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紡がれたもの 五頁目


「うぉ!? マジか!?」

「防御型の神器に、なんの変哲もない一撃でヒビを!」


 蒼野達の目の前に舞い降りたシュバルツ・シャークス。彼が今しがた行った一撃の結果は、暗雲が立ち込めていた彼らの心に一筋どころではない勢いで光明を差し込んだ。

 それこそこのまま目の前の存在を打倒できると確信を抱かせるほどのものである。


「ニィィィィィィィウゥゥゥゥゥゥゥゥ!!」

「なんだありゃ!?」


 そんな彼らの希望を潰すように、狂気に身を浸したアーク・ロマネに変化が訪れる。

 心臓に直接響くような絶叫に呼応するように彼女の右掌から粘性を帯びた黒い液体。すなわち『黒い海』が溢れ出し、意志を持ったかのように躍動。それはアーク・ロマネの右手を包むようにまとわりつき、手持ちボウガンへと姿を変え、


「エェェェェェェぇぇぇぇ!!!!」

「おっと危ない!」


 蒼野達が見ている中で、シュバルツへと向かい彼女は引き金を絞る。

 すると撃ち出されたのは矢ではなく黒い球体で、音速を超える程度のそれをシュバルツは易々と回避。


「む! これは!」


 球体はそのまま地面にぶつかるのだが四散するようなことはなく、水たまりのように広がったかと思えば、無数の腕となり巨体を追尾し出した。


「対処するんだシュバルツさん! 触れた相手を発狂させるぞ!」

「なるほどな。私相手に効果があるかどうかは別として、触れない方が良さそうだな!」


 シュバルツはそれを飛ぶ斬撃で全て対処。その間に距離を詰めたアークがヒビの入った巨大な盾を振り回すのだが、盾は黒い海に浸食されたことを表すように黒く染まっており、シュバルツは防御ではなく回避で対処。


「優、あれってもしかして!」

「レインさんから渡された資料にあった最新型で間違いなさそうね!」


 その様子を眺めた蒼野と優が、周囲からの不意打ちに気を配りながら同じ項目に関して思い浮かべた。


 レインが渡した資料の中には、彼が僅かな時間で調べた仮面の種類に関して記されていたのだが、最新型と呼ばれる四種類の内、三種類に関して記されていた。


 一つ目は五十嵐・W・大悟が被っていたような『対策型』。相手の動きをしっかりと覚えた上で、対処して撃破するタイプ。

 二つ目が『技術継承型』。ギルガリエが被っているモデルがこれであると二人は推測しており、生前の武具の扱いなどの技術を、完璧とまではいかないものの狂気に浸されながらも使用できるというもの。


 残る二つのうち一つについては詳細不明であったが、もう一つに関してまでは調べられていた。


 曰くそれは『憑依型』ないし『装着型』と呼ばれるもので、被った者と『黒い海』を深く結びつけ、武器や防具として使いこなすというものであり、


「ニィィィィィィ!!」

「おいおい! 危ないなぁ!!」


 その脅威がシュバルツへと迫る。

 乱暴な動作で繰り出される『黒い海』で作った大鎌。それは即死を狙える首ではなくシュバルツの全身の至るところを狙い振り回され続けている。つまり『黒い海』が抱えるデメリット。精神崩壊による戦闘不能を狙っているようで、


「!」

「……危険だ! シュバルツ・シャークス!」


 地面を擦りながら振り上げられた大ぶりな一撃。それを躱した瞬間にゼオスが声をあげる。


 それはアーク・ロマネが頭上に持ち上げられたはずの大鎌が原型を崩し黒い雨へと変貌したゆえで、シュバルツが両の目を見開く中、多くの者らを発狂させた脅威がその全身を包み込み、


「おっとあぶない!」

「あ、あれ?」

「余裕だな………………驚くほどに」


 そんな未来を、シュバルツは着ている伸縮自在、形状変化かつ硬度の操作まで可能なマントで、さも当然のように防ぐ。

 その様子は呆気にとられた蒼野と拍子抜けした様子の康太が語る通りで、


「脅威なのはわかったが」

「阿アァァァァァァァァァァぁ!!」

「極まった技のない相手に手こずるほど私は弱くないさ」


 蒼野達が眺める前でシュバルツが足元から鉄砲水を放出。自身に迫っていた『黒い海』全てを弾き飛ばし、


「むん!」


 振り抜いた神器ディアボロスが、アーク・ロマネが左手で掴んでいた大盾と再度衝突。瞬きほどの間に十度ほど繰り返されると、大盾の神器は粉々に崩壊。


 反抗するように彼女の両の掌から黒い液体が零れるが――――遅い。

 既にトドメとなる攻撃まで終えたシュバルツは彼女の背後数メートルのところにおり、反応出来なかった彼女は四肢をすっぱりと切り落とされ切り傷だらけの地面に沈み、シュバルツは伸ばしていた純白のマントで残された胴体部分を包囲。

 そのまま『神の居城』の壁に叩きつけ、周囲一帯に響くほどの揺れを起こした。


「うぉう!? こ、こいつ………………この状態でも四肢を引き戻そうとするのか。エヴァと同じく不死か?」

「えっと………………限度まではわからないんですけど、とりあえずどこまでも再生するらしいです。ですから封印術が今のところの対処法でして」

「なに、そうなのか!? 悪いが私はその手のは苦手なんだ。頼んでいいかい?」

「あ、はい。大丈夫です」


 後に残ったのはまだまだ余裕なシュバルツの気楽な声と気の抜けた笑みで、促されるまま蒼野と積が封印術を行使。


「よし、捕まえた。彼女は」

「そうだな………………オレが持っておこう。異論は?」

「別にいいわよ。隙にしなさいな」


 圧倒的な実力の差に眩暈さえ覚えながら仕事を終えると康太がアーク・ロマネを捕えたひし形をポケットに入れ、もぬけの殻となった正門を潜り、ついに決戦の舞台である『神の居城』内部へ到達。


「まったく! 容赦がないなぁ!」


 直後、手にしていた人斬り包丁のような大剣をシュバルツは積の前へ。

 一拍遅れて神器を叩いた重い音が内部、すなわち始めて見る様相へと姿を変えた『紙の居城』一階に響き、


「カカッ! 完璧な不意打ちと思ったのだがな。流石はシュバルツ・シャークスといったところか!」

「李凱!」


 彼らの前に神の座へといたる最初の刺客が立ち塞がる。








ここまでご閲覧いただきありがとうございます。

作者の宮田幸司です。


狂気に呑まれたアーク・ロマネ相手にシュバルツが格の差を見せつけ、ついに内部へと潜入。

最初の障害が姿を現します。


ということで中盤戦終了と言いたいところですが、もうちょっとだけ続きます。

具体的には途中までの対戦カードの発表。それを境目にするつもりです。


なお、今回立ち塞がったアーク・ロマネですが、シュバルツ抜きの場合めちゃくちゃきついです。

生半可どころかシュバルツ以外では破壊するのが極めて困難な守りに加え、即死効果のある『黒い海』を駆使してくるので、イグドラシルの想定ではクソみたいな詰みポイントでした。


それではまた次回、ぜひご覧ください!

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