作家は舞台に舞い降りた 一頁目
「………………冗談にしても笑えないな」
「そうね。色々と理屈はあるんでしょうけど、流石にそれは間違ってると思う」
『ん?』
少々の溜めを作った上で行われた機械音声の告白であるが、受けた面々の反応はいまいちだ。
イレイザーやネームレスは無表情に近いながらも信用しきっていない様子で、ゼオスと優に関しては真っ向から否定している。
ただ一人、レオンだけは深刻な表情を浮かべているが、残る四人の様子を見てその場で反論するのは控えている。
『おいおい。随分と冷めた反応だね。お前らの命に関わることだぞ?』
その様子を『彼岸の魔手』のボスは内蔵しているカメラで確認し、あきれた声が首から発せられる。
ただそれを受けてもやはりゼオスや優の様子は変わらない。聞くに値しないという様子を保ったままだ。
「そりゃまあそうなんだけど、それってすっごくおかしな論よ。アタシ達が見ちゃいけない秘密ってのは何? 話に出てきた仮面?」
「…………他の何かかもしれんが、なんにせよ納得できない点がある。俺達を殺すタイミングについてだ」
『タイミング?』
「…………そうだ。もし神の座イグドラシルが本当に犯人だとすれば、俺達を殺せるタイミングはいくらでもあった。他にも貴様が出した以上に強固な根拠が俺達にはいくつもある」
「あとこれは基本的な事なんだけど、顔さえわからず安全圏から話すアンタを、アタシとゼオスは信用していない。おわかりかしら?」
『………………言ってくれる』
理由は今しがた二人が告げた通りであり、至極残念な事に合成音声の主が反論する術はない。
『まぁいいさ。必要最低限とはいえ情報は渡した。あんたらならこれだけの情報でも、何とか切り抜けるだろ』
だからこそか、はたまた別の理由かまでは彼らに判別できない。
ただそれだけ言い終えると正体を知るまでは生首だと思っていた機械の塊は音を発するのを止め静止。しばらくして彼らは、慌ただしかった空気が去り、平穏が戻ってきたことを把握し息を吐いた。
「さてと、とりあえずはこの場所についてもうちょっと知らなくちゃな。コークバッハさんだっけか? 一応俺達まで保護対象ってことでいいのか?」
「ついで、という形ではあるがな。ぞんざいに扱うつもりはないゆえ、安心するといい」
「助かる。ならこの町に関して詳しく教えてくれ。差し当たって重要なのは………………」
イレイザーは再び首を持ったネームレスと共にコークバッハに対し聞き込みを開始。レオンは動く気配をまるで見せず、黙ったまま俯いており、
「……これからどうする?」
「とりあえず蒼野達と合流しましょ。大方の敵はこっちに引き寄せられたはずだし、康太もいるから上手い事逃げられたと思うんだけど」
根っから信じていないゼオスと優の二人はうつむいたままのレオンの前で会話。
優は四次元革袋から自身の携帯端末を取り出すと蒼野番号を選び耳に当てる。
「………………おかしいわね。まだ逃げ切ってないのかしら?」
「……どうした」
「連絡がつかないのよ。もしかしてあいつらの身に何かが………………」
しかしどれだけ待っても返答はない。延々と呼び出し音だけが繰り返され、優の顔が徐々に青くなっていく。
「………………すまない急用だ。この場所から誰にもバレず探知術を行いたい。可能か?」
その様子に呼応するようにゼオスの動きは迅速になっていき、装備や町に関して聞いていたイレイザーの会話を切り、単刀直入に質問。
「我々が最も重要視しているのは他者にこの場所を知られない事だ。とすればあなたの要望は我々の得意分野ということになる」
「……行ける、ということでいいんだな?」
「ええ。そう思ってもらって構いません」
イレイザーとの会話を途中で止め腰の後ろで手を組むと、背をしっかりと伸ばした状態でレオンや優がいる机の前へ。
そこで椅子を出した時のように指を鳴らすと、机のど真ん中に円形の鏡が現れた。
「範囲とか場所の予想がつかないんだけど大丈夫かしら?」
「ご安心を。我々の探知術はこの世界全域に及びます。この世界のどこかにいるのでしたら、必ず見つけられます」
「…………そんなことが可能なのか?」
心配げに尋ねる優であるが、コークバッハが胸を張っていった言葉を聞くとゼオス共々動揺。
ゼオスが即座に問いかけると、さも当然という様子で口を開いた。
「探知術の最も簡単な方法は粒子を周囲に撒く事です。そしてこの方法に関して言えば範囲に関して限りはない。つまり無限です」
「まぁ………………言われてみればそうなるわね」
「ここからは解釈を広げることになるのですが、つまり世界中の木に養分を送る。定期的に空気に風属性を混ぜる。流れる海や川に水属性粒子を混ぜる。これらを繰り返せば、理論上探知術の範囲を世界全体に広げられるのです」
当たり前というように語られる内容は、けれど当たり前と言えるものではない。
言い方を変えれば探知術を半永久的に行わなければならず、それに加えて膨大な量の粒子が必要になるのだから。
「あぁ。粒子に関してはご心配なく。高位の吸血鬼は月夜の下では無限に粒子が補充されます。加えてこれは当番制なので、疲労の蓄積もありませ………………おや?」
「どうしたんですか?」
そんな二人の疑問を言われずとも把握したコークバッハがそう告げるのだが、自信満々な声色が突如変化。咄嗟に優が尋ねるのだが、その表情は驚愕に染まっていた。
「………………信じられない。彼らは今、世界中のどこにもいない!」
「え!?」
「………………まさか」
「古賀蒼野さんらの痕跡がどこにも見当たらないのです!」
「「!」」
続く発言を受け、ゼオスと優が言葉を失う。考えたくもない可能性が頭をよぎる。
「どういうことだ?」
「空気が入らず、土の地面に触れていない場所にいる可能性も十分にあります。しかしですね………………最悪の場合、彼らは原型を留めておけない勢いで殺された可能性があります………………」
側で聞いていたレオンはというと強烈な殺気をあたりにまき散らし、それを受けたコークバッハは早口でそう釈明。
とはいえ遠くで話を聞いていたイレイザーやネームレスを含め、全員がその顔には不安の色を帯びており、一刻も早く動かなければならないという思いが募り出していた。
「さてと、まずは場所の確認なんだが、ここは………………どこかの廃屋か?」
「周りに誰もいない状況か。普段なら好都合なんだが、追っ手から身を隠すことを考えるとそうも言いきれないな。人を隠すなら、やっぱ人の中がいいだろうからな」
「特に相手がああいう連中の場合はな」
時は十数分、場所は蒼野達三人に移る。
狂気で身を包んだ仮面の大群から逃げ延びた彼らは、すぐに状況の把握に努め把握。
今いる場所が人気がなく、とうの昔に捨てられた廃屋であるという事に気づくと、左手を腰に、右手を頭に添えた康太がため息を吐き愚痴をこぼす。
「なんにせよあっち側と連絡を取るべきだ。他の話はそれからだ」
積はそんな康太を尻目に端末を取り出し、それを見届けた蒼野が康太の肩を叩き廃屋の錆びた入口の扉の前へ。
義兄弟の目的が周辺警備の類であると知ると、積に目で合図を送り、廃屋から出ていく。
「目印になるような建物が欲しいな。それならこっちの位置を伝えるのが楽なんだが」
「欲を言うならこの場所の名前そのものを知りたい。そっちの方が楽だ」
先を歩く蒼野と康太は肩を並べながら周辺を確認。
今いる場所がうち捨てられた街の外枠に当たる部分であることを知ると更に前に進み、その目ははっきりと捉えたのだ。
「え?」
「………………どういうことだよ。こりゃ」
街から続く、ロクに整備されていない車道。その先に広がる草木一本生えていない荒涼たる大地。
そしてその先に広がるはずの光景全てを断ち、彼らを待ち構えるように佇む『闇の森』の姿を。
ここまでご閲覧いただきありがとうございます。
作者の宮田幸司です。
随分と遅くなってしまいましたが本日分を更新です。
この時点ではタイトルの意味が分からないかもしれませんがそれは次回で。
兎にも角にも目の前に現れた驚異の対処へと話は移ります
それではまた次回、ぜひご覧ください!




