仮面の狂軍 三頁目
(威勢よく言いきったはいいが頭を働かせる必要があるな。てかそもそもなんで死人が動いてるんだよ。非常識だろ)
先へと進むため、月明かりがロクに当たらない森の中を疾走する六つの影。
その最後尾に控えているのは味方全体を鼓舞した積であり、得物である鉄の斧を錬成しながら頭を働かせる。
内容は『ワンマンアーミー』などと呼ばれる五十嵐・W・大悟に関して。
彼は本来なら既に亡くなっている人物のため、善の後を継ぐと決めた積もほとんど情報収集はしておらず、わかる事はかなり少ない。
曰く、鬼人族を超えた怪力に無敵と呼ばれるほど強固な肉体を備えた『超越者』で、それ等を形成してる根幹は鋼属性と地属性にあるという事。
曰く、武器にしている番傘からは大量の銃弾が放たれる事。
まとめてしまえば、積の知っている情報はこの程度しかないのだ。
それこそ能力や神器の有無すらわからない現状は頭を抱えるべき状況と言えるだろう。
「いやそこまで思いつめる必要はないな。ここまでくりゃ…………一気に攻めるだけだ!」
ゆえに積の心には黒い影が覆いかぶさるが、それを振り払うよう地面を蹴り、肺が一杯になる勢いで息を吸い、
「相手の所有する力は未知数だ! だがこっちには能力を無効化できる神器使いが複数いる! 康太とゼオス、それにヘルスさんを主体として残った面々はサポート! 複雑な策なんてない。地力と神器の能力無効、それに数の有利をフルに活かす!」
「「了解!」」
その全てを吐き出しながら声をあげ、応じる声が前に立つ五人から発せられるのだが、それから先の連携は実に見事だ。
付き合い始めてからまだ日も浅いためうまく連携に加われないヘルスはすぐに一歩後退。その穴を埋めるようにゼオスが最前列に立つと、他の者らの援護を受けながら攻撃。
するともちろん反撃や防御の姿勢に五十嵐・W・大悟は移ろうとするのだが、このタイミングで一歩引いたヘルスが割り込んでくる。
「好きなようには動かさねぇぞ!}
六人の中で最も優れた反射神経を活かして横槍を入れ、相手側の行動を阻害。
結果ゼオスの攻撃は体に突き刺さり、それだけでなく援護に回るはずであった蒼野達まで殴り続けられる状況が生まれた。
「フ………………ン!」
(いける………………このまま決める!)
先ほどまで傷一つ付かなかった無敵と呼ばれていた肉体に、徐々にではあるが生傷が刻まれていく。
それでも狂気に身を浸した五十嵐・W・大悟は一歩ずつ前に進み攻撃を仕掛けてくる素振りを見せるが、ヘルスの撃ち出す雷の砲撃が、康太の撃ち出す銃弾が、その道を的確に阻んでいく。
「うぉ!?」
「これでもまだ止まらないの!?」
それでもなお進む仮面の化け物。
彼の腕がゼオスと並び前に出ていた蒼野の右腕を掴むと、勢いよく引き寄せ拳を振り抜き、
「…………文句はないな?」
「もちろんだ!」
けれどそれは空振りに終わる。
引き寄せられる蒼野の右肩から先を、ゼオスが躊躇なく切り落としたのだ。
これにより五十嵐・W・大悟が放った渾身の一撃は空振りに終わり、蒼野はすぐに自身の能力で失われた部位を修復。
「六対一で悪いとは思うが非常事態なんだ。許してくれよ先人様!」
どれだけ攻撃を与えようと決して見せなかった。完全に体のバランスが崩れた状態の相手に対し、これまで以上の勢いで彼らは攻撃を撃ち込んでいく。
今回の場合その範囲は全身の前半分ではなく、無防備になった頭部や背中であり、雨のように降り注ぐ攻撃を受け五十嵐・W・大悟の肉体は地面に落下。
蒼野達は自分たちの行為に罪悪感を覚えながらも、ここで勝負を決めるという意思のまま、攻撃を突き刺していく。
「………………本当に、すいません」
繰り出される斬撃や雷撃の影響で、地面が凹み、森が揺れる。
それが十秒以上続いた時、『ワンマンアーミー』の名で知られていた強豪は動かなくなり、蒼野達が息を吐いた。
「これで…………死んだんだよな?」
「元々死んでた相手に対して変な表現だけどな。動かなくなったってことはそういう事だろ」
ここで蒼野が戸惑ったのは、ピクリとも動かなくなった五十嵐・W・大悟が大量の傷を負ったにもかかわらず血の一滴さえ流していないためであり、しかしそれは五十嵐・W・大悟が人間を辞めている証拠でもあり、
「………………待て。警戒を解くな! なにか………………何かおかしいぞコイツ!」
その時、康太の直感が警報を鳴らす。
それは自分らの目の前で横たわっている亡き強豪からであったのだが、その変化は誰の目で見ても明らかなもの。
全身を黒い光が包み込み、至る所に刻まれていた損傷が瞬く間に修復。
「フゥゥゥゥゥゥン!!」
「こ、こいつ!」
「不死身って事!? それはめんど過ぎじゃない!?」
渦の模様を描いた仮面の目と口の部分からは黒い粘液が漏れ、ユラリという擬音をあげながら立ち上がる姿を前に、蒼野が剣を構え直し、優が鎌を握る掌に力を籠めながら悪態を吐き、
「………………っ」
「え?」
「ぜ、ゼオス!?」
「なんだコイツ!? さっきまでと全くの別物じゃねぇか!?」
直後、五十嵐・W・大悟がその真価を発揮。
彼はゼオスとヘルス以外の面々が視認できないほどの速度で蒼野の元へと迫ると、先ほど以上の勢いで回し蹴り。
反応できたゼオスが蒼野を守るため前に出て神器を構えるが耐え切れずに吹き飛び、すぐさま動き出した康太が照準を合わせ引き金を絞ると、先ほどまで当たっていたのが嘘のように簡単に躱された。
「これは!?」
「どうなってんだよこりゃ!?」
続く進軍も先ほどまでの愚直な直進ではない。
周囲に散乱していた木の幹を姿を眩ませるために利用し、近づいた上で繰り出される打撃の一つ一つにには、それまではなかった精細さが見て取れる。
「バルキルト・ライ・トール!」
「墳!」
「おいおい! 真正面から弾けるのかよ!?」
とここでヘルスが身に纏う蒼い雷を圧縮して投擲。
それは数多の強敵を退けられる威力を秘めていたが、五十嵐・W・大悟は持っている番傘を開くと真正面からそれを受け、傘の面を滑らせ斜め後ろへと流していく。
「墳! 紛分奮フン!!!!」
「や、べぇっ!」
「止まらねぇぞコイツ!?」
先ほどまでの一方的にやられる姿は消え失せ、『超越者』の領域にまで達した康太にゼオス。それにヘルスを含めた六人を退ける姿。
それはまさしく噂に聞く『ワンマンアーミー』。
アイビスやエルドラに並ぶと言われれるにふさわしいものである。
(どういう仕組みだ。なんでいきなり強くなった!?)
そんな中、戦場にいる誰もが疑問に思う。
どのような絡繰りで動かなくなった五十嵐・W・大悟は蘇ったのか?
そしてこの急な動きな変化はどのような原理なのか?
攻撃を捌きながら彼らはその答えを模索し、
(地面につけたままではいけない)
「え?」
(最新の仮面を被った五十嵐・W・大悟は学習する怪物だ。復活と共に、これまで喰らった攻撃に対する対策を練るようになる)
「だ、誰の念話だ! ヘルスさん? それとも康太?」
「馬鹿言うな。ここまで正確な答えを出せるかってんだ!」
そんな中、彼らの脳裏に声が響く。
念話ゆえ誰の物かは明確にはわからない。
しかし語られる内容が真実だとするならば、それは彼らが涎が出るほど欲していた、目の前の相手に関する情報。そして攻略法であった。
ここまでご閲覧いただきありがとうございます。
作者の宮田幸司です。
VS五十嵐・W・大悟開幕。
固い・速い・力強いというのは、いつの時代も厄介というお話。
勿論比較すればウェルダの足元にも及ばないのですが、それでも各勢力のトップクラスとなれば今回のような強敵となります。
今回の注目点にして次回の最重要ポイントはやはり彼らに届いた念話に関して。
敵か味方か。そしてその正体とは?
それではまた次回、ぜひご覧ください!




