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再誕祝祭 六頁目


「事情は既にノアから伺っています。しかし………………それは私がいなかったからなのでは?」


 エルドラの発言に対して返されたのは神の座イグドラシルの率直な疑問であるのだが、その声は少々揺れていた。それは『耳を疑った』という類の驚きであり、彼女のそんな意図を汲み、石の椅子に座っていたルイが言葉を紡ぐ。


「その通りではある。しかし、それだけが理由ではないね」

「おっしゃる意味がよくわからないのですが?」

「ガーディア・ガルフらが与えた影響を考えればこの辺りが転換期だと思ったんだよ。イグドラシル、君とてそれは理解しているはずだ」

「………………」


 両手を真上へと向けながらルイが口にした内容。それをイグドラシルは即座に否定できない。

 多くの動画で説明されていた、彼女が捕まえられなかった裏で暗躍していた悪人達。彼らが捕まったことで、世界は良い方向へと進んだ。

 それにより生まれた神の座に対する不和と世代交代に対する希望。

 これらが募っているいるこのタイミングは確かに、世界の支配者が変わるのに適していると言えるだろう。


「それに、だ………………お前さんは裏で暗躍しすぎた。それは庇いきれる範疇を超えてる」

「暗躍?」

「積君たちから聞いたよ。どうやら君は賢教の上層部と手を組み、意図的に争いが起こる状態を作り上げていたらしいじゃないか。この件に関してはしっかりと裏取りができているが………………そんな君を擁護するわけにはいかないな」

「なにせ、俺達が当初思い描いた図の真逆の形を自分の手で産んでいたわけだからな」

「っ」


 さらに示された理由を聞けば、イグドラシルも戦友で二人が自分に対し反発するのを納得せざる得ず、


「………………………………………………いいでしょう。ルイ、エルドラ。貴方達に話しておきましょう」

「裏で非道極まりない事に手を伸ばした理由をか? 悪いが聞くに値するとは思わねぇな」

「どのような理由があれ、半永久的に全世界が戦い続ける形を作り上げたことは許しがたい。この件は、どのような理由があれ押し通らせてもらう」


 重々しい様子で口を開くイグドラシルであるが、二人は聞く耳を持つことはない。

 『絶対に看過することはできない』そう伝えた上で立ち上がる。その姿はこれ以上語ることは何もないと伝えているようで、


「お前は誤った道に進んだ。とするならもっと強制的な手段に出るべきなのかもしれねぇ。だがそれは千年ものあいだ世界を維持し続けたお前に対してあまりにも失礼だとルイが言ってな」

「だからここは、手続き通りに事を進めようとエルドラと話したんだ。であるなら、話は単純だ」

「………………この世界の根底にある基本原則。それに従うように、という事ですね」


 続けて語る彼らが示す意味。

 それは惑星『ウルアーデ』の基本理念。


「………………今日明日にでも積君が書類を纏めるはずだ。破って捨てる、なんて真似はしないでくれよ」

「お前さえ望むならこの『再誕祝祭』の締めにでも行えるだろうがどうする?」


 すなわち『汝、己が実力を示せ』


 言葉にて語り尽くし、それでもなお道を譲れぬというならば、持ちうる全ての力で敵を打倒せよという、原初の理のである。


「…………いえ、いいです。この三日間は誰もが騒ぎ、楽しむ事ができる祭日として終わらせましょう」

「そうか。なら俺もルイも、その意図を汲もう」


 対する返事は外を眺めながら。

 黄昏の時が終わりに近づき、夜空が世界を埋め始める。

 その時に発せられた寂しげな声に対し、エルドラは静かにそう告げた。


 それは、千年ものあいだ肩を並べた戦友のあいだに築かれた『何か』が、崩れる瞬間であった。




「宴だ宴だぁ!」

「お前ら飲め飲め! 酒ならいくらでもあるんだからなぁ!」

「おぉい! 俺達にも分けてくれねぇか!」

「来たか鬼人族! お前らの分もあるから、好きなだけ飲みなぁ!」


 斯くして『再誕祝祭』初日は終わりへと向かっていく。


「お、やってるじゃねぇの! 壊鬼の奴は来てねぇよな? あいつがいたら里中の酒がなくなっちまうからな!」

「帰ってきて早々背中をバンバン叩くなってんだ。もうガキって歳じゃねぇんだぞ!」

「息子ってのはな、親にとっては何歳になってもガキなんだよ! いいから黙って叩かれてろって」


 竜人族の運営する秘境ベルラテスでは、満天の星の下、世界中のどこよりも盛大な飲み会が行われ、


「さって、これくらいでいいかしら?」

「十分だろ。にしても買い過ぎだ。こりゃ何度か往復する必要があるぞ」

「まぁ流石にこの量を任せるつもりはないからアタシも手伝うわよ………………ゼオスの手が空いてたりし

ないかしら?」

「どうだろうな。けど、あいつをタクシー代わりに使うなら後で冷たい目を向けられる覚悟をしとかなくちゃいけないぞ?」

「そうならないためにアイツの好物を多めに買っといたのよ。これでご機嫌取りをしようっていう寸法よ!」

「計算高いな。なら、それが上手くいくことを俺は両手を合わせて願わせてもらうよ」


 蒼野と優の二人は、初日に得た戦利品の話をしながら、夕食にと思い買った惣菜を掴みながら話をする。


「………………できた。これでいいはずだ」


 そしてただ一人書類と格闘し続けていた積は、土方恭介が行った不吉な予言に脳の一部を引っ張られながらも、玉座へと挑むために必要な種類を作り上げ、


「これを出したらもう引き返せない、か」


 息を吐きながら天井を見上げる。

 そこに宿る意志はどのようなものか余人は知り得ない。


 こうして夜が更けていく。

 世界中の多くの人らが、仕事や戦いにより生じる日々の疲れを忘れ、今だけは享楽に身を浸す。

 



 『黒い海』と『三狂・十怪』に並ぶ三つの厄災最後の一つ。

 『闇の森』の出現が確認されたのはそんな幸福な日々の最中。実に数十年ぶりのことであった。


 

 


 

ここまでご閲覧いただきありがとうございます

作者の宮田幸司です。


再誕祝祭一日目はこれにて終了。

最後の最後に大きな情報をまたも投下です。

少年少女最後の物語なのでね。これまで語られてこなかった事柄に関しても一気に進めていきます。


というワケで二日目はただの日常に大きな影が混入します。


少々短いのですが、体調を崩しているのでこの辺で。


それではまた次回、ぜひご覧ください!

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