ギルド合同会議
「行動指針は決まったわけだが、無策で突撃するつもりはないからな」
「そりゃな。もし本当に敵対してるなら無謀としか言いようがねぇ」
ギルド『ウォーグレン』に所属する少年少女。そこにギルド『彼岸の魔手』の三人を含めた合計八名。
つい数時間前まで敵対していた彼らはしかし、情報交換を終えた今、手を結ぶことに異論はなかった。
「なんにせよ一時休戦、てことでいいんだよな?」
「いやいや、こうなったからには結ばれてた契約は解除! 完全な味方だと思ってくれていい。順当に行けばあの場を生き延びた俺らも、神の座のターゲットなわけだからな」
「……俺達は未だ半信半疑だが、貴様らからすれば疑問を挟む余地はない、というわけか」
「あぁ」
『昨日の敵は今日の友』
そんな言葉がピッタリ当てはまる彼らは、とはいえすぐさま動き出すことはなく、吸血鬼コークバッハの自宅にある長机で顔を合わせ、場を取り仕切るために積が立ち上がる。
「なんにせよこうやって手を結べることは喜ばしいことだ。色々と因縁深い俺達だが、今回は相手側に全幅の信頼を置いてもらえればと思う………………その上でまず確認したいことだが、探知系の力を持ってる奴らはいるか? 可能であれば神の座の居場所だけじゃなく、姿形まで見ておきたいんだが」
定型句を挟み、最初の課題を取り上げる積。これに対し挙手したのは三人。ゼオスにイレイザー。そしてネームレスで、ゼオスの手の内に関しては既に知っているため省略。別ギルドに所属してる二人の発言を促すよう視線を向けた。
「俺の場合はデスバットがある場所の様子を覗き見ることができる。ネームレスの場合は、色々なもんを取っ払った結果の監視だな」
「色々な物を取っ払う?」
「ネームレス」
「………………まぁ、流石に三度目の衝突はないだろ。誰にも言わない………………なんて誓えるとは思ってないけど、とりあえず言っていいぞ。必要だろ?」
「助かる」
対応したイレイザーは自身の能力に関して説明。次いで隣に座る着物姿の同僚に許可をもらうと、あらゆる事柄の取捨選択ができることを説明。さんざん煮え湯を飲まされた希少能力の正体に彼等は息を漏らす中、積は彼女を潜入に使うのを控えることを伝えた。
「どうしてだ? 自分で言うのもなんだけど、最良の選択肢だと思うぞ」
「メリットを見るだけ、というよりうまくいった場合はな。ただおそらくそう上手くいかないはずだ。ラスタリア全域にはゼオスの時空門やら瞬間移動を封じるような結界が貼られてるんだが、その中に透明化やら気配殺しの無効化も含まれてる。とくれば」
「何の成果も得られず痛い目を見て帰ってくる可能性が高いのか。なら却下だな」
「なら奴さんの様子を探るのは、デスバットが仕留められたところで痛くもかゆくもない俺の出番だな。最低限の仕事は行えるよう、努力させてもらいますかね!」
理由は告げた通りでありネームレスも素直に従い、イレイザーが立ち上がると希少能力デスバットを展開。
きわめて視認しにくい蝶の群れが、次元を超えラスタリアへと向け飛翔し始めた。
「さてと、なら次は現地到着後の行動指針だが――――」
「その前に一つ。悪いが俺は数に含まないでほしい。今回に限り、別行動をさせてもらう」
「オイオイ、全員で一致団結して動こうって時にそりゃねぇだろレオンさん」
次に行われるのはラスタリア内部での動きに関してであるが、そのタイミングでレオンが待ったをかけ、彼の告げる内容を前に康太が不快感を含む声をあげた。
「…………もちろんお前たちが危険になったら動く。だがそれまでは単独で動かせてもらう。この点に関しては譲るつもりはない」
「で、ですけど」
「待て優。どれだけ言葉を重ねても退く気がないなら反論したって意味はない。ここは危機的状況には動いてくれるって時点で満足するべきだ」
「………………本当に善のような事を言うようになったな積君。助かるよ」
「………………………………ドーモ」
すぐさま口を挟む優を止めたのは積では、慈愛と感嘆の念を込めたレオンの声を聞くと、しばらく間を置いた後に短く返答。すると言うべきことは終えたということなのだろう。レオンは立ち上がると部屋から出ていく。
「気を取り直して話をするぞ。問題なのは『どこまで戦力を集めるか』だ」
「どういう事だ?」
「真正面から会いに行かないにしても、戦力はできるだけ集めておきたいってことだろ。例の仮面の軍団がイグドラシルの配下なら、質と量の二点でこっちは完全に劣ってるからな」
「あ、そうか」
「相手は世界を支配している立場の人間だ。最悪を想定するなら連絡手段全般を察知されてる可能性が高い。というか世界中を直接見れる手段があると言われても俺は納得するぞ」
「…………ネームレスに一つ聞きたい。貴様の能力は他人にも効く類か?」
「貴様ってお前なぁ。いやまぁいいか。接触してる相手限定だけど同じ効果を発揮できるよ」
「なら連絡係として動いてもらいたいな。相方はゼオスがいいが………………神器で能力を打ち消しちまうか」
「……神器を展開しなければいいだけの話だ。瞬間移動でなくても時空門でも十分な効果があるはずだ」
「ならそうするか」
その姿にやや落胆した面々もいたが、話は更に先へ。
連絡手段として隠密性のある二人を選択し、援軍候補として真っ先にどの勢力にも属していないヘルスを挙げた積は、そこからさらに無所属の面々数人をピックアップ。
「――――」以上だ」
「え、ちょっと待って積」
「一番重要な人らを忘れてるだろ」
締めくくるようそう言い切るが、ここで優や康太が眉を顰めた。
「…………悪いが今回ガーディアさん達はなしだ。理由は合流してすぐに伝えた情報通りだ」
彼らの意図を汲んだ積が口にするのは、つい先ほど自分らの命を救った和装の美女、神崎優香の語った最後の言葉。
『果て越え』に気をつけろという言い回しだ。
「気になってるのはオレとて同じだ。だが多少のデメリットを抱えるにしても、あの人らが参加した場合のメリットの方が遥かに大きいと思うぞ?」
「…………少々頼りすぎている自覚はあるがな、ガーディア・ガルフやガーディア=ウェルダさえいれば、どれほど多くの敵がいても負けることはないはずだ。そのメリットを捨てる意味がどこにある?」
これに対し即座に否定的な意見を出したのは康太とゼオスというギルド『ウォーグレン』における二大戦力であり、蒼野も優も、口にこそしないもののそちら側に傾いていることはすぐに把握できた。
「そうだな。俺もそう思うよ。ただこれは理屈のない、いわば直感なんだけどな、あの言葉は受け入れた方がいいと思うんだ」
「どういう事だよ?」
「言葉通りガーディアさんらを疑えってことじゃないってことだ」
「?」
「なんにせよ今回彼らは呼ばない。もし勘違いで終わった場合、あの人らが生きていることを知れば別の大事が起きる。出番があるとすれば、それは全面戦争に突入した時だ」
「逆を言えば、今回はそこまで大事にするつもりはないと」
「今回の目的はあくまで謁見。秘密裏に動いて、もし交渉が決裂したにしても戦闘はせず、早急な撤退に全力を注ぐつもりだ」
それでも積は自身の意志を曲げず、今のギルド『ウォーグレン』の代表が誰であるかを把握しているゆえに残る四人もそれ以上文句は言わない。
と同時に行動指針を説明するがこれに対し文句を言うものはおらず、
「さて、ここまでの話を纏めるぞ。
第一に今回の目的はあくまでオルレイユに関する事情を探ること。つまりできる限り戦闘行為は避ける予定だ。もし危険な状況に陥っても逃げの一手。幸いラスタリアから出ればゼオスの能力でどこへでも逃げれるから、そこまで危ない賭けでもない」
「………………そうだな。それで誘う戦力は」
「筆頭候補としてヘルスさん。まぁここは通るだろ。ここにアイリーンさんや鉄閃さんを加えたいところだが、ここら辺は時間との勝負だな。
で、原則として四大勢力に所属している人はなしだ。詳細がわからないうちに俺達に関わった結果、立場を悪くするのは忍びない」
「手を借りるとすれば、全面戦争開始以降ってことだな」
「ああ」
まとめ役の積が全体を一瞥し口を開くと、他の面々が時折合いの手を入れながら会議は終局へ。
内容に関し異論を挟む者は誰もおらず、会議は終わりを迎えた。
「ひとまず俺とネームレス。それにゼオス君のターンだな。残った奴らは今のうちにゆっくり休んでおけよー」
「頼みます」
「いい時間だと思い軽食を用意した。君達さえよければ食べてくれ」
「助かります」
やや張りつめていた空気がほどけ、幾人かの口から安堵の息が漏れると既に動き始めていたイレイザーがそう告げ、ゼオスとネームレスはレオン同様屋外へ。
残った面々はコークバッハの行為に甘え、机に置かれたサンドイッチを頬張り、
「ん、おぉ………………」
「………………………………ま、まずいっ」
「む、お口に合わなかったか。これは申し訳ない」
吸血鬼とただの人間の味覚の差。それを前に唸り声をあげた。
ここまでご閲覧いただきありがとうございます。
作者の宮田幸司です。
中盤戦前哨回。流石に無策で突っ込むことはありませんよ、なんてことを伝える回。
こういうのを書いていると、今の積は本当に心強く感じます。
ついでに言うと一話でまとめられてよかったと思います。
さて次回はちょっとした息抜き。吸血鬼の町のお話です。
驚きの連続である中盤戦前に、少しだけお休みしましょう
それではまた次回、ぜひご覧ください!




