紡がれたもの 一頁目
その男は千年前の戦争における生き残りであった。
後方にルイ・A・ベルモンドや軍医であるグレイシー・マッケンジーを控えさせ、エルドラにゲゼル・グレア。それにナラスト=マクダラスと共に最前線で最後まで戦い続けた兵。
束縛を嫌ったゆえにどの勢力にも属さず、老いてなおゲゼル同様世界最高戦力の一角に数えられていた超越者。
名はギルガリエ。
二本の槍の神器を手にし、戦場においては常に台風の目と化していた男。
オグノム・バローダ同様、善とレオンが道を違えた戦いにおける最大の被害者。
その男が今、積達の前に立ち塞がる。
(レインさんから貰った情報によればこの人は!)
とここで、すぐについ先ほど仕舞った記憶に意識を向けたのは優であり、彼の被っている仮面に関して考察。
「ムゥゥゥゥゥゥマァァァァァァァァァ!!」
「来るぞ!」
「構えろ!」
「考える時間はくれないって事かしら! 世界最高クラスのクセしてケチね!」
そんな優の答えを聞くよりも早く、奇妙な雄たけびが二本の槍を持つ男の口から零れ世界が揺れ…………一拍置き、ゼオスが吹き飛んでいた。
「ぜ、ゼオッ!?」
「意識を外すな! まだ来るぞ!」
「させねぇって!」
一呼吸遅れ戸惑う蒼野に、切羽詰まった声をあげる康太。
二人の発言が終わるよりも早くヘルスは動き出し、追撃を行われるより早く両手で二本の槍をしっかり掴み、
「無魔!」
「は………………あぁ!?」
直後に両足が無理やり大地から離され空中へ。
掴んでいる部分に強烈な回転が掛かるとすぐさま手を離し、別の一手を撃ち込もうと画策するが行動に移るより早く、仮面の狂人が繰り出した踵落としを脇腹に喰らい、大地に叩きつけられた。
「こ、いつ!?」
「気を付けて! あいつの被ってる仮面はおそらく『技術残しの仮面』! さっきの五十嵐・W・大悟と違って、生前に会得した技を全部使えるはずよ!」
その行動を目にした直後に叫ぶ優。
するとその言葉が正しいものであることを告げるように槍は撃ち出され続け、狙われていたヘルスは真横に転がり徐々に距離を。
「………………むん!」
「牟間!?」
「…………きまったと思ったのだがな。優の考察は当たっているらしい」
「ゼオス!」
数秒前に吹き飛ばされたゼオスが、神器をしっかり掴んだまま距離を詰め振り抜くが軽くあしらわれ、ヘルスとゼオスは肩を並べて距離をとったものの、依然ギルガリエは六人の行く手を遮っていた。
(………………………………まずいな)
この状況に対し全員が冷や汗を垂らす。
それはレインが遺したメモの内容。イグドラシルが語った仮面に関する情報を思い出していたからだ。
「こんなところで足を止めてる場合じゃねぇのに!」
曰く、二世代ほど前の仮面からは通信機能がついているという事。
つまり仮面を被った同族が戦闘を行い始めた場合、活動中の他の個体は、イグドラシルが事前に指示を出しておけば援軍として動けるということだ。
ゆえに彼らは焦る。
ことこの状況で敵の数が増えることを恐れる。
「俺が残る!」
「さっきも言ったが、自分を犠牲にするような選択は――――」
「そういう奴じゃないさ。これは適材適所だ」
「?」
「急いで先に進むとするなら、誰かが残ってこいつを足止めしなくちゃならない。とするならその役目を負うのは、優れた反射神経とチキンハートの持ち主である俺が適任ってわけだ!」
その意味を察し、親指で自分の顔を指しウインクをするヘルス。
すると積はすぐに表情を曇らせるが、『この場でしなければならない選択』を即断した結果口を開き、
「おらぁ!」
「むま!」
「あれは………………」
言葉を発するよりも早く、夜空を引き裂くように『流星』が飛来した。
「ここは俺に任せなぁ!」
否、言葉を流暢に喋る『それ』は『流星』ではない。人間である。
「鉄閃さん!!」
「遅れて悪かったな。さっさと先に進みな」
その正体は今しがた蒼野が口にした通り。すなわち神教に飼いなされたはずの『十怪』。
彼は普段の活発な様子を感じさせる声を引っ込めるとドライかつ冷えた声をあげながら背を向けそう告げ、既に応援要請を受け取っていた積は安堵の息を吐き、
「遅かったじゃないですか。待ちくたびれましたよ」
「へっ。言うじゃねぇの」
勤めて冷静に、兄である善が口にしそうな内容を零す。
すると鉄閃の口からは失笑が漏れ、
「…………貴様が強いことに疑いはない。だが相手は生きていれば現代でも最高峰の怪物だ。貴様一人で勝てる可能性は」
「他の奴ならそうだろうな。だが俺は目の前の化け物の唯一無二の弟子だ。攻撃がやって来るタイミング。槍の軌道や神器の能力。それ以外にも色々知ってる。となりゃ勝ち筋も他より多いと思うんだがね」
「………………」
「重要なのはオメェらの道を開く事だろ? 無駄なこと考えず先に進みな」
「………………ご武運を」
ゼオスの面白げのない声を聞くと真剣な声を応じ、
「行くぞ!」
「積!?」
「あの化物を一人に任せていいのかよ!?」
席は即座に判断。
他の者らの意見を聞く耳さえ持たず、ヘルスと蒼野の手を引っ張りながら前へ。
蒼野は名残惜しそうな様子で、康太は感情を出さぬよう真顔で先へと進んでいく。
「む麻っ!」
「さぁて、死ぬ前にはもらえなかった免許皆伝を貰いましょうかねぇ!」
その様子を背に感じ、彼らの前では見せられなかった獰猛な獣のような笑みを浮かべる鉄閃。
彼の心に、恩師である師を傷つける事に対する拒否感はまるでなかった。
「はい………………わかりました」
「どうした積?」
「僥倖だ。状況は好転してると言っていいだろう」
「?」
そんな戦場からしばらく離れた六人であるが、積はそのタイミングでかかって来た電話に対応。
蒼野がそう聞くと、笑みを深める。
その意味が分からず走ったままやや首を傾けた蒼野は、
「ウゴ!?」
飛来した光の輪にぶつかり、後方へ。
走るのを辞めた積達は目にすることになる。
オルレイユを襲った際と同じ斧を背負った男。すなわちレオンの友人でもあるオグノム・バローダと、
「………………………………ふむ」
もう一人、錫杖を手にして仙人然とした空気を放つ謎の存在を。
「!
「ヘルスさん!?」
「すまん! お前たちは何とか先に行っててくれ。後ろのあいつは………………俺が! とめる!」
そしてこのタイミングで別方向からやって来る黒のコートで全身を包んだ三人目。
すなわち謎の男に対してはヘルスが死に物狂い駆け出し、新たなる戦端が切って落とされたのであった。
ここまでご閲覧いただきありがとうございます。
作者の宮田幸司です。
申し訳ありません、少々忙しかったため、日を跨いでの投稿となります。
さて本編はというと、引き続き神の居城へと向け進軍。
正直なところ長期のお休みをいただく前にきりよく神の居城内部に突入したかったのですが、想定よりだいぶかかりそうだったのでこの辺りで。
次回に関しては先日お話しましたが9月の末までお休みで、10月の初めからスタート。
鉄閃だけではない。彼らが築いた絆が勢いよく立ち上がります
それでは少々長いあいだお休みですがまた次回、ぜひご覧ください!」




