再誕祝祭 五頁目
「へぇ。宇宙にはそんな星があるんですね。ウルアーデとの一番大きな差はなんなんですか?」
個人の情報に関して深入りするつもりは蒼野にはなかった。そのためハーティスと名乗った自分よりも一回り上の青年がどこ出身地であるか、年齢や経歴については謎のままであったが、それでも話していくうちに一つだけわかったがあった。
それはハーティスと名乗った青年の職業についてなのだが、彼は宇宙中を移動し円滑な関係を構築する。所謂『外交官』であるという事であった。
旅行好きの蒼野にとって外の世界はいつも魅力的な内容だ。
そのため初めて故郷であるジコンを飛び出し賢教に飛び込んだ時と同様かそれ以上に瞳を輝かせ、彼の話に強い関心を持ち、耳を傾けた。
「色々とあるね。そもそも粒子が使えない星が大半だし、使えるにしても十属性全てを兼ね備えているところは本当に稀だ。亜人に該当する種族が居らず、手足が二本ずつの平均的な人間しかいない場所もある………………だがそうだね。やはり最大の差は、戦える人の数だろうか」
「数?」
「そうだ。僕らの星の場合、赤ちゃんを除けば小学生に入るより前の子供にそこいらにいる主婦。それに定年を迎えた老人だって当たり前のように戦えるだろう? だけどね、そんな星は他にはほぼ存在しないんだ。ああそれと、人が空を飛ぶ技術や、走って百キロ先へ進む技術すらないところが大半だ」
「え? それって生活できるんですか? それだと隣町に買い物行くのも苦じゃないですか?」
「いやそんなことはない。そういう星の人らはね、自動車や電車、飛行機なんかをこのウルアーデ以上に発展させ、その上で量産させているんだ。そうやって色々な場所に赴くことができるようにしている」
「な、なるほど。そういう選択肢もあるのね。目から鱗な気分だわ」
珍しい話となれば優とて多少なりとも関心を抱くもので、さも当然というように語るハーティスの言葉を前に、ベンチに座ったまま考え込む素振りを見せる。
「ああ。あとは体にかかる重力の差なんかもあるかな。この星は他どの星よりもかかる重力が重い。だから他の星で動く場合、十倍百倍の動きを発揮できることだってザラなんだ」
続いてうっすらと笑いながらハーティスが口にした言葉を前に蒼野と優が顔を見合わせる。
その時二人の頭に浮かんだのは同一のもの。
『そのような環境ならばガーディア・ガルフやシュバルツ・シャークスのような格上相手でも戦えるのではないか』などというもので、しかし直後に苦笑すると考えを改めた。
同じような恩恵が彼等にもかかることに気が付いたのだ。
「ところで、この祭りは一体どういう理由で行われてるんだい?」
「「え?」」
「いや実を言うとね、今朝まで宇宙の色々な場所を飛び回っててね。ここ半年近く、ウルアーデの地面をほとんど踏んでいないんだ。だから色々とを教えてもらえると助かるんだが」
とここでハーティスはそう説明を行い、蒼野と優が再び顔を見合わせる。
直後に彼等は説明を行った。
つい最近までガーディア・ガルフとその仲間達が暴れ回っていたことを。そしてその戦いで神の座イグドラシルは死に、かと思えばつい先日奇跡的な復活を行ったことを。
「馬鹿な………………そんなことが」
これらの事柄を聞いたハーティスの憔悴は明らかなもので、心ここにあらずという様子でベンチに座ったまま自身の両手に顔を埋め、
「あとはそうね、今後の展望かしら。実はアタシ達、これから神教に戦いを挑むつもりなんです」
「………………戦い?」
「あ、戦争をまた起こそうってわけではないですよ。正式な手順を踏んで、五対五の戦いを挑む予定なんです」
「………………」
付け加えるように優と蒼野がそう口にすると、メガネの奥に隠れた瞳にこれまで二人に見せていない色を宿した。
「ああ、ここにいたんだね蒼野君」
「………………え!?」
そのタイミングで耳に届いた声を前に蒼野と優の二人が勢いよく振り返る。
そのように過剰な反応をした理由は実に単純。
彼らはここで彼に会うとは夢にも思っておらず、信じ難い気持ちで振り返ったそこには予想通りの人物、すなわちガーディア・ガルフがいたのだ。
「実は君と私の愛読本であるピースワット冒険譚が商品のくじ引きが露天に出ていてね。私の力ではどうにもならないため力を借りたいと思ったんだが………………取り込み中だったかね?」
反射的に口を開いた蒼野は、しかし何かを口にする前に事情を説明されると目を丸くし真横に視線を移し、
「蒼野君。彼」
場の空気が大きく変わったことを察しハーティスが質問を行うため口を開く。
「名乗るほどのものではない」
「………………そうか。それで?」
「彼に協力を頼みたい。少しいいかね?」
けれど彼が最後まで言い切るより早くガーディアが口を挟んだ。
その事実にハーティスは顔を曇らせるが追及は辞め先を促すと、単刀直入にそう告げる。
するとハーティスはため息を吐きながら立ち上がり、
「ハーティスさん?」
「どうやら用事のようだからね。僕はここらで失礼しよう」
「あ、えと、すいません」
「いいさ。ただそうだな………………色々と重要な情報を教えてもらったお礼だけはしておきたい。そのくじ引きの場所まで案内してくれないかい?」
「君は?」
「運のいいだけの通りすがりだ。それ以上名乗る必要はないだろう?」
ガーディアの問いかけに意趣返しとでも言うような返事をすると、くじ引きのある場所まで四人で移動。
「ほら、これでいいんだろ」
「………………驚いたな。二十回以上やってもポケットティッシュしかもらえなかったんだがね」
露天に設置されたくじ引きの形式は、無数にある色とりどりの紐の中から一本を選んで引き抜くというものであったのだが、ハーティスはそのうちの一本を無造作に掴み取ると目的の本をさも当然という様子で引き寄せ、ガーディアの胸元へと押し付け、
「じゃあ、僕はこれで」
最後はそれまでの態度が嘘のように突き放した態度でそう接すると、大通りへと姿をくらませた。
「それで、重大な話というのは?」
再誕祝祭初日の夕方。多くの人の目を惹きつける黄昏が空を埋め尽くす中、各勢力の長がラスタリアにある神の居城のテラス席で顔を合わす。
ただ賢教の長であるアヴァ・ゴーントは体調を崩しているため存在しておらず、代理としてシャロウズ・フォンデュが参加。
石でできた椅子に座ると、円卓を囲い正方形を描いていた。
その中で開口一番に口を開いたのは既に健康な状態を取り戻した神の座イグドラシル。
彼を前にして戦友であるルイとエルドラは視線をぶつけると頷き、
「フォーカス。今日はお前さんに重大な話がある」
「話?」
「ああ。実は君のいないあいだに、ある人物との間に重要な契約をしてね。我々はそれを履行することを決意したので、君に説明をしておかなくてはならない」
「………………それは?」
「イグドラシル。実は君がいなかった際、空白の玉座を埋めるための計画を我々はしていてね」
「その候補として俺達はギルド『ウォーグレン』の原口積を選んだ。もちろんただで通したわけじゃねぇ。それ相応の条件は出した」
「その上で、彼らは信を得るにふさわしい結果を叩き出した。つまり」
「俺達は正式に彼を、神の座に挑む挑戦権を与えようと思う」
物怖じすることなく堂々とそう言い切った。
ここまでご閲覧いただきありがとうございます。
作者の宮田幸司です。
皆様お久しぶりです。再誕祝祭一日目の日常編はこれで終盤へ。
最後の議題はとても重要な挑戦権について。ここの深掘りを今するかどうかは………………正直迷ってる所存。
あと、前回結構グロい話になりましたが、ああいう展開は早々ありませんので、苦手な方はご安心を。
まだまだ、とまでは言いませんが、穏やかながらもどこか危険を孕んだウルアーデの日常はもう少し続きますので、もう少しのあいだ楽しんでいただければと思います。
それではまた次回、ぜひご覧ください!




