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ライフドール――――命映しの影――――


 目にしている光景が現実のものであると、空に浮かんでいたゼオスは信じられなかった。

 彼は今の今まで、レオン・マクドウェルと戦っていた。苦戦を強いられ窮地に追い込まれていた。

 これが夢でないといことは、全身を襲う痛みと倦怠感、それに頬を撫でる風が証明している。


 だとすればこれはどういう事なのかと、脳内を疑問が渦巻く。

 自身を守るように壁となる二本の剣を繰る剣士。彼もまたレオン・マクドウェルであることに確信を持ててしまうのだ。


「こちらにも刺客が送られてきてたんでな。相手が相手だったゆえに苦戦した!」


 四本の剣の鍔迫り合いから固まっていた状況。それが自分を守るように立ち塞がるレオンの声で溶けていく。

 直後に視線を動かしてみればレオンの体には数多の生傷が刻まれており、この場所に来るまでに行われた戦いの熾烈さを把握できた。


「…………今の状況は、俺を殺せる大きな好機だった。そのタイミングで割り込んだ貴方を、俺は本物のレオン・マクドウェルだと考えるが………………知っていることがあるなら教えてほしい。俺達の前に立ち塞がるもう一人のレオン・マクドウェル。あれは一体なんだ?」


 空中に留まることを辞め地上へと降りていくゼオス。それを見届け二人のレオン・マクドウェルも交えていた刃を外し、向かい合うように切り刻まれた地面に着地。


「ライフドール、それがお前が対峙していた俺の正体だ」

「………………ライフドール? 知らん名だな」

「別名を命映しの影とも言う。対象に非常に似た姿の人形を作り、そこに対象の体から吸い取った『魂』の一部を付着させる。それにより『魂』が消費しきるまでのあいだ、本体に似た領域の力を発揮できる。俺達『彼岸の魔手』を纏めるボスの行う絶技だ!」

「……声や仕草は?」

「真似られる。何せ本体と同じ『魂』を使っているわけだからな」

「………………………………俺が知る人形術の中で、間違いなく最悪の能力だな」

「同感………………だ!」


 立ち上がり剣を構えるゼオスを守るように前に立つレオン。

 彼へと向け同じ姿をした人形が襲い掛かるのだが、その途中に著しい変化を見せてくる。

 背中を突き破り、第三の腕が現れ動き出したのだ。


「…………第三の手など貴方には無かったはずだが?」

「『本物に似た』ではどう足掻いても本体は超えられない! その壁を超えるため、うちのボスは完成後の作品に様々な仕掛けを施しているんだ!」


 レオンのその説明が契機となり、彼らの前にいるレオン・マクドウェルの人形が大きく変貌する。

 口を隠した包帯が解けると肉を食いちぎるためのギザギザの歯が現れ、毒々しい紫色の煙を放出。

 持っていた二本の剣の包帯も外れ、左右に分かれたかと思えばど真ん中から風と炎の二属性を圧縮した刀身が生み出された。


「………………ライフドールの攻略方法は二つだ。一つは単純に撃破する事。こちらについては話すまでもないな。もう一つは時間切れを狙う事だ。こいつは戦闘するにあたり俺の動きを再現するが、それは内蔵する『魂』を燃やして行っている。長期戦になれば『魂』は燃え尽き、一介の人形に成り下がる。ゼオス君。君は」

「………………聞くまでもないな。さっさと壊すぞ」

「いい返事だ!」


 最初の衝突を同じ方角に飛び躱す二人。

 そのタイミングで淡々とした声で行われるレオンの語りは、一切の迷いなきゼオスの断言を聞き変化していく。

 猛る思いをそのまま形にした声を上げると、着地と同時に全身を桃色の風で包み疾走。その姿を前に目前の人形も己が全身を同じ色で包んだ。


「猿真似程度で!」


 乾坤一擲の思いを込めたレオンの斬撃。

 それは人形が全身を軋ませながらも真正面から防ぎきるが、周囲に吹き荒れる余波で髪の毛を揺らしながら、本物のレオン・マクドウェルは嗤った。


「俺の真似をしてるクセに受け流しができないのか? あの人の技術も大したものじゃないな!」


 これは煽るためにした発言であったのだが、効果は実に顕著である。

 伸縮自在の二色の刃を荒れ狂う嵐のように振り回し、それに合わせ背中から生えた第三の腕の指先から炎属性を固めたレーザーを撃ち込む。


「これが受け流しだ。よく見ておくんだな!」


 その全てを本物のレオン・マクドウェルはいなす。

 二本の神器の刀身で明後日の方角へと逸らせ、吐き出され続ける毒の息は風で流す。

 これにより迫る脅威全てに対処する彼は、しかし攻勢に出るだけの余裕はなかった。


「………………その腕を貰うぞ」


 その状況を覆すのがこの場にいる最後の一人。すなわちゼオス・ハザードだ。

 前へ進む足取りと繰り出す斬撃に先ほどまでの迷いはなく、周囲一帯を照らせるほどの光量を発する紫紺の炎を纏った刃は、瞬く間に第三の腕を斬り飛ばした。


「――――!!!!」


 すぐに振り返ったゼオスが見たのは、毒ガスを吐くのを止め、顔を自分へと向けた偽りの『勇者』の姿。

 開いたままの口の奥からは強烈なエネルギーの奔流が感じられ、


「させん!」


 それが撃ち込まれるより早く、第三の腕がなくなり余力を得たレオンが、対峙する二本の腕を斬り飛ばし一歩前へ。

 革靴を履いた右足で自身に似た顔の顎を蹴り上げると、発射口が勢いよく閉じていく。


「………………………………………………!」


 出口を失ったエネルギーが頭部に詰まったまま爆発し、噴火のような勢いで空へと伸びる。

 不気味なのはそれほどのダメージを受けても微動だにせず立っている目の前の物体の姿で、それを見て初めてゼオスは、対峙していたレオン・マクドウェルが人間ではないと認識。


「………………人形はどこまで行っても人形といったところか」


 煙が晴れ、頭部を喪ったまま羽を生やし飛翔する自身の姿を前に、気色悪さや怖れ以上に呆れてしまうレオンとゼオス。


「自分の人形を相手にこう言うのは少し気が引けるが………………完膚無きに叩き潰すぞゼオス君」

「………………了承した」


 彼等の見ている前で人形が手にしている二本の剣から発せられる属性の勢いは増し、オルレイユにあるどんな建物よりも高くなった刀身で行使された叩きつけは、二キロ先の森まで消滅させていく。

 それを真正面から受けても、二人の剣士は微塵も怯まず、


「――――――ふん」


 空を昇り、瞬く間に駆け抜けたゼオスの斬撃が、緩慢な動きになっていく人形の両腕を切り落とす。

 そして、


「先ほどの一撃。もし本物の俺の一撃なら、その余波だけで俺とゼオス君は重傷を負っていた」

「………………」

「それが――――本物だ!」


 先ほどゼオスに披露したものより遥かに強力な、二つの属性を混ぜた彼が持つ極技の一つ。

 『聖魔同舟・破却昇竜』をレオンは発動。

 無数の鎌鼬により形成された竜の尾が人形の全身を刻み、強力な熱が全身を燃やして溶かす。

 その二つの後に繰り出されたレオン・マクドウェルの進撃は何物にも止められる鉾となり、自身の分身たる人形の抵抗をものともせずに十字に切断。


 二人が地面に着地すると、人形は落下する間もなく爆発四散の結末を迎えた。

 


 

ここまでご閲覧いただきありがとうございます。

作者の宮田幸司です。


これにて偽りのレオン・マクドウェル戦も終了。

色々とケレン味を足した戦いにしたい気もしたのですが、今回はトントンと進めること優先。


なお今回の話で出たライフドールの強さをレオンは『似た物』と表現していましたが、大量の『魂』エネルギーを内蔵すれば、ごく短い時間ではありますが九割九分同じラインまで再現することが可能。

ただこの人形を作る際は対象の筋肉量や体の特徴をかなり似せなければならないため、現実的にはどれだけ頑張っても八割くらいが限度です。


今回の場合は一時的に七割五分。終わりに近づくにれ五割を下回って来た感じですね


それではまた次回、ぜひご覧ください!

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