古城跡地 ヘレンケス
「あいた!」
「ここはどこだ? 下に落ちたってことは………………地下か?」
一瞬間を置き声のした方角に体を傾けた彼らは、それからしばらくの時を置き、尻餅をついた。
奇妙なのは落ちた感覚が全くなかったことで、とはいえ土の壁が広がる様子や姿勢から、イレイザーの口にする通りこの場所が地下であることは明白であった。
「………………………………」
「貴方が俺達をここに?」
「ギルド『ウォーグレン』の紅一点。あのお方が快く思っていないアイリーン・プリンセス撃破に貢献した尾羽優。そして我ら全員が目の敵にするシュバルツ・シャークスを打倒したゼオス・ハザードさんですね」
「あ、はい」
「…………俺だけの手柄というわけではないがな」
「ついてきてください」
もう一つだけわかることがあるとすれば、自分らを助けた男が目の前の存在であるという事であり、
男は銀髪をオールバックにした赤い瞳をした偉丈夫で、全身を黒のフードですっぽりと隠しており、疲れと突然の事態から少々唖然としていた二人にややぶっきらぼうに話しかけると、踵を返し先へ。
「すげぇなおい」
「ちょっと前にアタシらは地下にある色々な場所に訪れたんだけど、それ等と比較しても一際すごいわね
最初に呼ばれた二人が前を進む男の先についていき、やや遅れて残るレオン達追従。十分ほど歩いたところで、奥に広がっていた大空洞に辿り着き、作られた世界に息を呑んだ。
そこにあったのは果てが見えぬほど巨大な都市で、石造りの建物を基盤とした街並みは現代には追い付いていないものの、粒子術を用いて行っている様々な物や事、それに活気は、賢教の文化に大きく偏っているように見えた。
「おいおい、そいつら外のニンゲンじゃないか! なんでこんな場所にいるんだよ!」
「エヴァ様がおっしゃっていたギルド『ウォーグレン』達のものだ。上の方で危機的な状況に陥っていたようなのでな。一時避難場所として提供するつもりだ」
「なぬ! この人らが例の! まずいな。色紙を持っていないぞ!」
「後にしろ。まずは地上のごたごたに関してだ」
彼らはそんな街のど真ん中を男に続いて歩き続けたのだが、町を歩く人々の様子。
それに今しがた反応した青年の様子や顔を見て、確信を持つことができた。
(イレイザー。こいつら全員、絶滅したはずの吸血鬼だ)
(そりゃ俺とてわかることだが、絶対に口にするなよ。話が変な方に拗れるのは御免だからな~)
この場所に住む者達は全て、地上では絶滅したとされる吸血鬼であると。
つい最近エヴァ・フォーネスが現れたことでその事実は覆される事になったが、それでもこれほどの数が一か所に集まっているなど、この場にいる五人は誰一人押して知らなかった事実である。
「ロクなものが用意できんが、とりあえず座ってくれ」
「あ、はい」
そうして案内されたのは屋敷と呼べるほど大きな一軒家で、玄関を抜けリビングに入ると、老人は大きめのテーブルの前で手を二度三度と叩き、その度に木の椅子が一つずつ虚空に現れ、ゆっくりと床に落ちていく。
それが人数分行われると席に着くよう促され、優たちは了承。
「私の名はコークバッハ。今いる西区全域の統治を任されている身なわけだが、まず諸君らの混乱を解いておこう。この場所の名は『キュドラ』という。一応はかつて栄華を誇った土地『ヘレンケス』の真下にある」
「ヘレンケス………………」
「知ってるのか優君」
「観光好きの蒼野が話してるのを何度か聞きました。千年前の戦争の頃まで残ってた独立国家で、ものすごいおっきかったんだけど一晩のうちに滅んだとか。その原因が賢教にあるとかいう噂もあるらしいです」
「それは嘘だ」
「あ、嘘なんだ」
「正確には千年前にエヴァ様がガーディア・ガルフと協力して新たな土地を耕し、ここに移住した。理由があってな」
「理由はその………………この町に住む人らの特異性ですか?」
ややぼやかしていた点は全員が聞くべきか迷うところであった。
ただそこに踏み込まなければ話がうまく進まないことをレオンは察知し、少々迷った末にそう発言。彼ら全員を招いたコークバッハは頷いた。
「諸君らは既に気づいていると思うが、この町に住むのは全員吸血鬼だ。賢教の連中の内の一部は我らがひた隠しにしていたその事実を知っていて、教皇は脅迫材料として利用した。そして、それを憂いたエヴァ様が一計を講じたのだ」
続けて行われた説明はこうだ。
吸血鬼一族はその秘密をダシに望んでもいない戦争に駆り出されかけた。それを防いだのが真祖の吸血鬼たるエヴァ・フォーネスで、それ以降、彼らは恩義から彼女に仕えているのだと。
「異世界の生物を使役できるのも彼女の協力あってのもの。貴方らを助けたのも彼女との縁があった故だ。だからこそ聞きたい。汝らにとってエヴァ・フォーネス様は何ぞや?」
「エヴァ・フォーネス………………」
「彼女が、アタシ達にとってどのような存在か。ですって?」
続く問いかけに彼等は答えられない。思わず黙ってしまい、その影響で場を言いようのない沈黙が支配し、
『お話し中のところ申し訳ないがこちらの用事を済ませてもらおう。君たちに話すことがある』
そんな中、声が響く。
それはネームレスの持ってきた首が発したものであった
ここまでご閲覧いただきありがとうございます。
作者の宮田幸司です。
申し訳ありません。酔っていて変な文章で上げていたので、もう一度投稿し直しました
内容の変更点は最後のあたりです。本当に申し訳ない。
次回は普段通り投稿しますので、よろしくお願いいたします。
それではまた次回、ぜひご覧ください




