ギルド『ウォーグレン』の疾走
「いい意気だ。なら君らにこれを」
「これは?」
「あの仮面に関して調べた結果得た情報。種類に関してだ。語っていたら結構な時間がかかるからね。こうやってメモにしてまとめたんだ」
「……ありがたい」
周りを鼓舞するような積の物言いにより話し合いは終わりを迎え、用を終えたレインが持ち場に戻るため立ち上がる。
「最後に一つだけ。彼ら全体の名称についてだが、イグドラシルはこう呼んでいたよ。『仮面の狂軍』と」
「仮面の………………」
「狂軍、か。扱ってる本人が狂った集団と認めるってのはどういう気分なんだろうな」
「うん、そうだね………………私も本当に、そう思うよ」
最後に彼が語ったのはこれから積達が立ち向かう敵の真名で、康太の鼻で笑うような言葉を聞き、レインは同意し目を細め、
「頑張ってくれよ未来ある若人達。私個人としてはね、そろそろ世代交代をするべきだと思ってるんだ」
「その席に座るのが俺達でもいいと?」
「うん。私はそれを望んでいる」
「………………感謝する」
「そう改まらないでくれって。霧の目くらましは使い手抜きでも数分持つ。短い時間だが、必要な準備をしてから来てほしい」
今度こそ語るべきことを全て終えたレインは朗らかな笑みを浮かべながら声援を送り飛翔。流星と見紛う光る線を描き、夜空へと消えていった。
「体は休めれたか?」
「こっちも貰ったメモは何とか読み終えれたわ。あまり綺麗な字じゃないから見逃してる点があるかもしれないけど、致命的な見落としはないはず」
「そうか。助かるよ」
「連絡の方は?」
「悪くない返事もいくつかあった。ただ」
「レインさんの言う通り数は少ないか。仕方がないな」
残った六人が準備を終えたのはそれからほんの三分後で、息を整えていた面々は積の返事を聞きやや落胆。しかしある者は自身の頬を、ある者は自身の膝を強く叩き気を取り直すと、勢いよく立ち上がる。
そこに恐怖の念はなく、誰もが覚悟を決めた戦士の面持ちをしていた。
「色々なラジオ番組で今の状況を聞いたんだけどな、どこもかしこも大混乱だ。世界中で『黒い海』の被害が出てて、『これは世界の終末に違いありません!』なんて言い出すところもあった」
「笑えない冗談………………でもないのか」
「事態の全貌は把握できないが、このまま放っておけばその可能性は十分ある。つまりオレ達はその状況から世界を救う救世主ってわけでだ」
「見事解決出来たら、それこそ神の座を譲ってもらうのにふさわしいんじゃないかって康太と話してたんだ」
彼らがそのような姿勢を貫けた理由は今しがた説明した通りであり、積は否定しない。
むしろ顔を合わせた康太と蒼野の発言に賛同するように無言でうなずき、レインが築いた人除けの結界と外部の境目に移動。
「…………作戦は?」
「文字通りの正面突破だ。途中で出会う連中は無視していい。何とかなるはずだ」
ゼオスの問い掛けに対し顔を向けることなく言いきると一歩前、すなわち外部へ。
直後、六つの影が疾走する。
解き放たれた矢のように一直線に。まっすぐと『神の居城』へと進んでいく。
「周りからの攻撃は!」
「ない!」
「時折顔を向ける奴もいるけど攻撃には移ってないわ! 射程から抜け出てるのかも!」
彼等は今、気配遮断や姿隠しすら行っていないで移動しているのだが、それでも他者からの攻撃を受けることはなかった。
当然と言えば当然だが、仮面の狂軍が都合よく彼らの進路に大量に配置されているということはなく、なおかつ雷速を超える速度での移動であったため、六人は察知されることもなく、十数秒でラスタリアを守る白い外壁に到達。
「これは! エヴァさんの!」
「俺達が戻るのを見越してずっと抵抗してくれてたらしい!」
「ありがてぇ!」
内部の様子は未だ知ることができなかったが、少なくとも外部で様々な種類の生物とラスタリア正規軍。それに複数の仮面を被った面々が戦いを繰り広げているのを確認でき、ここまで抵抗を続けてくれていることに感謝。
「イレイザーさんから連絡があったわ! 中に仮面の狂軍がすし詰めになってるってわけじゃないみたい!」
「結構な数がいたはずなんだけどな………………外出中って事。これが幸か不幸かは…………わからねぇな」
「少なくとも俺達にとって不幸な事態じゃないだろ!」
肩に止まった透明な蝶からの報告と積の発言を聞き、蒼野がそう断言し、他にも数名が賛同したが、積は素直に喜ぶことが出来なかった。
なぜなら数を削ってなお内部の防衛に至らせている者がいるとすれば、
「――――左!」
「!」
それは一握りの精鋭。おそらく仮面の狂軍指折りの猛者である可能性が高く、積のそんな予想を裏付けるように、白い壁を乗り越えた瞬間に康太の口から怒声が飛び出た。
「こ、れはぁ!?」
「や、槍だ! てことは………………!」
康太の声を聞いた瞬間、すぐさまヘルスが裏路地から飛び出た物体を視界に収め対処するため行動。
問題は二人のガーディアを除けば最高峰の反射神経を持つ彼でも捌き切れない速度と膂力であり、その力の正体を知った時、康太の口から声が漏れ、
「オォォォォォォ………………」
行く手を阻むように、ヘルスを数メートル先へと吹き飛ばした存在。
黒衣に身を包んだ偉丈夫が彼等の前に立ち塞がる。
「最初からクライマックスかよ」
その正確な姿を彼らは認識できない。
頭のてっぺんから足のつま先まで黒衣で隠れ、顔も仮面で隠れているためわからない。
けれど彼らは知っていた。目の前の存在の正体について。
アイビス・フォーカス
シャロウズ・フォンデュ
エルドラ
五十嵐・W・大悟
各勢力のトップ陣と並ぶ無所属最強の男。
千年前の戦争でゲゼル・グレアと共に戦場を駆けた、無双の狩人の存在を。
ここまでご閲覧いただきありがとうございます。
作者の宮田幸司です。
中盤戦もついに終盤へ。
ここまでくると敵の格もかなりの物へとなっていきます。
さて次回は流れるように先へと。
可能であれば神の居城にまで進みたいと思います。
それではまた次回、ぜひご覧ください!




