよく回転し始めると一階全体へと広がり、重なり、
「そこだ!」
「ほう! 気も手も緩めぬか! やはり一筋縄ではいかんな!」
「用心深いだけの話なんだがな」
恭介の見ている前で、エリア全体を埋める煙が、いや空間が奇妙な揺れを起こす。
その違和感を見逃さなかった恭介がクロバと同じように強固な砂鉄を作り出すと、弾丸のような勢いで一方向へと向け投擲。
その攻撃を躱すために戦狂いは姿を現すと、一切の迷いも躊躇なく恭介への距離を詰めていき、それまでと同じように近接戦を開始。
「用心深いと来たか! 気になる点でもあったか?」
「俺の想定ではこの部屋は平地になるはずだった。威力に耐えれない机や椅子は跡形もなく消え去り、隠れる場所なんて存在しない戦場になってるはずだった………………………………だが違った。机も椅子も、一目でわかるだけの原型を残していた。その点を俺は見過ごせなかった」
一撃でも当たれば重傷は免れない攻撃を躱しながら、恭介は自身の考えを渋い顔をしながら披露。
その姿を見つめ、李凱は獰猛な獣のような笑みを深める。
「よい着眼点だ! お主の思っている通り! この場所に存在する家具は、いや壁や床は! 他の場所と比べても殊更固い! それこそ第一席の攻撃さえ防げるほどに!」
(なるほど。そういうことか)
話しながらも延々と繰り出される攻撃全てを躱しながら、恭介はここにきて理解した。
恐ろしいほどの耐久力を秘めた机や椅子――――すなわち中・遠距離攻撃を防ぐ障害物として極めて有効な障害物。それに強烈な足踏みを受けてもビクともしない床。
そしてエリアを守る守護神。言うなれば『エリアガーディアン』とでも言われる存在である李凱。
この二つを合わせれば、改造された『神の居城』のコンセプトは即座に把握できる。
すなわちそれは『エリアガーディアンの長所を生かし、短所を潰す』という設計。
李凱で言うならば肉潰し血潮湧く近接戦闘肉弾戦を心ゆくまで堪能できるような仕組みが施されている。いわば恭介は戦いを始めた時点で相手有利自分不利の戦いが保障されていたという事だ。
「クソッ」
それがなおも続いているという事実を、対峙する二人は感じている。
どれだけ攻勢に出ようが、『空間同調』に加え周囲の障害物を利用し、防がれる。ないし躱されるという精神的負荷。
そして――――――
「なるほど。見たところ、模倣はできるが消費する粒子の量を賄えるかと言えば違うようだのう」
「っ!」
「ならばお主、あとどれだけ持つ?」
そしてもう一点。今しがた口にした問題。
すなわち粒子の残量という非情な問題が立ち塞がる。
(まずいなっ!)
うまく真似をできるからといって、そこにかかるコストの問題は完全に別の話だ。
彼が土方恭介という存在である以上、アイビス・フォーカスやエヴァ・フォーネスのように、尽きることのない無限の粒子を所有しているわけではない。
であれば強烈な攻撃を使い続ければ当然のように自身の体内にストックしている粒子は減っていき、
「隙あり!」
粒子減少の勢いを抑えるため、攻防共に手を緩める。
その変化を見逃すほど李凱の直感や戦術眼は甘いものではなく、透明化させていた椅子を一脚掴むと、恭介の胴体へと直撃させ吹き飛ばす。
「ハッハァ!」
(触れるだけでダメなのか!)
李凱はそこから吹き飛んでいく恭介に追従して拳を撃ち込むと、恭介は身を守るために両手で払うのだが、接触した部分が破裂音を発しながら消えていき、恭介は失った部位を瞬く間に再生。
「むぐぁ!?」
「しまったな。駆け引きを作って場を有利な状態に持っていくために、もっと早くから使うべきだった」
頭部を潰すような一撃が、狂気さえ感じられる笑みに合わせ振り抜かれる瞬間、李凱の頭部が爆発。
シェンジェンの持つエアボムの性能を前にしながら彼はそう愚痴をこぼし、
「!」
「種切れ、というところか?」
顔面の形をしっかり残していた李凱の口にした通りの状態。
すなわち粒子切れの状態に陥る。
「楽しめたぞ名も知らぬ強者よ。その報酬として、我が最大最強の一撃で散れい!」
その事実を受け止め、李凱が地面を強く踏み、これまでとは桁違いの量の練気を全身から噴出。
見る者を竦ませるそれは形を成していき、徐々に徐々にサイズが縮まり、
「なにっ!」
このタイミングで李凱は気づく。
自分の意図していない状態、すなわち練気や粒子が吸い取られているということに。
いやそれだけではない。
周囲に目を向ければ強烈な吸収は一階エリアを構成する全ての物質。椅子や机。上の階を支える柱や階段。それに壁にさえ続いている事が把握でき、
「流石は戦の星の超精鋭。上澄みの上澄みだ。粒子も使わず、能力も神器もなく、ただ鍛え上げられた肉体だけで、自身を圧倒するあらゆる障害を飛び越えていく。その姿は、見る者を魅了するだけの『質』がある」
視界を声のする方角に向ければ、この状態を生み出した存在が一体何かについては理解できた。
「貴様のそれは………………ロストテクノロジーか?」
土方恭介の持っている銀の正方形。それが一階エリア内全ての物質から練気だけではない。大量の粒子さえ勢いよく吸い取っていることを李凱は理解し、脅すような物言いでそう宣告。
「………………俺の持つ秘密兵器だ。使いたくなかったんだが、ことこの状況ならば仕方がない!」
対する恭介の返答に正誤はない。
しかしこれ以上ないほどカラッとしたもので、戦いは次のラウンドへと進んでいった。
ここまでご閲覧いただきありがとうございます。
作者の宮田幸司です。
申し訳ありません。投稿ボタンを押し忘れてしまい、朝一の投稿となります。
今回は引き続き、この最終盤まで力を隠していた二人の戦い。
最期の部分はちょっとわかりにくいかもしれませんが、その部分に関してはまた次回以降でもう少し具体的に説明できると思うので、申し訳ありませんが待っててもらえればと思います。
それではまた次回、ぜひご覧ください!




