再誕祝祭 フィナーレ
三つの災厄において最も恐れられているものがどれであるかと問われれば、多くの人らは『三凶』と『十怪』を挙げるだろう。
意志を持って各々好き勝手に動く動く災害は、目に見える実にわかりやすい危険である。
最も不気味なものを挙げるならば、人々は『闇の森』を挙げるだろう。
つい先日新たな情報を習得したとはいえ、未だ不鮮明な部分は多く、その不気味さは際立っている。
これらと比較すると『黒い海』もやはり危険ではあるのだが、同時にある程度御しやすい存在として見られている。
なぜなら神の座イグドラシルが先頭に立ち、この物体を研究するための施設『黒海研究所』を建設。その代表として、三賢人筆頭であるメヴィアス=ロウが置かれていたのだ。
その結果多くの情報が手に入り、更に言えば対処する手段もある程度ではあるが構築したため、被害は最小限に収められる傾向にあった。
「噴出ヶ所! 未だ増加!」
「に、ニ十か所を超えましたぁ!!」
だがそれは、大前提として一か所からの噴出であった場合の話である。
今のように複数、しかも両手では足りない場所からの噴出など、まるで想定していないのだ。
「………………っ」
洪水のように襲い掛かる報告を前に、神の座イグドラシルの額に汗が伝う。
脳裏には思わず世界の破滅という嫌な想像がよぎるが、そんな彼女の肩を、ノア・ロマネと共にこの場所までやって来たアイビス・フォーカスが叩いた。
「大丈夫よ」
「………………?」
「イグちゃんが死んでね、アタシはものすっごく悲しかった。けどね、そんな中でも一つだけ幸せな事があったの。それは」
「………………それは?」
「世界中の人達が――――手を取り合えた事よ」
後の言葉を待つような溜めに乗っかり、訝しげな様子で尋ねる神の座。
それに応じた不死鳥の座の顔には晴れやかな笑みが浮かび、堂々とした態度で彼女は言いきるのだ。
この危機を、自分たちは易々と乗り越えられるのだと。
『行くぜお前ら! 俺達の武勇を再び示す時だ!』
そんな彼女の意志に呼応するように、竜人族の里ベルラテスに中継されたカメラから長であるエルドラの雄たけびが届き、事態が大きく動き出す。
様々な場所からのSOSを聞いた竜人族は巨大な翼を大きく広げ勢いよく飛翔。
その背中にはギルドに所属している面々だけではない。他の勢力の者達も乗っており、その顔には同じ目的へと進む意志が宿っていた。
「これは…………」
『全く、今日はオフの日だったはずなんだよ? 結局働かなくちゃいけないんじゃないか!』
「!」
動き出したのは彼等だけではない。ファイザバード家が統治する都市エデュンでは、主であるシロバが声をあげ、側にいた人々が怖れなど抱いていない様子で笑いながら行動を開始。
そんな光景は他にも数十ヶ所で見られ、彼らはみな、『黒い海』へと向け駆けだしていく。
「………………」
「各勢力が協力関係を結んだ結果、それにあのガーディア・ガルフを超えたっていう自信が原因でしょうね。今ではこうやって一致団結して戦いに挑めるようになったの。すごい事じゃない?」
「………………………………ええ。本当に。そうですね」
照れたように笑うアイビスを前に微笑を浮かべるイグドラシル。その顔に先ほどまで流れていた冷や汗はなく、最悪を想像したゆえの震えはもはや存在しない。
そしてそんな彼女の思いを実現するように、各地での騒動は瞬く間に鎮静化していく。
「……俺はタクシーでは………………………………いや」
「どうしたんだゼオス?」
「……この状況で口にする言葉ではないと思っただけだ」
「確かにそうねぇ」
竜人族の背や各地のワープパッド。それにゼオスなどが協力することで各地に戦力を運び、
「攻撃の手を休めるな! 奴らは強大だけどね! この数相手にできる事なんて存在しないよ!」
「俺は次の現場に向かう。半分貰うぞ!」
「あぁ。なんなら全部持ってってもいいよ!」
「心強いな。だが今回は遠慮しておこう」
壊鬼やクロバなど、集団戦の指揮が得意な者達が前に立ち、多くの者を従え迫る困難を乗り越えた。
「ひ、ひぃぃぃぃ………………………………………………あ、あれ? ここは?」
「こうやって正体を晒さず人助けって、なんか損してる気分だよなぁ」
「我々の尽力で被害を減らせている。その点で満足するべきだよエヴァ」
『もしもし! こっちはたぶん大丈夫よ。今度はどこに向かえばいい? というか、貴方達はどうするの?』
「久方ぶりの会話がこんな件で悪いなアイリーン。そうだな…………私らは稲葉に向かう。あのあたりは人も多い。ガーディアやエヴァを含んだ我々が適切なはずだ。君は!」
無論それでも手を伸ばしきれない場所はある。
しかし各地に潜伏してるガーディアが、ウェルダが、アイリーンが連携を取り、表舞台に立つことなく被害を未然に防いでいた。
そんな戦いはしばらく続き、朝九時過ぎ。
「三日目中止はもったいないから再開しようかと思ったけど、この戦果を考えればこのままでいいかしら?」
「ええ。そうですね」
三十ヶ所近い場所で起きた災厄は全て封じられ、誰一人として被害を被ることなく終わった。
この素晴らしい結果を前に二人の美女は笑みを浮かべる。
それは神の座イグドラシルの復活を祝う祭日の終わりに相応しい、大歓声を帯びた幕引きであった。
「イグドラシル様。ギルド『ウォーグレン』の積様から手紙が」
「………………来ましたか」
そして、事態はここから大きく動き出すのだ。
彼女の元に送られた手紙と
――――――――――大方は把握できた。さぁ始めようじゃないか。
裏で暗躍する悪意が見せる、醜悪な笑みによって。
ここまでご閲覧いただきありがとうございます
作者の宮田幸司です
皆さま、本当にお久しぶりです。
つい先日新人賞への投稿を終え帰還しました。
復帰後の記念すべき第一話は華やかに。長かった祭日の終わりとなります。
終盤は少々駆け足気味でしたが、それでも皆様の心に少しでも残っていれば嬉しい限りです。
さてさてそんなわけですが、次回からはついに四章後半戦が本格的に開始!
この星に待ち受ける未曽有の危機! その正体とは!
それではまた次回、ぜひご覧ください!




