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厄災来たる 一頁目


 レオン・、マクドウェルが取り乱す原因となったオグノム・バローダは 四大勢力に所属していないフリーの大斧使いとして名の知れた益荒男である。

 氷と地の二属性に加え、爆発させ・砕くという二工程により敵対者を仕留める能力『爆砕』を持つ彼は、豪快かつ柔軟な思考をした性格から、多くの者に慕われていた。


 そんな彼はしかし、今からおよそ十年前、亡くなった。

 世にも有名な大惨事。レオンと蒼野達の師である善が進む道を違え、パペットマスターという怪物が生まれることになったきっかけ。

 この星に蔓延っていた多くの『超越者』が命を落とす結果になった出来事。


 後に七・二八『蒼雷の悲劇』と呼ばれる事件の被害者の一人が、今しがた彼らの目の前に現れた男なのだ。


「…………ライフドールか?」

「いやそんなはずはない。だとしたらなぜ人形師を殺す。意味が分からない。そもそもライフドールの根底にある理念は、一個人を『再現する』ことだ。だから対象本来の気質から大きく離れる形の人形は作れないという制限がある」

「……つまり?」


 体勢を立て直そうとする康太達を尻目に、突如現れた登場人物たちに対し警戒する姿勢を見せるゼオスとレオン。

 彼らの瞳の先には二つの脅威が映っており、油断なく構えると同時に意識の共有を行っていき、


「あんな禍々しい空気を発せられるはずがない!」


 そう断言するとともに事態が動き出す。

 『彼岸の魔手』のボスを倒した、かつてシュバルツ・シャークスをも苦戦させた狂戦士。

 そしてレオンが死人だと断定する大斧の益荒男が、呼吸を合わしたかのように同じタイミングで地面をける。


「そっちは任せる!」

「…………あの人相手に互角の戦いを繰り広げた怪物だ。そう長く時間を稼げはしないと思え!」

「わかってる!」


 レオンが大斧の方へ。ゼオスが鉄球を掴んだ狂戦士と視線を合わせ、己が得物を手に距離を詰める。


「オグノムさん! 俺だ! レオンだ! 生きているのなら…………いや意識があるなら返事をしてくれ!!」


 その最中にレオンは叫ぶ。

 二度三度と、手数ではなく威力に重点を置いたことが一目でわかる大ぶりの攻撃を捌きながら、自身の存在を必死に訴えかける。

 浅黒い肌をした木の幹のように太い両腕と両足に加え、目の前の存在がオグノム・バローダであると知らしめる、何よりの証拠である大斧の神器ガモグレアリス。

 その全てを必死に防ぎながら、正気を取り戻すように声をかけ続ける。


「――――――UUUUUUUUOOOOOOOOOOOOOOOOOO!」

「!}


 そんな彼の望みを断ち切るかのように目の前の怪物は咆哮。

 直後におぞましい空気を帯びた漆黒の闘気を纏うと、大斧を振る速度が著しく上昇。先ほどまであった余裕が勢いよく削られていき、額から汗が流れる。


「致し方がないな!!」

「卯男!!?」

「常日頃の貴方とは違う。技量のない幼稚な大ぶりなら、十分に対処できる!」


 だがなおもレオンは怯まず、延々と受け流しを実行。

 それが千回を超えたところで咆哮をあげる狂戦士の体幹が崩れると、膝で大斧を強く叩き地面に沈め、引き抜かれるより早く両腕を跳ね飛ばすと、追撃として顔面を真横に蹴る。


「………………獣みたいなのは声だけかと思ったが、普段とは比べ物にならない力技を見るに脳までやられたか? なんにせよこれで、勝負ありだ」


 何度か地面をバウンドした後に、木の幹に体をぶつける見知った姿。

 その様子に少々胸を痛めながらも言うべきことを告げるが、このタイミングでゼオスが体中に切り傷を刻みながら後退。

 荒い息を吐き肩を上下させる姿を前に、残された時間がごく僅かであることを把握し、


「UUUUUUUUUUUUUUUUUOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!!」

「なにっ!」


 予想していない事態がレオンの前で起きた。

 一瞬目を離した隙に目の前まで迫ったオグノム・バローダ。彼のなくなったはずの腕が再生し、咆哮を挙げるのと同時に、拳で殴りかかって来たのだ。


「っ!?」


 受け流すという選択をする余裕すらなく、とっさに二本の神器を重ね身を守るレオン。

 これにより二本の剣と拳が真正面からぶつかることになるのだが、ギリギリ吹き飛ばずに耐えきったレオンが感じたのは、自身が知っているものを遥かに超えた膂力だ。


(あの仮面の影響か。いやそれより…………腕が治っている?)

 

 気になるのはそれだけではない。

 自身が間違いなく切り飛ばした両腕が戻り、傷跡一つ残っていないのだ。

 もちろん蒼野や優が行うような優れた時間逆行や治療術の可能性があるが、オグノム・バローダがその手の力に疎いことをレオンは知っている。


「………………どういう理屈だ?」


 剣を掴む掌にさえロクな力が入らず舌打ちするが、それ以上に気になる仕掛けに思考を割くレオン。

 彼の見ている前で仮面で顔を隠した益荒男は再び前進を始め――――その左半身が、突如勢いよく吹き飛んだ。


「何してるんだよお前! もう時間が残ってねぇぞ!」

「イレイザーにネームレスか。久しいな!」

「久しいじゃねぇんだよこの馬鹿! 事態をしっかり把握してるのか!?」

「………………そうだな。これ以上は無理か」


 声のした方角に視線を向ければかつての職場仲間の姿があり、こんな状況にもかかわらず、レオンは懐かしさを覚えてしまう。

 ただイレイザーの必死の叫びを聞き完璧に気持ちを切り替えると周囲を一望。


「大丈夫だったか積!?」

「問題ねぇ。神の座は安全圏に逃がした!」

「じゃあこっちを手伝って。結構ヤバイ状況よ」


 ゼオスが抜けた穴を康太や優が埋め、イグドラシルを安全圏まで送ったらしき積が戻って来たのを確認すると大きく息を吸い、


「撤退だ! この場からすぐに引き上げるぞ!」

「レオンさん!?」

「不服も反論もないどういう理由だ? それくらい教えてほしいんだが?」

 

 断言。

 優が困惑の表情を浮かべ、康太が視線を狂戦士から外さず尋ねかけ、


「およそ一時間前、『黒い海』がオルレイユにやって来るという警報が鳴った! 予告によれば一時間十五分後。つまり今から十五分後だ!」

「なるほど。そりゃキツイな!」

「でも待って! このメンツならうまく動けば黒い海を沈められるんじゃ!」

「いや無理だな。範囲はオルレイユ全域。予報通りならダントツで過去最高だ。そんなもんの相手するのが馬鹿らしいと思わないか?」

「この人工島全域って………………そんなことがあり得るのか?」


 声高に口にした内容を聞き当初は意見が分かれていたギルド『ウォーグレン』の五人だが、イレイザーが告げた追加の情報を前に顔を歪め、吐き気さえ覚える。

 と同時に彼等は撤退の意志を固め、


「なぁ!?」

「十五分後じゃなかったのか!?」

「文句言っても仕方がねぇ! 急げ!」


 その瞬間、事態は再び大きく動く。


「なん、だ。あれは………………」

「信じらんねぇ。あり得るのか………………こんなことが!」


 オルレイユに聳え立つ、天を突く摩天楼。それらさえ呑み込むため、雲を突き破り、なおも上へと伸びる漆黒の柱。

 それがオルレイユを閉じ込めるような檻として何本も生えていく。その光景はこの世の終わりを示しているかのようだ。

 だがしかし、彼らが注目したのはその点ではない。それ以上の驚愕がそこにはあったのだ。


「逃げるぞ。これは、俺達だけでどうにかできるものじゃない………………」


 彼らが勢いよく目にした漆黒の柱の数々から、出てきたのだ。


 目の前で自分たちを阻むように立ち塞がる仮面の狂戦士。

 彼らと同じような仮面を被り、狂気の空気で体を埋めた、百を超える障害が。


 




 


ここまでご閲覧いただきありがとうございます

作者の宮田幸司です。


さぁ続けていきましょう。四章後半戦。

今回の話で、危機は彼らの冒険のクライマックスに相応しい物になって来たのではないかと思っております。

次回は逃走劇。彼らの行く末に溢れんばかりの幸せがあることを願いましょう。


それではまた次回、ぜひご覧ください!

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