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不信のアイビス・フォーカス


 すぐそばから聞こえてくる喧騒はどこか遠く、間違いなく目の前にいるはずなのに、すぐそばにアイビス・フォーカスがいる現実を彼らは信じられなかった。

 それほどまで意外だったのだ。


「ここにいる限りよほどの事がない限り見つかることはないと思うけど、少し休んでいく? それともすぐにイグちゃんの元に向かう?」

「えと、その………………協力者の引き付けにも限界はあると思うので、すぐに向かいます」

「わかったわ。でもやっぱりあれはあなた達の仕込みだったのね。後ろから手回しをしたかいがあったわ。あ、もしよければもう少し外で暴れられる人員を増やせる? そうしたらもっと援軍を送るよう手はずを整えるんだけど」

「か、確認してみます」

「お願いね」


 偽物、はたまた幻覚の類ではないかという疑念が六人の頭の奥で渦巻く。

 けれどどこにでもあるような一軒家に向かう足取りが、語る口ぶりが、醸し出される空気が、目の前の存在が本物のアイビス・フォーカスであると訴えかける。


「そう。ええそうよ。何か言われたらあたしの命令ということで押しつぶして」

「あの、大丈夫ですか?」

「もちろん。具体的にはこれから起きる事件に導入される戦力を普段の四割増しにするよう指示を出しといたわ。これで城内の警備が手薄になればいいんだけど………………」


 いやそれだけではない。

 今目の前で行われた一連の出来事がさらに、彼女が神教最強たる不死鳥の座であることを示しており、開いた口は閉じることなく、


「な、なんで………………」

「ん~?」

「なんで貴方が………………神の座とてき………………いえ袂を分かつようなことを」

「………………口にしかけた言葉は飲み込んで正解よ蒼野君。あたし今、考えるより先に手が出そうになっちゃったもん」

「っっ」

「安心なさい康太君。冗談だから。今の質問に関しては道すがら話しましょ」


 一軒家の中に入り扉を閉めると振り返り、微笑みながら発せられた物言いに康太やゼオスが身構える。

 ただ蒼野本人はと言えばむしろ申し訳なさそうな表情を浮かべており、廊下を抜けリビングに辿り着いたアイビスが右手の指を動かし始め、虚空に何かを撃ち込み始めたのを見つめると、心底申し訳なさそうな様子で一礼した。


「気にしなくていいわよ蒼野君。悪いのはあたしなんだから。それよりこっちよ。着いてきて」


 そのタイミングでなんの変哲もないフローリングの床が左右に割れ、四方をブロック状の石で敷き詰められた通路が出現。

 奥を見通すことが出来ず、二人以上が並んで歩くことのできない狭さの通路を前に蒼野達が警戒の色を深めるが、彼らのそんな様子などお構いなしにアイビスが先導する形で突入。

 得体のしれない感覚に全員が尻込みする中、ヘルスがいの一番に入ると残る面々も順に中に入っていく。


「なんであたしが貴女達の協力者になったかについてだけどね」


 かと思えば最後尾を務めるゼオスが石の回廊へと踏み込んだところで、背後の隠し扉が音一つ立てることなく閉じていき、それに合わせ、敷き詰められている無数の長方形の石が淡い青白い色の光を放出。


「今のイグちゃんからはね、時折だけど前までは感じなかった違和感を覚えるのよ。だから協力することにした」

「違和感?」


これにより奥へと続く様子がしっかりと視認できるようになり、アイビスの真後ろにいるヘルスが安堵の息を吐き、それを聞き終えたところでアイビスが口を開く。

 結果語られるのは、此度の一件において彼女が蒼野達に協力することを決めた理由だ。


「普段の様子はね、あたしの知ってるイグちゃんと同じなの。けれど時折、これまで見せてこなかった一面を見せてくる。その理由をあたしは知りたい」

「これまで見せてこなかった一面っていうと、誰かに操られてる感じなのか? それとも糸が切れた人形みたいになるのか?」

「そのどちらかだとしたらあたしはこんな風に協力してないわ。直談判して化けの皮を剥がしてやってるっての!」


 より詳しく知るために質問した康太であるが、返答を聞けば確かにその方がアイビス『らしい』と言え、続けて積が『ではどうおかしいのか』と問うと、彼女は顔を渋いものにした。


「違和感に留まる、わざわざ指摘しない程度の。、れど明らかに『おかしい』と考えられる差異ね。そうね………………ボタンのかけ間違えをふとした時に見つけた感じかしら?」

「明らかにおかしいが、指摘するかと言えば迷う感じか。なるほど確かに気になるが」

「…………俺達が見た限り気になる点は見られなかったがな。いや、アイビス・フォーカスだからこそ感じた違和感という事か」

「そういう事」


 アイビスを含む七人は話しこそすれど狭い石の通路を歩む足は一向に止めることなく、ゼオスの言葉を聞くとアイビスが賛同。


「だからこそ、ここであなた達を出せば、何か大きな変化が見て取れるような気がしたの。一応聞いとくけど、今の自分らの立場はわかってる?」

「いえ、実はあんまり」

「………………それなら気を付けなさい。貴方達を取り巻く状況はわりと深刻よ」

「え?」


 気になる内容を騙り出したところで、先へと続く道が途切れた。


「どういうことですか?」

「イグちゃんは、信頼している面々限定してだろうけど、アーク殺害の犯人を伝えた。そしてその際の語られた名前が…………ここにいるヘルスを除いた面々。ギルド『ウォーグレン』に所属するあなた達5人よ」

「馬鹿な! そんなことをするメリットがどこにある!」


 再び五本の指で虚空をいじりながら淡々と語り出すアイビス。それに対し真っ先に声を挙げたのは康太である。


「メリットならあるわ。これから行われる神の座を賭けた決戦。それに出場するはずだった猛者を一人屠れるなんてメリットがね」

「あの、まさかお姉さまもそれを信じて………………?」

「まさか! けど情報を伝えられたごく一部の人間。アークを慕っていた部下や、家族だったノアが聞いたらどうなると思う?」

「………………想像はつくな」


 対するアイビスは平然とした顔でメリットを騙り出すが、優が信じられないという声で尋ねると鼻で笑い、更なる指摘を受けたところでゼオスがため息を吐いた。


「まぁそれが今のあなた達を取り巻く環境ってわけ。で、その事実が信じられないあたしは、名指しされたあなた達をイグちゃんにぶつけて反応を探る。ついでに邪魔者も引き付けておこうっていう魂胆なわけ。 理解できたかしら?」

「最悪だってことはよーくわかりました」


 とここで、彼らの行く手を阻んでいた石の壁が音一つ立てず消え去り、続く通路の先には幾度となく見てきた複数人が乗り込めるワープパッドの姿が。


「よし! 行くか!」

「その前に言っておくとね、万が一戦闘になったとしたら、あたしはイグちゃんの側に立つ。それだけは忘れないでね」

「つまり、できるのは後方支援だけってことだな」

「そういうこと」


 すぐに中に飛び込もうとするヘルスを腕で制して語られたことを聞くと積が要約し、それを聞いたアイビスが持ち上げていた腕を下す。

 直後に七人はワープパッドの上に順番に乗っていき、最後尾にいた康太が乗ったところでアイビスがプログラムを操作。

 最後のコマンドを撃ち込んだところで軽快な音が鳴るほど強くボタンを弾き、七人を乗せたワープパッドは黄緑色の光を放出。


「ここ、は?」

「あたしの自室よ。玉座に向かうのなら、ここから向かうのが一番近いはずだからね」

「素敵なお部屋ですねお姉さま」

「ありがとう優ちゃん」


 僅かなあいだ閉じていた目を開けた先に広がっていたのは、かつて蒼野が目にした優の自室に似ているぬいぐるみが何体も飾ってある私室で、詳しく見てみればイグドラシルやデュークと共に映っている写真やトロフィーの類が飾ってある棚も存在していた。


「こっち………………って、ちょっと待って!」

「うぉ!?」


 アイビス先導の元、部屋から出ていこうとする一行。

 がしかし、彼女の真後ろにいた蒼野は最初の一歩を踏み出そうとしたところで勢いよく突き飛ばされ、理由を説明されるより先に外へと通じる扉が閉められた。


「あら? あなたも出るのノア?」

「イグドラシル様が此度の急襲は同一犯による侵略行為と認定したのでな。最前線に立ち、指揮官としていち早く事態を収束させよという命が下った」

「そう。それなら早く片付けてきなさい。それがイグちゃ………………いいえ。神の座のためなのだから」

「言われるまでもないな」


 何事かと動揺した蒼野らも扉の向こう側で彼女が誰と話しているか気づけば彼女の判断を称える事しかできず、息を潜め、人によっては自身の口を両手で抑えながら待機。


「………………もう大丈夫。じゃあ行きましょう」


 それは十数秒後にアイビスが扉を開くまで続き、病的なほど白い廊下の中を彼らは歩く。

 もちろん途中で監視カメラに映され騒ぎにならないようアイビスが能力を発動するのだが、彼らは自分らが思っている以上に誰とも会わず先へ。

 その理由がラスタリアの外で動いているエヴァやネームレスにあると考えた面々は口にこそ出さないものの感謝の念を内心で唱え続け、


「着いたわ。じゃ、ここからはあたし抜きでよろしくね」

「ええ。ありがとうございますアイビスさん」


 最初に会った遭遇以外は一つとして障害にぶつかることなく玉座の前へ。

 先頭を歩いていたアイビスが一歩下がると、その意味を察した積が、ここにいる面々全員を代表するように扉を開き、


「あなた達は………………」

「お久しぶりです。イグドラシル様」


 その向こう側にいる神の座イグドラシルと視線を絡ませた。



ここまでご閲覧いただきありがとうございます。

作者の宮田幸司です。


投稿が遅くなってしまい申し訳ありません。本日分の更新です!

少々巻き気味ではあるのですが、一行は目標である神の座の元へと到着。変化したという神の座との会話に移ります。

これにより事態は次の段階、中盤戦の本筋へと向かいます。

その内容とは………………


それではまた次回、ぜひご覧ください!


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