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吸血鬼街小話 二頁目


「いやぁ驚かしてすまない! 一般的な人間と会えるのなんて初めてだったものでね! 危害を与えるつもりはないから安心してほしいな!!」

「ま、まぁそこは信じますよ」

「敵意は一切ないみたいだからな」


 突如レジカウンターから飛び出してきた店主が正気を取り戻したのはしばらく後。

 延々と繰り返される気色の悪い言葉に耐え切れなくなった康太が、持っていた神器の銃身で頭部を叩いた結果であった。

 額から少々血を流していた彼は、しかし吸血鬼特有の自己再生能力で傷口を瞬く間に塞ぎ、服や髭の汚れに気が付くと、自身の掌を気になる部分にかざし、血液を吸収。


「それよりアンタ、いま結構気になることを言ってたな。一般人と会えるのが初めてだと? そりゃ一体どういう事だ?」

「それにこの店の事も教えてほしいな。他の店とは雰囲気が違う。ありていに言うと地上で売ってるものが色々と置いてあるみたいだが」

「おお! そうですねそうですね! とりあえず自己紹介も兼ねてこちらを!!」

「…………名刺か」


 気になる点を指摘した二人の前に差し出されたのはこの店の主である彼の名刺で、名前欄には『イルフォルト』と記され、店名に当たる部分には『イルフォルト流通センター』と記されていた。


「流通センター?」

「はい。この場所では地上にある様々な機材や文化を取り扱っているんです。ただ………………あまり受けはよくないんですよね」

「そうなのか?」


 言葉の意味を正確に把握することが出来ず疑問符を籠め声を発する蒼野。

 すると人当たりの良さそうな笑みを浮かべる店主のイルフォルトは事情を説明し、それを聞いた康太が不思議そうな声を挙げた。


「そもそもの発端として、キュロスは我々吸血鬼にとって安楽の地であることを目標に作られた土地なのです。そしてその条件の一つには外界との隔絶があった。ですからこの場所に訪れた一般の方は、ここ千年の間で貴方がたを覗けば両手の指で足りる程度です」

「千年でその程度か。となると人に関する興味どころか、外の世界を知らない奴もいるんじゃないのか?」

「そうですね。さらに言えば、自分たちを地の底に閉じ込めた悪魔と考える人らも多く、地上に関しては子供たちに伝えない親も多いんです。その結果、地上の文化や物を毛嫌いする若者が増える」

「まぁ道理だな………………となるとアンタはかなりの変わり者になるものだが、なぜそこまでして地上に興味を持つんだ」

「そりゃ面白いからに決まってるじゃないですか!」


 指をさしながら探るよう尋ねる康太。それに対する返答は弾けるような笑みと共に行われた。


「面白い?」

「住まう人の多さすなわち文化の広さ! 地上にはこのキュロスには存在しない様々な娯楽や文化。それに美味の数々が存在します! 漫画にアニメ! 放っておけば粒子を使わず洗濯を終える鉄の箱! それに様々な味の世界はこの場所には存在しない魅力です! これに興味を持たないのはもったいないと私は思うのです!」

「あぁなるほど。確かにそこらへんに関しては地上とここじゃだいぶ違う」


 両手を広げ、自身の『好き』を表現するイルフォルトの言葉に蒼野は心から同意する。

 思い返してみれば彼はこの場所で雑誌やテレビなどの娯楽は見ておらず、洗濯機は勿論冷蔵庫も存在していない様子であった。

 とはいえそれらの機能を持ちえた粒子術は存在していたので「賢教に近い文化」と蒼野は流していたのだが、あれはただ知らなかっただけなのだと知ると、文化の差を前にして唸る。


「いや待てイルフォルトさん。アンタいま味に関しても言及したな? なんだなんだ。吸血鬼ってのは味音痴なワケじゃないのか!?」


 続けて康太が気づく。自分たちにとってとても重要な点に関して。

 するとイルフォルトは複雑な表情を浮かべ、


「吸血鬼を代表して………………などというと大げさなのですが言わせてもらうと、そのあたりは我々の大きな欠陥。君達との大きな違いでしょう。というのも私達の大部分はね、食に関する興味がそこまで強くないんだよ。だから一度おいしいものを知ると『それだけでいい』と思う。知的好奇心を働かせて『これ以上』や『これ以外』を望む事がないんだ」

「なるほど。そういう類か」

「わかるのか?」

「ああ。旅行してたらたまにそういう人らが集まる場所に行くからな」


 そう説明。康太が尋ねると蒼野は頷き、色々と補足をし始める。


「………………てことはなんだ? 例えば俺らが努力さえすれば、この場所に新しい食文化、俺達に合う料理の数々を持ってくることが出来るってことか!」

「………………………………あ!」


 それらを全て把握した時、康太の頭に電流が奔る。次いで自分らが空腹で苦しんでいたことを知らせる腹の虫がなり、二人の視線は勢いよくイルフォルトへ。


「すまないがすぐに君たちの期待に応えることはできない。私は保存の術式を持っていないからね。野菜や肉の類は置いていないんだ。だから料理とかは難しい。幸いお菓子の類ならあるがこれも甘味の類だ」

「地上の甘味! それだけでもありがたい! 金は払うからくれ!」

「大したものじゃないからお金はいらないよ。お題は上の話で頼む」

「それは別にいいんだが………………お! 羊羹か!」

「確かにこいつらなら日持ちするから長期間置いておけるな」


 地上の様々なものが置いてある石造の棚を漁ったイルフォルトが取り出したのは、掌に収まるサイズの羊羹の束で、蒼野と康太は水を片手に次々と咀嚼。

 それは五分ほどのあいだ続き、空腹を埋めれたところで二人は息を吐いた。


「そういえばさっき『すぐに』って言ってましたよね。てことは少し時間をかけたりすれば持ってきてくれたりするんですか?」


 脳に栄養が行けば思考も鮮明になり、ふと気になった蒼野が質問。イルフォルトは頷き、


「私だけが利用できる誰にもバレてない秘密の抜け道があってね。そこから地上散策をよくやってたんだよ。だからまぁ、野菜やら肉も、持ってこようと思えば可能だ」

「お! コイツを見ろ蒼野!」

「おぉ! いいものがあるじゃないか!」


 続く質問の返答と康太が棚から引っ張り出した物を見ると蒼野は顔を綻ばせ、未だ満足していない自分の腹に一瞬だけ手を置き二人に提案するのだ。この場所にはない新たな食の道を。


「空腹を埋めてもらったお礼だ。康太、俺と一緒にカレーを作ろう!」


 

ここまでご閲覧いただきありがとうございます。

作者の宮田幸司です。


先日は更新できず申し訳ありません。祖母の家にはwifiがなく、他に借りる当てもなくお休みさせていただきました。

さて四日ぶりである今回のお話は事前に話した通りの日常編。異文化交流です。

今回で2/3は進んだので、次回で最後。みんなで一緒にカレーを作って食べましょう!


そしてそこからは四章後半の中盤戦。彼らは再び戦いに身を投じます


それではまた次回、ぜひご覧ください!

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