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一斉放出(フルバースト)


 怒声と共に両腕を持ち上げるノア・ロマネ。

 その姿を前にヘルスを除いた五人、すなわちギルド『ウォーグレン』の面々はフルに頭を回転させる。


 すなわち、誰がどう動くか。


「………………」

「待てゼオス。オレが行く」

「……………お前の領分は中遠距離だ。俺の方が確実だぞ?」

「そりゃ相手が見知らぬ他人や明確な敵ならだろ。今のお前が聖野を全力で仕留められるか?」

「………………………………」

「オレならやれる」

「………………ならば頼んだ」


 その問いかけに対する答えは迅速に。

 両手の銃を持つ腕に力を込めた康太が断言し、跳び蹴りを撃ち込んでくる聖野と対峙。

 好戦的な笑みを顔に張り付ける。


「振り返ってみると、こうやって本気でぶつかるのは初めてだなぁ!」

「んなことより事情を話してくれ康太! お前らに何があった!」

「なら手を引けこの馬鹿!」


 銃身でしっかりと止めるとはじき返し、数メートルほどの距離を置き瞳と言葉を交える。


「退きなさいアイビス。これは命令です!」

「っ」

「彼らは私、いえこの世界に鉾を向けた大罪人。それを庇い建てすることが『悪』であることくらい、聡い貴方ならすぐにわかることでしょう?」

「………………そうね。けど! これはいくら何でもやり過ぎよ! 今日に至るまでの彼らの功績を考えるならば、情状酌量の余地があるはずよイグちゃん!」


 残る四人がノアへと意識を向ける中、自身の真横に着地したアイビスに対しイグドラシルが厳しい声で指摘。けれど彼女は従わず、ノアに対し虹色の帯を差し向けた。


「手を下しなさい熾天使ノア・ロマネ! この場は私が取り持つ! これはセブンスター第一位としての命令よ!」

「ぬ、ぐぅっ!」


 帯はノアに接触すると彼の首から下全てに勢いよく巻き付き、いわゆる簀巻き状態へと移行。

 細長い目をした痩せぎすの男は抵抗する間もなく真っ白な床へと墜落するが、その一瞬の隙に見せた表情は凄まじい。


「この私に退けと? 唯一残っていた家族を殺めた毒虫! この世界の主に逆らう反逆者! そんな心材を前に道を譲れと言うのか貴様はぁ!」

「少しは冷静になりなさいな。そもそもその情報が真実であるという根拠が………………」

「我らが神の御言葉を疑うか! この! 不信者がぁ!!」


 顔面の至る所に血管を浮かべ、目を剥ぎ、真っ赤な歯肉を見せつける勢いで口を開き怒声と唾を吐き散らす彼に普段の冷静沈着な様子はなく、かと思えばその顔面は勢いよく玉座に座る己の主へと向けられ、


「我らが神よ! 許可を!」

「いいでしょう。貴方の持つ全てを用い、この世界に巣くう悪を根絶しなさい」


 望む返事があった瞬間、状況が動く。

 李凱とヘルス。聖野と康太。いやその場にいる全員が目にすることになるのだ。


 ノア・ロマネの首筋から放り出された一枚の紙片。

 四つ折りになっていたそれが開いた瞬間に放出された大量の紙片。これにより生み出された紙の滝が部屋を埋めていく様子を。


「こ、れは!」

「ノアめが本気で暴れるか。であるならばワシの役目はここまでだな。戦いの結果は預けるぞヘルス・アラモード!」


 部屋中に広がった無数の紙片。

 それが足首を埋めるよりも早く李凱が撤退し、康太と対峙していた聖野もこの光景の意図を理解すると、心底悔しそうな顔をしながら後退。


「逃げて!」


 蒼野が、優が積が、ゼオスや康太にヘルスが事情を把握できず困惑の色を浮かべる中、この事態がどれほど危険かを察しているアイビスが声を荒げると六人にそう告げ、意味は分からずとも意図は把握した六人がすぐさま行動を開始。

 足首が埋まりつつある中、もはや交渉は不可能であると諦めると勢、いよく駆け出し入り口から退出。

 振り返り、なおも増殖を続け床を埋めていく無数の紙片を視界に収めた彼らは、続けて目にすることになるのだ。


「おいおいおいおい!」

「まさか………………そういう事なのか!? イグドラシルの奴は自分が住むこの城を破壊するつもりなのか!?」


 勢いよく狭くはない廊下を埋めていき、今や彼らの膝に届くほどの高さになっている紙片の海。

 そのうちの一部が破裂する様子を。

 はたまた内部から数多の武器や隕石などを打ち出し、周囲一帯を破壊していく様子を。

 他にも多数の能力や粒子術で、神の座を守る堅牢な城ごと、敵とみなした自分らに襲い掛かる姿を。




 ノア・ロマネの所有する神器『百折天則』は無数の紙片を手足のように操る神器である。


 限界があるとは言え硬度を好きなように弄ることができ、重ねたり折ることで好きな形に変化させ武器や盾として用いる事。

 他にも内部に大小さまざまな無機物を包み持ち運ぶことが出来るこの神器は、単純な『強さ』ではなく『利便性』に大きく傾いた物であると言えるだろう。


 しかしである。前述した使い方はあくまでノア・ロマネが理性的であった場合に限られる。

 彼が持ち前の理性をかなぐり捨て、周りへの被害を気にしない相手。

 心から憎悪する存在を前にして、神の座の許可を得ることで用いる事ができる最終兵器が一つある。


 それが『一斉放出フルバースト』。


 これまで貯蔵していた、戦時中に用いる武器や能力をため込んでいた数十万枚にも及ぶ紙片。

 その全てを『必ず殺す』と誓った相手を仕留めるためだけに使う、豪勢かつ単純明快な奥義。


 神教に所属しており、この力を知っている者ならば誰もが認める。

 『対象を殺す』という一点においては比肩する者のいない。極悪無比な力である。

 


ここまでご閲覧いただきありがとうございます。

作者の宮田幸司です。


まず初めに連日短めで申し訳ありません。もうちょっとだけ短め投稿が続くと思うのでよろしくお願いします。


さてさて本日分の更新となりますが、これまで大きな功績は見せてきませんでしたが、一角の強者として語られていたノア・ロマネの切り札発動回となります。


端的に言ってしまえば凄まじいまでの物量攻め。全身神器であるミレニアムや埒外の暴力を持つガーディアやらシュバルツ以外には効果のある手段なので、被害さえ考えなければかなりヤバめの力です。


それこそたった一戦だけならアイビス・フォーカスにさえ勝るかもしれないんですが、デュークもストック全てを使いきることで一戦だけの最強状態を作り上げるため、この辺りは神教全体の思想な感じがしますね。

まぁ最高戦力のアイビスだけが例外な感じですが。


次回は撤退戦。大波の如き勢いで紙が迫ります。


それではまた次回、ぜひご覧ください!

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