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レイン・ダン・バファエロの解説


 自身が協力する理由を伝え振り返ったレイン。

 その姿を目にした蒼野達は既に引き締めていた意識をより一層引き締め、一字一句逃さず話を聞こうと耳を傾ける。


「それにしても贅沢な時間だね」

「贅沢な時間?」

「鬱蒼とした森でタバコを吸うなんて、普段なら火災の危険を見越して絶対に止められるからねぇ。そういう意味ではこの騒ぎも悪い事ばかりでもないのかもしれない」

「いや百害あって一利なしですよ」

「というか言わないだけでみんな思ってますよ。タバコ危ないって。さっさと吸い終えてください」


 しかしそんな彼らの意志に反しレインの発する声は熱のこもっていないのんびりとしたもので、蒼野と優の発せられる言葉に棘が混ざる。


「今どきの若い子は厳しい! でもまぁ多めに見てよ。これはこれですっごく意味がある事なんだから」

「意味?」

「見た感じ君らはこういう作業は不得手らしいからね。それなら年長者として頑張らなくちゃいけないだろう?」


 とすれば不必要に大げさな態度が定年を迎えた老兵の口から発せられるのだが、その中に含まれていた単語を聞きヘルスが反芻。

 彼は依然のんびりとした声色のままそう語り、それから少しして彼らを包む空間に変化が訪れる。


 彼がタバコを吸い口から吐き出した多量の煙。それはある一定のラインよりも上には決して行かず、とぐろを巻いたかと思えば薄く広がり、その場にいる全員を包囲。

 神器を持っている康太やゼオスはあまり意識することが出来なかったが、他の面々は周りの空気が周囲とは異なる物に変化したの感じ取った。


「レインさん。これって?」

「人除けの結界だよ。仮面を被った連中、イグドラシルが『仮面の狂軍』なんて呼ぶ彼らは、強いけど脳筋だ。こうしておけばしばらくのあいだ時間が稼げる。君達も本気で神の座を奪うつもりなら、こういう便利な術技や能力も覚えておいた方がいい。ただの脳筋じゃ世界のトップは務まらない」

「それはまあ………………」

「………………返す言葉がないな」


 そのまま繰り出された言葉を聞けば、蒼野やゼオスは反論できず、


「よーしよし。ならまぁ、この場での喫煙は多めに見てくれ。話し終えたらやめるからさ。それと、そこまで神経を張り詰める必要はないよ」

「なに?」

「これから決着まで戦い尽くしだろう? こんなところで体力を使ったらもったいないって!」


 レインが悪戯坊主が見せるような幼い笑みを浮かべると蒼野たちは鳩が豆鉄砲を食ったような表情を浮かべ、それを見届けたところで彼は本題に入った。


「肩の力は抜けたかな? それならまずは仮面に関してだ。あれらに関しては全て知っているわけではもちろんない。けどここ数日のあいだに話に聞いた限り、どうやらあれは制御装置の類らしい」

「制御装置………………」


 語られる内容は今回の件において一番大きなウエイトを占める質と数の暴力。

 多くの人らに慕われていたイグドラシルが行っていた、後ろ暗い事情のありそうな兵器に関してだ。


「君達も既に気づいているだろうが、あの仮面を被っているのは全て死体だ。しかもその多くが名のある強者と来てる」

「………………それを集めるために、奴はどれほど手を汚してきたのだろうな」

「……大往生した人らの葬式を自分らで手配すれば、わざわざ手を汚す必要はないんだが………………残念ながら全てが全てそうして手に入れたわけではないだろうね」


 となれば彼らが綴る言葉の節々には負の感情が含まれており、言葉を吐き出す度に先の見えない穴倉に潜っていくような気分になり、息がつまる。


「イグドラシル様が私設部隊。つまりこれまでセブンスターの第四位と評して使っていた彼等や仮面の研究に関して話してくれたのはつい先日のことでね。色々と調べたりもしたんだけど、どういう絡繰りで動いているのか、どうするのが一番効果的なのかに関してはわからない。ただ二つだけしっかりとわかったことがある。一つはあの仮面が『黒い海』と深くかかわっている事」

「『黒い海』、か。イグドラシルは昔から黒海研究所で『黒い海』に関して調べていたらしいが、もしかするとそれも?」

「断言はできないけど可能性は高そうだ」


 六人にレインを含んだ七人の会話。

 これはレインの吐き出したため息で一度止まり、蒼野や優、それにヘルスも憂鬱な気持ちをため息として吐き出す。


「で、もう一つは?」


 そうして僅かなあいだ沈黙が場を支配すると、その空気を換えるいともあり、ヘルスが過剰なほど明るい声で問い掛け。


「この研究、『死者の戦力化』の始まりが千年前ということだ。つまり」

「オレ達の前にはイグドラシルが君臨してから今日までの歴史。千年分の重みが襲い掛かってくるってことか。笑えねぇな」

「そういうことになる。で、調べてみてわかった事なんだけどね、この仮面に関しては質の違いみたいなのがあるらしい」

「質の違い?」

「五十嵐についてたもの。戦況に応じて学習する物が最新型なわけだが、千年前の仮面はもっとできることが少なかったらしい。いわゆる初期バージョンだ」


 レインの説明によればそれらを被った者が発揮できる力は本来のスペックから大きく劣っている。

 つまり真に厄介なのはほんの一握り程度であるという事で、話を聞いていた者達の沈んでいた気持ちがやや浮上した。


「色々と頭を痛める話が続いたが、その点だけは救いだな。後は………………」

「今回の戦いに関して。私個人の建てた予想だ。単刀直入に言わせてもらうとね、君たちの援軍は極めて少ないと言わざる得ない」

「それは………………各地の対処に当たってるからってことですか?」


 だがそれはほんの一瞬の事。

 続けてレインが語り出したところであっけなく終わった。


「それもあるけど大本にあるのは『神の座イグドラシル』という称号に対する信頼感だ」

「信頼感? どう考えても犯人はイグドラシルなのに信頼感があるのか!?」

「落ち着け蒼野。そりゃ俺達が他の人より見えてるものが多いから言えることだ」


 その内容を聞き信じられないという反応を示した者らが幾人かいた。


「千年という時間、この世界を大きな問題もなく、賢教の時代にあった悪しき風習や差別を取り除いた人物に送る人の感想だ。恐ろしい話だけど、これを崩すのは極めて困難だ」

「そんなの………………信じられるか!」

「逆の立場になればわかりやすい。先の戦いでガーディア・ガルフはイグドラシルの欠点をはっきりと衝いた。だけど君らは、何があっても彼女の味方として戦っただろう?」


 しかし彼らもレインの出した例題を聞けばそれ以上の反論はできず、たばこの煙で作られた人払いの結界の中には今回の話し合いにおいて最大の沈黙がのしかかる。


「だとしても、抵抗するのは俺達だけじゃないはずだ」

「ふむ?」


 その空気を真正面から突き破るのは、兄である善の後を継ぐと決めた積であり、彼は周りを見渡し口を開き、


「統治してるエリアの問題解決。それにイグドラシルに対する信頼。この二つは確かに脅威だ。けれどレインさん、あんたは一つだけ加え忘れてる要素がある」

「それは?」

「イグドラシルに対する信頼の真逆。俺達に対する信頼だ」


 胸に手を置き、堂々と言い切った。


「………………ほう」


 対するレインの笑みは不敵なもので、続けて他の面々も気づくのだ。

 今回の戦いにおけるもっとも重要な点。それは今日という日まで築いてきた他者との信頼。

 青臭い言い方をすれば『絆」であると。


「どっちみち後退の道はねぇんだ。なら俺は兄貴が…………俺達が紡いだ全てを信じる!」


 そこから追い打ちをかけるように言いきれば蒼野達の顔から不安は払しょくされ、積に感化されたように立ち上がる。

 それはつまり戦いに挑む時が来たという無言の訴えで、


「確かにそうだ。忘れてた。その証拠にここに一人、神教に潜む獅子身中の虫がいるわけだしね」

「レインさん………………」

「表立って反抗すれば、おそらく始末されてしまう。だから私は裏で糸を引くことで君たちを援護しよう。今回の接触みたいに、上手いこと周りを言いくるめて、ね」


 自らも味方であると言うように、年に似合わぬウインクをしながらレインも同調。

 これにより話し合いは終わりを迎え、




「行こう! この事件を終わらせるために『神の居城』…………いやイグドラシルの元に!!」




 積は堂々とした声で、『大いなる終わり』の『始まり』を告げた。

ここまでご閲覧いただきありがとうございます。

作者の宮田幸司です。


前回も話した情報収集回。ゆったりとした話が多めです。

次回はギルド『ウォーグレン』の面々が再びラスタリアへ。

玉座に行くための大変な道のりが始まります。



それと、9月下旬の更新に関してなのですが、新人賞応募作品の詰め作業に入ろうと思うので、23日をラストとして30日までお休みさせていただきますのでよろしくお願いします。


それではまた次回、ぜひご覧ください




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