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仮面の狂軍 五頁目


(辛い役目を背負わせることになるかもしれないが、頼むぞ康太)

「………………たくっ」


 『神の居城』の最下層から次の階層へと昇る直前。

 すれ違う瞬間に飛ばされた、土方恭介から自身に対して向けられた念話。

 その内容を思い出し、康太は難しい顔をする。


「どうしたんだ康太?」

「なんでもねぇ。気にすんな」


 とすれば長い付き合いの蒼野などはすぐに異変に気付き、ノア・ロマネに対し意識を注いだまま振り返るが、康太は彼の不安を一言で一蹴。


(なんでもないわけがないんだが………………まぁこう言うしかないわなぁ)


 内心でそうぼやきながら、自分に課せられた役目をしっかりと把握し、そうごちた。




「五人全員揃っているとはな。真下にいる連中に文句の一つでも言いたいところだが………………今回だけは大目に見よう。できる事なら、貴様ら五人は全員、私の手で殺したいと思っていたところだからな」

「ノアさん………………」


 改築された『神の居城』の二階部分を抜け三階へと至ったギルド『ウォーグレン』の五人。

 彼らが至った次なる戦場。

 障害物がほとんど存在しない正方形の部屋で待ち受けていたのは、上階へと続く階段の前で足を組みながら椅子に座り、右手に板チョコの包みを掴んだノア・ロマネである。

 その顔にははっきりとした憎悪の色が浮かんでいるのだが、彼をしっかりと確認した蒼野が第一に抱いたのは思いは、気遣いの類であった。

 

「俺達は………………貴方の妹を殺めていないです!!」


 目の下にできている隈は見たこともないくらい分厚く、髪の毛のぼさぼさ具合や顔色から、彼が体内に留めている苦労の量は一目でわかった。

 二、三日程度の徹夜ではこうはならない。それこそ十日間から一か月間ものあいだ一睡もせず最前線で戦い続けたかのような憔悴した面持ちで、蒼野の口から発せられる声は自然と悲嘆に暮れたものに。


「ですから道を!」

「くだらん!」


 そんな蒼野が最後まで言い切るよりも早く、ノアの背後を埋めるように無数の紙束が放出。さほど広くもない正方形の部屋の足場は瞬く間に紙片で埋まり、蒼野らの足元にある紙片が膨張。

 轟音と共に生じた熱と風が五人の体を即座に呑み込み、


「状況からして」

「!」

「ことは一刻を争うはずだ。となりゃ、既に理解してることだが、全員が足を止めちまうのはまずい」

「貴様………………」


 数秒後、真っ黒な煙が晴れ、その中に身を沈めた者達の様子が浮き彫りになる。

 そこでノアが目にしたのは残る四人を背後に控えさせ前に立つ古賀康太の姿で、彼の周りには十色の箱が浮かび、絶えず動き円を描く。


「この場はオレが預かった。お前らは先に上に行ってろ」

「いやでも、全員で挑んだ方が!」

「馬鹿言うな。相手は死にかけの馬鹿野郎一人だぞ。オレ一人で十分に対処できる………………まぁ流石にソロで手抜きはできんから、十色全部使わせてもらうつもりだが………………積!」

「能力無効化に関しては安心しろ。シュバルツさんから破片は受け取ってる。三つ全部だ」

「い、いつの間に」


 それからすぐに積と康太のあいだで繰り広げられた話し合いを聞き、唖然とした様子を見せる蒼野。

 そんな彼を尻目に康太は僅かに頷くと、残る四人を庇うように更に一歩前進。


「おい、私がお前たちの思惑通りに動くと思うのか?」


 その姿を目にした瞬間、額に青筋を立て苛立った声をあげたノアが無数の紙片を操作。千を超えるそれらは螺旋を描きながら康太へと向け迫っていき、


「まさか。だから――――無理やり押し通らせてもらう!」

「むぅ!?」


 その悉くを、康太の撃ち出した弾丸。片腕を犠牲にした全身全霊の一撃が突破。


「じゃあ………………先に行くからな!」

「おう………………いや待て。一つだけ欲しいものがあったんだが、あれをもってたのは確か…………オレか。なら何でもない」

「?」


 真正面にいたノアも必然回避に徹する必要があり、そうして開いた直線をまず最初に蒼野が疾走。後ろから投げかけられた質問に対し一人で勝手に納得している康太に対し首を傾げ、


「………………いいんだな」


 続けて優。さらに積と順に空いた空洞へと向けて駆けていき、最後尾を務めていたゼオスはそう問いかけ、


「あぁ。蒼野を、いや、他の奴らの事は頼んだぞ」

「…………可能な限りな」

「そこは任せとけって言えやテメェ!」

「逃がさん!」


 返された答えを聞き康太が苦笑。

 二人の間に割って入るような声をあげたノアが、上に続く階段を塞ぐように紙片を操るが、即座に階段へとたどり着いたゼオスの繰り出した幾重もの斬撃がそれらを切り裂き、康太を除いた四人は先へと進み、


「蒼野の奴も気づいてたがな、疲れがたまりすぎなんだよアンタ。そんな調子でオレ達全員を止めれるワケがねぇだろうが」


 その姿を見届け、一仕事終えた康太の顔に嘲笑が浮かぶ。


「………………そうだな。考えを改めよう」 


 対するノアの顔や仕草にはなおも深い疲労の色が見え、しかしそれらを打ち消すような勢いで意識が研ぎ澄まされていく。


「彼らの始末、いや足止めは上にいるアイビス・フォーカスに任せよう。如何に迷いがあろうと、先に進ませるような失態はしないだろう」

「へぇ、アイビスさんが迷いをねぇ」

「………………口が滑ったな。まぁ問題なかろう。どうせここで死ぬのだからな。お前も、上に登った連中も」


 ともすれば一歩二歩と進む足取りもしっかりとしたものに変化していき、その様子を内心で称賛しながらも康太は失った片腕を手持ちの超速回復薬で蘇生。


(いきなり予備のねぇ秘策を使っちまったわけだが、状況が状況だ。仕方がないと割り切るか)


 内心の不満や焦りの念は表情に出さず、猛る戦士の顔を浮かべながら、前へと進み出したノア・ロマネに銃口を注いだ。




「無ン麻!」

「わけわかんねぇこと口にするくせに、技だけは生前の真似をすんなっての!」


 神の居城内部、各階層で戦いが繰り広げ始められる中、外部で行われる戦いも熾烈を極めていた。

 中でも最も周囲に影響を与えていたのは『十怪』の一角鉄閃が鎬を削る場。

 生きていれば無所属の戦士としては最強であったはずのギルガリエが暴れる戦場で、手にする二本の神器が世界を壊す。


「夢夢務夢夢無!!」

「クソッタレが!」


 左手に持つ黒い魔槍『カオクロフィー』は破壊の塊。

 本人曰く万物万象を削る無敵の武器で、秘められた能力は『空間削除』。切っ先に触れたあらゆるものを、世界から消し去ることができる。

 右手に持つ白い魔槍は『イールバンク』。

 こちらは多くの人らに必中の槍と言われている。

 これもまた槍に秘められた能力『空間屈折』が大きく関わっており、ギルガリエは相手の動きを見て、先に続く移動経路を予測し、目標に続く線を引き当てる、という流れを天才的な練度で行い続けることで有名であった。


「う………………おぉ!?」


 これらに加えて圧倒的な膂力と熟練された技に数々が、彼が育てた弟子に迫る。


 あらゆる抵抗を黒い魔槍の一振りでかき消し、生前に極めて近い精度で放たれた白い魔槍が、その命に手を伸ばす。


 その様、その空気、まさに最強。

 『十怪』の一角を容易くあしらう姿は圧巻の一言である。


「あんただけは………………俺が!」


 それでも、弟子である青年は一歩も引かなかった。


 全ては生前に行った約束のために。


ここまでご閲覧いただきありがとうございます。

作者の宮田幸司です。


今回は前回でちょっと書き切れなかった対戦カード。康太VSノアの模様を。

振り返ってみると蒼野たち五人のソロバトルって久しぶりですね。いや、アラン=マクダラスがそうだったか。

なんにせよ康太VSノアも開幕。

しかし次回はギルガリエからの外部全域。こっちはこっちで精鋭ぞろい。

ついに始まる後半戦! 短く! 熱く! 内容を濃く! で心がけていきます!


それではまた次回、ぜひご覧ください

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