紡がれたもの 二頁目
ギルド『ウォーグレン』の面々が賢者王を名乗る少年の手助けもありイグドラシルの魔の手から逃れてから数分後、
決死の特攻を仕掛ける覚悟をしてから現在に至るまでの僅かなあいだに、状況は激変を繰り返し、その都度彼らは対処した。
貴族衆の一人、正確には用心棒として働いていた五十嵐・W・大悟が奇襲を仕掛け、苦戦する彼らに助言するため、レイン・ダン・バファエロが援軍として登場。
神教を裏切ることを彼らに伝え、獅子身中の虫として働くことを宣言し帰還。
それから数分とはいえ休憩を挟み、最低限の援軍を獲得できた彼らは疾走。雷速を遥かに上回る速度で進んだ結果、ラスタリアの内部へと到達することに成功した。
がしかしここで第二の関門。生前は無所属最強と言われていた千年前の戦いの生き残り。
神器である二本の槍を駆使するギルガリエが登場し、少々の間を置き『十怪』の一角鉄閃が推参。たった一人で彼を止めると豪語し、蒼野達を先へと進ませた。
これにより更に前へ進んだ六人は、しかし更なる障害に阻まれる。
オルレイユにて衝突したレオン・マクドウェルの戦友オグノム・バローダと、錫杖を手にした仙人然とした仮面の存在が立ち塞がり、後ろからは悠然とした足取りで三人目の刺客が現れたのだ。
「ヘルスさん!?」
「すまん! お前たちは何とか先に行っててくれ。後ろのあいつは………………俺が! とめる!」
この状況において最も危険な存在を即座に察知したヘルス・アラモード。彼は背後から迫る存在へと単身で突撃。
残る五人は目の前にいる二人の存在と対峙することになったのだ。
(前にいるのは………………二人!)
(無理やり突破できるのか?)
満天の星が照らす現世に生まれた地獄。狂気に彩られた仮面の軍団が蠢く中で、僅かな反抗戦力の将である原口積と、警戒心の強い古賀康太は勢いよく頭を回す。
議題はズバリ『戦力の割り振り』に関して。
二人だけでなく残る三人も既に理解しているのだ。この戦いは、どこでどれだけの戦力を注ぎ込んでいくのかが重要な戦いであると。
『仮面の狂軍』と呼ばれる過去に名をはせた英雄を意識を奪った上で兵士として雇用。数に関しては不明。未知数。
上記だけでも中々に頭が痛くなる事態なのだが、蒼野達は他にも厄介な強敵がいる事を理解している。
すなわち自分たちに強烈な殺意を垂れ流していたノア・ロマネ。
神の座を信じて戦いを挑んできた聖野。
これに加え戦狂いの李凱が敵に回っているのも確実で、味方ならば既に一言何かを伝えてくるはずのアイビス・フォーカスが無言を貫いていることから、中立ないし敵であると彼らは想定。
彼らに比べれば劣っているであろうが、いざとなればイグドラシル自身が戦場に立つことまで考える必要があるとも見ていた。
「…………五人で一気に突破するべきだな」
「ゼオス」
「そうよね。ここでこれ以上数は減らせないわよね」
となればこれ以上の戦力を減らすわけにはいかない。それが五人の総意であり、思考はその先へ。
すなわちどうやってこの二人を突破するかであり、
「迷ってる暇はないな」
「積!」
「康太の片腕を死なす価値もねぇ。援護しろ蒼野! 一気にぶっとばす!」
「!」
その答えは瞬く間に。
積が自身の右腕を醜悪な肉の砲身へと変え、溜め時間を蒼野が『時間破戒』で短縮。
錬成の極みたる一撃。それによる正面突破は瞬く間に行われ、飛び取る砂埃の行方を見届けるよりも早く五人は前進。
この移動には再び『時間破戒』が使われたため、神器を持つ康太とゼオスを除いた三人は瞬く間に神の居城付近まで迫り、
「!」
「は、はやい!」
「光属性っ!」
がしかし追いつかれる。
オグノム・バローダはなおもはるか後方にいるものの、もう一人の僧衣に身を包んだ仮面の存在はすぐさま彼らの元に辿り着き、手にした錫杖で蒼野を殴打。かと思えば移動を終え、追って来るゼオスと康太をしっかりと阻んだ。
(まずい!)
とすれば積が溢れさせる冷や汗の量は凄まじい。
五人全員が強くなったとはいえ、その中でもゼオスと康太はズバ抜けて強い。その二人を置いて先に進むのは自殺行為であると判断したのだ。
ゆえに足は止まり――――直後に強烈な衝撃が襲い掛かった。
「こいつ、は!?」
積の胴体に噛みついた存在。
それは光属性で形成された獅子であり、噛みつかれた積を連れ、その場から離れるよう疾走。
「こ、こいつら!」
「アタシらを全員分離させるつもりね!」
すぐさま追いかけるよう駆け出した蒼野と優は、しかし追いついて来たオグノム・バローダと僧衣の存在に立ち塞がれ、
「足を止めるな二人共! ここは! 某らが止める!」
「あ!」
このタイミングで彼らの前に新たな援軍が現れる。
巨大な鉄斧を掴み立ち塞がる筋骨隆々のオグノム・バローダ。彼の巨体を真横から掴んで地面に叩きつけたのは黄ばんだ道着を装着し、手入れの行き届いていない髪の毛をした現ロッセニムの覇者ブドー。
「むん!」
「ここは! 通さん!」
それにアトラーから援軍として派遣されると伝えられていたクドルフ・レスターに久我宗介の二人であり、しかし彼らを前にしても二人の足は前へは進まない。
未だ積が戻ってきていないという理由もある。
がしかしそれ以上に、ここから更なる援軍がやってくるであろう状況で彼、等だけを置いていくのは見殺しにするのと同じであると、彼らの冷静な部分が訴えかけてきたのだ。
「某らだけでは力不足と心配か?」
「っ!」
その胸中を見透かされたような言葉を前に返事に詰まる蒼野。
その不安を現実のものにするように、更なる『仮面の狂軍」が建物のあいだや空から接近。数で勝っていた状況は瞬く間に逆転し、
「行こう」
「え?」
「せ、積! それに………………お前らも!」
がしかし、そんな蒼野と優の袖を引っ張る存在がいた。
それはつい先ほど引き離されたはずの積。それに後ろで光りの獣と格闘していた康太とゼオスであり、いつの間にか合流していた状況に蒼野は自分が幻術の類に嵌ってしまったのではないかという疑念を抱き、
「行きなよ。この場は僕らが受け持つからさ」
直後、そんな思い込みを吹き飛ばすように、周囲に集まりつつあった『仮面の狂軍』の身に不可視の爆発が直撃。
その正体が風を媒体にしたものであると、彼らはすぐにわかった。
なぜなら新たに現れた更なる二人の援軍。そのうちの一人がシェンジェン・ノースパスだったゆえに。
「大丈夫。ここは私たちに任せて」
「あ………………あなたは!」
「そういうこった。行くぞ蒼野!」
次いで声をかけてきたもう一人の正体が誰であるかを知ると、蒼野も優も、一切の憂いなく前へ進めた。
なぜなら『迫る敵を食い止める』という分野において、彼女ほどのものはいないのだから。
「さあ、行きましょうシェンジェン」
金の長髪をした真っ白な礼服に身を包み、真っ白な手袋を嵌めた美女。
千年前の戦いにおいては多くの人らを慈悲の心から殺さず、味方を救うため尽力。
ゆえに与えられた異名は『聖女』。
アイリーン・プリンセスが、ほんの一ヶ月前まで敵対していた少年少女を救うために光臨した。
ここまでご閲覧いただきありがとうございます。
作者の宮田幸司です。
皆様お久しぶりです。ちょくちょくあらすじをXに載せていましたが、本日から再開です!
と同時に初めてここ最近の話をまとめたあらすじみたいなものを書いてみたのですがいかがだったでしょうか?
一週間前までの展開をスッと思い出してくだされば幸いです。
さてそこから続く本編ですが、援軍が続々と到着。
最期の最後には各勢力のトップ相手にも有利に進められるだけの実力を持つアイリーン・プリンセスが登場です。
書いてて思う千年前のトップ層の安心感よ………………
さて中盤もここまでくれば大詰め。
後半は神の居城内部に突入後なので、どんどん進めていきましょう!
それではまた次回、ぜひご覧ください!




