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再誕祝祭 三頁目


「おぉーい。そっちの資材を持ってきてくれー」

「こいつかい。ちょっと待ってな!」

「おうサンキューな。しっかしあれだな。やっぱ図体デカいだけあって、パワフルなんだな竜人族ってのは」

「もちろんだ。だがパワフルなだけじゃあない。頭もいいし手先も器用だ。エルドラ様が先導して作ってる麦酒は飲んだ全ての種族が唸る絶品だ。人間界に潜んで仕事してる奴も結構いるしな」

「そうなのか。そりゃ失礼!」


 四大勢力が協力し合った奇襲攻撃が終わった三日後、世界中は凄まじい速度で建物の修復や怪我人の治療を行い、そこからさらに進み神の座復活を祝うお祭り。『再誕祝祭』と呼ばれる祭日の準備が行われていた。


 その規模は当初神教の首都であるラスタリアだけであったのだが『派手な縁日にしよう』というエルドラの提案。

 『四大勢力友好の証として開こう』という、賢教代表であるルイと貴族衆の代表代理であるシャロウズにより、範囲を全世界規模に広げた。

 結果、祭日は一日ではなく三日三晩行われる事となり、各勢力を行き来するために必要な交通網やワープ装置の設置。

 大規模な催し物をするための会場の準備が、各勢力の様々な場所で急ピッチで行われていた。


「しっかしすごいよなホント」

「何がです?」

「ん? ああ。少し前まで争ってたり睨み合ってた四大勢力が、こうやって協力して準備をしてる光景が、なんつーか新鮮でさ。アビスちゃんもそうだろ?」


 康太が派遣された賢教の一エリアにしてもそうであり、雲一つない青空の下で、これまでいがみあっていた賢教と神教の者達が、少々のぎこちなさを残しつつも協力している。

 その様子を休憩時間中の康太は頬杖を突きながら眺め、恋人であるアビスが真っ黒な修道服に身を包み、美しい銀の長髪をたなびかせながら共に見つめていた。


「そうですね。ですけどそれ以上に嬉しいです。争うことなく、こうやって手を取り合う日々がずっと続いてくれたらって思います」

「平和な日々、か。そりゃそうだな。戦狂いのミレニアムにはた迷惑な動機で動いてたガーディアさん。それに『裏世界』のいざこざも何とかしたんだ。これ以上面倒事がやって来るのは御免だ」


 その感想に同意しながら康太は伸びをして空を見上げる。

 そして思いを巡らせるのだ。

 亡くなった原口善とヒュンレイ。監獄塔に収容されたゴロレム。彼らが、かつては決して目にすることができなかった形で復興する世界を前にしたら、どんな感想を抱くのだろうか、と。




「よし、掃除も終わったし帰るか」

「そうね。でもここ、本当にいい場所ね。静かだし、風が気持ちいい。アタシも死んだら隣に並ぼっかな!」

「縁起でもないこと言うなよ…………とは言いきれないな。流石善さん。いい場所を知ってたな」


 その日、蒼野と優の二人は善の墓にいた。

 石をしっかり磨かれて作られた立派な墓石の隣には服掛けのために用意された石の十字が安置されていたのだが本来かけるはずであった黒のコートはなく、一通り掃除を終えた優と蒼野が、額に浮かんだ汗を流しながら一歩二歩と後退し、崖から少し離れた位置にある墓石を見つめる。


「……あと一歩のところまできたよ、善さん。あなたがいたら、なんていうかな? いい点数が貰えるかな?」

「少なくとも『百点満点!』なんていう風には言ってくれなかったでしょうね。完璧にできたとしても『これ以上はない』なんていう風に言いきっちゃうのを嫌う性格だったから」

「そうなのか?」

「あ、これ蒼野には言ってなかったんだ。まぁそういう事よ。けどまあ、合格点は貰えるんじゃないかしら。それだけの成果を叩きあげたわけだしね」

「そうだな………………おっと。新しい花に変えとかなくちゃな」


 青天の空の下、穏やかな声で肩を並べながらそう話をする蒼野と優。

 途中で蒼野が思い出したように口にすると草原の上に置いてあった花束を撮るためにしゃがみ、


「ついでにこれも頼む」

「あら」

「レオンさん。それにヘルスさんも」

「ここで顔を合わせるのは初めてだな。掃除、お疲れさん」


 そのタイミングで二人のあいだから白いシャツを着た右腕が生えてくる。

 急いで振り返れば女性顔負けの美貌を振りまくレオン・マクドウェルの姿と、肩にかかる長さの銀髪を竹ぼうきのように上に伸ばしたヘルス・アラモードの姿があり、ラフな格好をした二人が、花束とワインの瓶を持っていた。


「にしても、理由があるにしても絶対に百点をやらないとは意地が悪いなアイツも」

「絶対とは言ってませんでしたよ。そう言えるほどの成果をあげたのなら、ちゃんと与えるって」

「そういうもんか。けど、たぶん難しいんだろうなきっと。俺は絶対無理な気がする」


 二人が持っている物を蒼野が預かり、墓石の前に片膝をつき順に置いていく。

 その光景を見ながら語る三人の口ぶりは穏やかで、訪れた平和を噛みしめるような空気を纏っていた。


「全部置いてきました!」

「ありがとう。それじゃあ俺達もお参りをしておこう」

「二人はどんな願いを」

「…………素面で本人たちを前に言うのも恥ずかしいが、あいつの残した遺産。今を生きるお前たちの命を守ることをいつも誓ってる。まぁ、困ったら天国から力を貸してくれとも願ってるよ」

「右に同じく!」


 蒼野が戻るとレオンとヘルスは自分らの願いを口にしたのだが、一から細かく説明した自分に乗っかった態度を見せるヘルスに対し、レオンは少々不満げな顔を浮かべた。

 それを感じ取った蒼野と優は顔を合わせた直後に笑ったが、周りを責めるような事をレオンはしなかった。

 緑生い茂る草原を踏みしめ顔に笑みを浮かべながら、ヘルスと共に墓の前にまで進んでいった。




「…………一つ聞いておきたい」

「んー?」

「…………貴方らは、本当にイグドラシルの殺害を諦めたのか?」

「なんだよ藪から棒に。その言い方だと、殺害してくれって言ってるように聞こえてくるぞ」

「…………そうではない。だが」


 また別の場所。祭りの影響を受けない片田舎にあるテラス席でケーキを頬張っているのはゼオスとガーディア一行の四人で、ゼオスが探るような声色で口にすると、エヴァが歪んだ笑みを浮かべながらそう告げた。


「…………そういうわけではない。だが、貴方らには動機がある」


 腕を組みすぐさま否定するゼオス。

 それをエヴァはコロコロ笑いながら見つめ、右隣に座るシュバルツが口を開いた。


「安心してくれゼオス君。我々にその意志はない。本当だ。君たちが下してくれた温情と結末。それに今の生活に満足してるからね。それを崩すような事をしたいとは思ってないよ」

「………………………………そうか」


 図体からは想像できないくらい穏やかな、諭すような口調でそう説明するシュバルツ。

 それを耳にしたゼオスが安堵の意気を漏らすが、エヴァの左隣に座るガーディアの意見は少々違った。


「イグドラシルであれば、の話ではあるがな」

「………………どういうことですか?」


 口元に持ってきていたコーヒーカップを音一つ立てず皿の上に戻し、口を拭きながら語り始める彼の意見には含みがあり、その真意を知るべくゼオスは尋ねる。


「単純な話だ。あれは…………本当にイグドラシル・フォーカスなのか?」


 その意味をガーディアは包み隠すことなく口にした。

 自身が貫いた心臓の感触。その直後に死の塊たる黒い海へと落下していった神の座イグドラシル。その生存に疑いを持っているのだと。


「……そこは俺も疑問に感じているところだ。だが、あのノア・ロマネが己の主を見間違うことはないと思っている」

「彼は主の死で憔悴していたのだろう? ならばその状態から脱出するため、無理やりにでも納得した可能性がある」

「………………黒い海からの生存に疑問を持っているのかもしれないが、それならば前例がある。貴方自身とギャン・ガイアだ」

「私自身はその時の負債をウェルダに押し付けたゆえに生き延びた。黒い海とウェルダの親和性は実に高かったので、彼に後遺症はまるでないらしい。だがギャン・ガイアに関してもそう簡単に言いきっていいものでもない」

「………………?」

「ウェルダとの戦いのときこそ正常な意識を持って働いてくれたが、ここ最近は調子が良くないらしい。監獄島から彼の調子に関しては事細かに報告が来ているがね、最近はうなされたまま目が覚めない日々が続くらしい。おそらく多くの人が経験し崩れた『死』と『絶望』と『負の念』が彼を四六時中追い詰めてるのだろう」

「………………」

「それを踏まえて聞く。イグドラシルは本物か? いや――――本当に正常か?」


 そこまで説明されゼオスは彼の思い描いてる疑念を理解した。

 彼はこう言いたいのだ。『多大な疲れが見えたものの、健康な状態で地上に戻って来たイグドラシル。それ自体が信じられない事柄で、その理由を解明しない限り、安心はできないと。


「気を付けたまえ。私の予想の一つには、君たちが危機的状況に陥るものがある」

「…………警告感謝する」


 彼のそんな発言を受け、ゼオスは気を引き締め直した。

 彼らのいる場所の空は分厚い雲がかかった曇天で、今にも雨が降り出しそうであった。



「約束を、果たしに来た」

「あんたは………………!」


 積はギルド『ウォーグレン』に残り今後の動きを決めていたのだが、そんな彼の前に現れた影があった。


「『隠してる秘密の一端。それを告げるときにまた現れる』亡き君の兄上との約束だ」


 それは蒼野と康太にとって大切な義兄弟。

 積と善の二人に予言を残した正体不明の男。


 土方恭介が、再び彼の前に姿を現した。

ここまでご閲覧いただきありがとうございます

作者の宮田幸司です


日常回その一。おなじみギルド『ウォーグレン』の面々です。

康太や蒼野に優はくつろいでいますが、ゼオスは持ち前の性格から。積は立場からそうゆっくりはできません。

忙しかったり予断を許さぬ様子ですが、これもまた彼らの日々なのです。

と同時に出る度に含みのある言い方をする男の再登場です。

今度はどんな事を伝えるのか………………まて次回!


それではまた次回、ぜひご覧ください!

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