表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1144/1357

イグドラシルからの招待状 二頁目


「なんとなーくわかってはいた事だが、やっぱ派手だなオルタイユ。てか、シュバルツさんがめちゃくちゃにぶっ壊してなかったか?」

「アイビスさんが一日、いや半日で直したらしい。人工島一つを、俺の能力みたいなズルせずに、たったそれだけの時間で修復することができるってのは、あの人の凄さを思い知らされるな」

「あら、それは間違いよご兄弟」

「なに?」

「そうなのか?」

「ええ。正確には、壊した分はそのまま直して、その上で新しい建物を追加したって話よ。なんでも『不快な当主の邸宅や別荘はいらない』とのことよ」

「……余計に凄ぇってことだな。理解したよ」


 招待状を貰ったギルド『ウォーグレン』の一行。

 彼らが前夜祭の会場として足を運んだのは、死を偽装されたことで表舞台から失脚したオリバー・E・エトレアが統治していたエリア。『賭博の楽園』と称される人工島オルタイユである。

 時刻は午後六時半。

 空は茜色から藍色へと代わり始めており、そのタイミングでこの地に再び訪れた五人を迎え入れたのは、視界を奪う蛍光色の強烈な光、『賭博の楽園』とは別の名。『不夜の都』という異名でも呼ばれるこの島の本領であった。


「会場は………………あの建物だな。約束の時間と比べると幾分早いがまぁいいだろ。いくぞ」


 燕尾服に身を包み、高価な時計やステッキーを携えた男性。真っ赤なドレスで身を彩り、必要最低限の化粧と香水で自分を彩った美女。

 そのような人らが平然とした顔で横切る場所に、自分たちのような若者は不適切ではないか?

 そんなことを考えながら積がそう告げるが、それを聞き優が僅かにだが顔を渋くした。


「ねぇ積。ホントにあの場所なの? どっかと間違えてない?」

「………………なんだ? 気になることでもあるのか?」

「ウルアーデの今後を決める大一番! その前夜祭! なんて大層な目的で来た割には、少しこじんまりとし過ぎてる気がしてね」

「あぁ。そういう事か。別にいいんじゃねぇか。そのくらいの事」


 優の言わんとしている事は、積だけでなく全員が理解できた。

 『賭博の楽園』『不夜の都』などと呼ばれるもの場所は、集まっている人物のステータスや動く金額の大きさを表すかのように、様々なものが『高い』、ないし『派手』である場合が多い。


 料理に使われている食材の質。

 働いている従業員の給料。

 『不夜の都』の異名を実現させるにふさわしい光量。


 他にも様々な点で目立つこの場所だが、天を突く摩天楼の数と高さも例に漏れず凄まじい。

 雲を突き抜けるような高さの物などザラで、それと比較すると彼らが今から訪れる場所は、横には広いが高さに関してはどこにでもあるありふれた三階建ての建物である。


「いやいや優さん、そんな落胆するもんじゃありませんよ。あの建物、アイビスさんが作ったハイランクな建物らしいですよ」

「あら? そうなの蒼野さん? 具体的にはどういう風に?」


 とここで二人のあいだに割って入る蒼野。そしてその軽快な口ぶりに微笑みながら乗っかる優。


「カジノなしの飲食中心の建物で、世界中のありとあらゆる美食が集まってるらしいですよ。ファッション関連のハイブランドや流行もしっかり押さえているとも」

「今回アタシ達が行くお店は?」

「あの建物の中でも一番広くて、一番高級。そして一番人気のお店らしいですよお嬢様」

「ならば良し! くるしゅうない!」

「なんか違くないか。それ?」


 彼女が機嫌を直したのは蒼野の身振り手振りを加えた語りを聞いたゆえで、最後に差し出された腕を叩き、満面の笑みで先を歩く積の後へとついて行く。


「なるほど。お前の言うこともあながち間違いじゃないようだ。タイプは違うが、ここが他に負けない洗練された空間なのが分かる」

「来る前によーく調べたからな。というか、大恥をかくようなことはしないさ」

「…………外の連中とは違う空気の者達も多いな。これは」

「ファミリー向けっていうのがコンセプトらしいぞ。ギャンブルをしない人たちでも、楽しんでほしいっていう願いがあるらしい」


 さらに数分歩いて正面玄関から中に入ると、視界に飛び込んできたのはあまり目立たない金色で装飾を施されている壁面に真っ赤なカーペットで、カーペットに乗った五人はくるぶし辺りまでが沈む柔らかさに目を丸くする。

 そこからロビー全体に視線を向けてみると、天井に敷き詰められている照明は他の場所のように華美になりすぎないよう明るさを少々暗めに調節されており、外と比べ幾分か落ち着きがるこの場所の中には、子供連れの夫婦が特に目立っていた。


「一番奥だ。行くぞ」


 積はそんな人らにぶつからないよう細心の注意をはらいながら最上階である三階へ続く真正面の階段を登り、そこからさらに奥へ。

 しばらくして最奥までたどり着くと、『神の庭』なる店舗名が飛び込み半目になる積であるが、先に進むと決めた他の面々を目にするとため息を吐きながら前へ。


「立食パーティーの会場に使う店なのか。思ってたのと違うな」


 中に入ると百人以上の人らが一堂に会することができるほど広いスペースが広がっており、向かって右側には真っ白な白衣とコック帽を被ったシェフたちが等間隔を保ったまま並んでおり、彼らの腕の向かう先には、様々な料理が並べられた銀の大皿が置いてあった。

 向かって正面には料理を乗せた個人用のお皿を置くためのテーブルが設置され、向かって左側にはドリンクコーナーやチョコレートフォンデュを行うためのスペースが設置されていた。


「正確には『そういう使い方もできる』っていう方が正しいな。本来のこの場所は大勢の人らが過ごせるレストランだぞ」

「………………ならばなぜ立食パーティーの会場と化している」


 積の独り言に対応した蒼野は、ゼオスの質問に対し手にしていたパンフレットを手渡し、


「色々なシチュエーションに合わせた動きができる事がウリらしいぞ。今回の立食パーティー形式もそのうちの一つだ。積、イグドラシルさんが来るまでにはどれくらい時間に余裕がある?」

「三十分くらいだ」

「そうか。なら先にいただいておこうぜ。『早めに来たらそうしてくれ』なんて風にも、メールには書かれていたしな」


 既に動いていた優と康太に続いて蒼野もシェフたちの方へと移動。


「うっまいわねこれー」

「…………最高級の料理とはこれほどのものか」

「そうだな。柄じゃねぇが、オレも本気でビビった。流石は神教一の実力者のお墨付きだ。どれも段違いに旨ぇ」


 ハンバーグやパスタなどの子供向けの料理。アクアパッツァやステーキ、新鮮野菜のサラダなどの素材の味が目立つ料理。

 職人の実力が遺憾なく発揮されるスイーツの類を、好きな時に好きなだけ口にするが、そのどれもが彼らがこれまで食べた中で最高クラスの出来であり、優や蒼野は思わず顔がほころんだ。


「………………………………」

「どうしたゼオス。固まってんぞ」

「……少し感動を覚えていてな。夢と現実の境目が曖昧になっていた」

「そこまでかよ」


 最も大きなリアクションは全身を凍ったかのように固めたゼオスで、その様子を目にした康太が普段はしないような笑みを浮かべ、両手を自身の腹部に。


「………………」

「どうしたんだ積?」

「待ち合わせ時間を過ぎてるのにイグドラシルが来ない。何かあったのか?」


 延々と続く幸福な空気。これから最も早く脱したのは、やはり緊張していたためであろう。

 巻いていた腕時計を確認する積であり、それを聞いた康太が眉を持ち上げた。


「メールの見間違いとかじゃないのか? もしくは時計が狂ってるとか?」

「前者も後者もあり得ないな。断言できる」

「………………ふむ」


 質問に対する返答は力強く、であれば康太も何の根拠もなく否定する気は起きず、右手をくせ毛気味の自身の頭髪に置き、考える。


「どったのよ?」

「もう待ち合わせの時間を過ぎてるんだが、神の座が現れねぇんだ。その理由を考えている――――」


 その様子を目にした優が様々な料理が乗った大皿片手に近寄り、康太が開いた口を閉じたその瞬間



 ――――轟音が場を支配した。

 


 途端に臨戦態勢に移る康太と優。そうでなくとも手にしていた食事を置き、視線を音のした方角へと注ぐ蒼野にゼオス。それに積。


 彼らの視線の先には砕かれた天井に、何かがぶつかった事により生じた土煙が存在し、緊張した面持ちをしってはいるものの決して取り乱さず、周りの警戒をしながら一歩ずつ近づいていき、


「……敵であった場合俺が出る。援護を頼む」

「ああ」


 ゼオスがそう告げ蒼野が二つ返事で応じる中、爆心地の細かな光景が視界に移り、


「な、に………………」

「………………………………嘘」


 その光景に息を呑む。

 何が起ころうと動揺せず、冷静に対処しようと思っていたにも関わらず、彼らはみな言葉を失い、一瞬ではあるが身を強張らせる。



 そうなった理由、それはこの轟音が発せられたきっかけ。すなわち会場に落ちてきた物体の正体を、正確に知ったためである。


「ど、どういう事なんだよこれは!?」


 そこにあったものは、生命の灯を完全に消した、ほんの少し前までは『人だったもの』。

 

 真っ赤なくせ毛に頬を中心に広がるそばかす。

 男勝りな強気な性格が見て取れる顔つきをした彼女と、彼らはそう親しくなく、話したこともない。


 けれど知っていた。彼女が誰で、どのような立場であるかは知っていた。


「アーク・ロマネ………………神の盾が、なんでこんな姿に………………」


 彼女こそは神の座イグドラシル直属の護衛部隊。

 三大天使の一角、智天使の座に座る守りの要であり、そんな彼女の光を無くした虚ろな目が、真正面から積を見据えた。

ここまでご閲覧いただきありがとうございます

作者の宮田幸司です


夜分遅くになってしまい申し訳ありません。本日分の更新です。

ということでついに始まりを告げる大事件。その初めはあまり出番は多くはなかったものの、確かな猛者である盾の女。

彼女のこと切れた姿をきっかけに、激戦の扉が開きます。

いきなりクライマックスのような厚さを見せる少年漫画系小説をお楽しみください!


それではまた次回、ぜひご覧ください!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ