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土方恭介VS李凱 一頁目


 セブンスター第五席李凱。

 当然の事ではあるが、彼は超一流の戦士である。

 善と比較した場合、与えられた番号こそ低いものの、近接戦の技術は超一流。透明化という希少な練気を持ち、その上で獣染みた野生の直感を備えた傑物だ。


「ほう………………………………これは」


 そんな彼の直感が告げているのだ。

 目の前にいる存在はヤバイと。

 これまで戦ってきた数多の強敵。それこそガーディア・ガルフを目にした時でさえ感じたことのなかった感覚。

 神器を使ったなどという単純な強さではない。

 得体のしれず底が見えない感覚が彼を襲い、そこから一つの感想が浮かび上がる。


 すなわち――――異質。


 目の前にいる存在は本当に自分達と同じ星の存在か?

 そもそも生きている存在なのか?


 生命循環の証である練気を前にしてるというのにそのような感覚が男の脳内を駆け巡り、


「一応聞かせてもらうがつい先ほどの宣言を撤回するつもりはないか?」


 延々と続く思考の嵐。それを食い止めたのは堂々とした立ち振る舞いをする土方恭介のそんな言い分で、感じたことのない感覚に襲われていた李凱は口の端を吊り上げる。


「可笑しな事を言う。目の前に得体のしれない獲物がいる。なんと――――なんと心躍ることであろうか! この未知の興奮を前にして逃げるような軟弱な精神を、ワシは持ち合わせておらん!!」


 飽きぬ戦いへの渇望を持つ彼にとって、未知との遭遇は恐れるものではない。

 むしろ心躍る出来事であり、大好物を目の前に差し出された童のような感覚に浸り、腰を落とし、拳を握る。

 その様子を目にしても、目の前に立つ恭介の態度は変わらない。


「俺の義兄弟とその仲間達を追わないのであれば、俺から手出しをするつもりはない。ここで全てが終わるまで、俺と――――」

「くどい! 飽きぬ闘争がワシの望みよ! そしてそれは、勝つ気のない腰抜け相手からでは接種できん! ゆえに、中途半端な思いで戦場に立つ者ならば立ち去れい!」


 口にした言葉は半分嘘の半分真実で、少なくとも未知の強敵である土方恭介との戦いを彼は心底から望んでいる。

 その意志を示すように言葉とは裏腹に行われた震脚の勢いはすさまじく、改築された『神の居城』一階フロア全域が揺れ、


「ならば仕方がない。貴方はここで――――朽ち果てろ!」

「その意気や良し!」


 応じるような宣告を恭介が行った直後、状況が動く。

 顔に獰猛な笑みを浮かべた李凱が燃え盛る炎のような形をした練気を身に纏いながら疾走し、光に迫る速度で恭介の目の前へと移動。

 一撃必殺の思いを宿した拳は繰り出され、なんの邪魔をされることもなくまっすぐに顔面へと向かい、


「ふん!」

「我が最速の一撃に反応するか! やはりやる!」


 当然のように恭介は神器『阿僧祇楼壁』を足元から噴出。

 宇宙最高の硬度を持つ物体にぶつかるはずであった拳はピタリと動きを止め、握りこぶしを解き壁の僅かな凹凸に接触。目の前の壁を一瞬で登りきるとと、目標へと向け彼は降下。

 再び振り抜かれた拳は『阿僧祇楼壁』から突き出た別の『阿僧祇楼壁』に阻まれ、


「ワシに二度三度と同じ技が通用すると思うでない!」

「っっっっ!!」


 けれど恭介の体は衝撃を覚えた。

 真横から打ち付けられた固い感触。それが脇腹を抉り、フロア内にある机や椅子を跳ね飛ばしながら彼を真横へと吹き飛ばしたのだ。


「カカッ!!」


 突如襲い掛かった衝撃。不可視の一撃の正体は練気『透明化』の他への付与である。

 彼はこの効果を付与した三節棍で攻撃を当てると、吹き飛ぶ彼の真横へと虚空を蹴りながら移動。

 流れるような勢いで床に着地すると、『阿僧祇楼壁』を展開させる暇を与えず机や椅子を躱しながら、両の拳を目標へと向け打ち出していく。


「ほう! 先ほども思ったがなかなかやる! 学者然としておるが、その本性はワシと同じ戦人ということか!」

「買い被りすぎだ第五席。俺のこれはトリックありきだよ」

「トリック?」

「………………しゃべりすぎたな。忘れてくれ」


 その全ての大半を躱し、そうしきれなかった数発を両手で捌く恭介は、しかし途中で自分が口にした言葉を失態と考えそう吐き捨て………………僅かな間を置き顔を歪める。

 自分の失言を呪った故ではない。攻撃を防いだ両手が爆発し、肘から先が吹き飛んだのだ。


「底知れぬ強者よ。貴様は念入りに殺してやろう。頭と心臓を貰う!」


 これぞ李凱が持つ切り札。

 練気『空間同調』に次ぐもう一つの練気『炸裂』である。

 透明化が可能な『空間同調』に続いて覚えたこの力は、相手に接触し練気を注入する事で発動する類で、体内に滞留後、しばしの間を置き膨張。

 対象の体を突き破り相手を仕留めるまさに必殺の奥義であり、その脅威が両腕から大量の血を流す恭介に続けて迫りくる。


「悪いがこの程度で先へと進ませる気は毛頭ない!」

「こ、これは!?」


 そんな彼の行く手を遮るように炎の柱が立ち塞がり、考えるよりも先に李凱は手を止める。

 理由は実に簡単。目の前に立ち塞がる火柱から既知の感覚。


 すなわちガーディア・ガルフの発する炎と同等、いや同一の感覚を覚えた上で、


「突っ込まないのか。そうすれば難なく戦いが終わったんだが………………残念だ」

「貴様………………」


 火柱が消え去り、その奥にある光景が瞳に映り、李凱は息を呑む。

 そこで目にしたのは失われた両腕が瞬く間に生えてくる光景。

 尾羽優やアイビス・フォーカスのような高位の回復術師が行うレベルの治癒術の行使であり、


「もう一度聞く。まだ諦めるつもりはないのか? 今の一瞬を見てわかったと思うが、貴方が相手にしてるのは一個人などではない………………」

「!」

「戦の星『ウルアーデ』に蔓延る数多の強者。その上澄みの力を手にしている怪物だ!」


 続けて一階フロア全域に散りばめられるのは、色鮮やかな星々!


「こ、これは!?」

「セブンスターに所属している貴方ならばわかるはずだ! これは! 第一席アイビス・フォーカスが放つ虹の光球! 圧縮した粒子の塊!」

「ちぃ!」

「戦場は屋内! すなわち! 逃げ場はない!」


 数百発ほどであったエネルギーの塊は恭介のあげる声に呼応するように数を増やしていき、四方の壁を埋め尽くすように展開。

 その数は一万にも上り、


「終わりだ!」


 使い手である恭介が後退したと同時に、段階を踏んで前進。

 李凱を埋める波状攻撃は十秒以上にもわたり続き、終わりを迎えると同時に衝撃は内から外へ。


 最後までその姿を見届けた恭介の髪の毛をかき上げた。



ここまでご閲覧いただきありがとうございます。

作者の宮田幸司です。


皆さまお久しぶりです。本日から更新を再開していきます。

今回は前の休載開けのようなあらすじなしの戦闘描写へ。

両者ともに手札を隠すようなことはなく、最初から一気に勝負を決めていきます!


ここから始まる熾烈な戦い。ぜひぜひ最後まで見ていただければと思います!


それではまた次回、ぜひご覧ください!

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