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再誕祝祭 二頁目


「おうおうおうおう! どーいう手でやってくるかと思えばそう来たか。確かにそりゃ効果的だ!」


 神の座イグドラシル復活の報。それはアラン=マクダラスが主導となり行われた争いが終わりを迎えた世界に、凄まじい速度で広がっていく。


 ギルドに貴族衆。賢教に神教。


 どの勢力に所属していたととしても彼女の復活は驚くべき展開であるが、表舞台に滅多に姿を現さない、この世界の深奥に潜んでいる者達に与えた影響も大きい。


「まぁこの星の奴らは俺が知る限りの最高値を超えてるからな。対応できないとみて搦め手に移るのは当然っちゃ当然だ。しかし…………えげつねぇな。悪魔的と言ってもいい」


 人気のない公園のベンチで、汚れた白のスーツに身を包んでいた金髪の中年がウイスキーの酒瓶を片手にそのような事を呟き、


「――様。これは………………」

「これから訪れる決戦。この星の命運をかけた戦いに向けた一手でしょう。問題は彼らの出方です」

「と、おっしゃいますと?」

「我々はもう一度動く必要がある。今度こそ彼らとコンタクトをとらなければならないのです」

「先を見据えて、ですね」


 表舞台を闊歩する誰もが知らないある場所では、テレビに映った映像を前にして幾人かがこの先の展開を予期する。


「………………そうか。来たか」


 またある場所では、ついに訪れた瞬間を前に一人の男がそう呟き、


「死んだ善殿とその弟君とも約束したからな。今こそ、果たすときだ」


 決意をより強固な物にしてそう締める。


 そして、


「イグドラシルの復活? そんなの――――――――」


 この星の最も深い位置に根付いた存在。

 誰も知らない場所に座した影は、他者と比較して一際強い感情を籠め、呟いた。




「能力や記憶の喪失については、記憶面は完全に完治。シロバさんは勿論、世界中で起きてた記憶の欠落は全て治った。ただ、能力は違う」

『ほう?』

「裏で手引きしてた黒幕が逃げてるわけだからな。当然と言えば当然だ。地上の方の被害については?」

『千ヶ所以上で不意の襲撃があったが、最小限の被害で抑えられたと断定していいだろう。ガーディア・ガルフらの協力も大きい』

「………………そういえばそのことについても聞いてませんでしたね。彼らの生存については…………」

『伝えない方針だ。それがきっかけでまた血生臭い事になっても困るからな。昨日の夜の時点であいつらにも今更事を荒立てる意志はない事を聞いておいたから、まぁ安心してくれや』

『あぁそれと、ウェルダ君も撤退させ、一時的に表舞台から身を隠すように頼んでおいた。彼がきっかけになる可能性もあるからね』

「素早い対応。感謝します」


 一夜明け、ギルド『ウォーグレン』のキャラバン。

 そこで行われていたのはつい先日まで続いていた騒動の後始末。事後報告であったのだが、自身が一息つき場の空気が弛緩したのを積は感じ取った。


「さてと、それなら本題に入らせてもらう。単刀直入に聞く。提示された依頼をしっかりとこなしたわけだが、俺とあんた達の間で交わした約束はどうなる? ご破算か?」


 その空気を引き締めるべく、固い声を積は発する。続けて重ねた両手を顔の前に置き、画面越しの相手をしっかりと見据える。


『ふむ』


 声、表情、共に緊張感を孕んでいるものの芯が通っている姿は、兄の面影を残すものである。

 しかし顔の前に置いた両手が祈るような形をしているのが、実に奇妙な印象を見ている二人に浮かばせた。


『もちろん』

『反故になんてしないさ。我々は、口にした契約を守るよ』


 それからほとんど間を置くことなく、示し合わせていたかのようにピッタリのタイミングで、画面の向こう側にいた二人の通話相手。すなわちエルドラとルイ・A・ベルモンドの二人がそう告げる。


「…………二言はないんだな?」


 鋭くしていた瞳をさらに細め、念押しするように尋ねる積。それに応じたのは貴族衆の代表であるルイである。


『そもそもの話としてだね、我々が先の発言を反故にする理由がないんだよ。状況は変わったのは確かだが、前提までは変わっていないわけだからね』

「どういう事だ?」

『大前提として、私とエルドラは君たちに神の席を用意したわけではない、ということだ』

「…………なるほど」


 淡々と、無駄に飾ることなく率直に伝えるルイ。

 彼の物言いは聞く人によっては怒り狂う可能性もあるが、積はその言葉の真意をしっかりと把握していた。


「つまり、俺は『過半数を超える神の座交代賛成票』を取得したってことか」

『そういう事になる。正確に把握していたのはありがたい』


 そもそもの話として、積が報酬としてもらう予定だったのは『神の座』そのものではない。

 その席に座るために必要であった、世界中からの半分以上の賛成票である。


 それを得ることで神の座に慣れるというのは、前提として座るための席が空いていたからである。


 この席にイグドラシルが座り直し、その上で神の座交代のために必要な『各勢力の代表者』達からの過半数の賛成票が手元に集まった状態となった。

 となれば後に待つ展開はただ一つ。


「感謝する」

『おいおいもうちっとゆっくりと話そうぜ………………なんて、言ってられないか』

「申し訳ないが、そんな暇がないんでね」


 必要な確認は終わったとでも言うように立ち上がると、無言でお辞儀を行い踵を返す積。

 途中で少々残念そうなエルドラの声が耳に届くが形ばかりの謝罪を終えると、彼は無数のモニターが並ぶ通信室から退室し早足でリビングへ。


「どうだった!?」


 報告の結果を固唾を飲んで待っていた蒼野が勢いよく立ち上がりながらそう尋ね、


「予想通りだったよ」

「そう。それなら」


 机に座り食事を摂るゼオスにヘルス。

 腕組みをして自身を見つめる康太と、頬杖を突く優までを一瞥すると積は頷き、


「望んでいた通りの結果、というわけじゃないがな。俺達は無事第一関門を突破した。最後の関門は――――神教が抱えるトップ五人との正面衝突だ」


 告げる。

 兄である原口善が目指したこの世界の頂点の座。

 その前に立ち塞がる最後の障害の姿を。



ここまでご閲覧いただきありがとうございます。

作者の宮田幸司です。


最後の物語ということでこれまで断片的にしか語られなかったキャラクター達大集合な今回の話。彼らも今回の戦いでは関わってきます。

中盤以降では前回の戦いの総まとめ。不鮮明だった部分についてと、積達の次なる目的について。

というワケで四章後半戦の目的の提示となったわけですが、まぁ四章のタイトルが既に示されている通りなので、一筋縄でいくわけもなく………………


詳しい話は追々


次回からはおそらく少年少女最後の日常フェーズ。お祭りとその他諸々になると思います


それではまた次回、ぜひご覧ください!



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