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戦の星が抱いた宿痾 一頁目


 誰もが口にすることはなくとも理解している。

 濃密に圧縮された戦の刻は、もうまもなく終わりを迎えるのだと。


 新たな世界を夢見る六人はアラン=マクダラスが強い衝撃を与えれば倒れる死に体であると把握し、

 今の形の維持を望むアラン=マクダラスは、敵対者六人が連戦による疲弊と粒子切れの抱えていることを見切っている。


 持久戦に持ち込み、相手方のミスを誘う、ないし手札を削っていけばそれだけで勝利を手繰り寄せられるはずなのだが、実に興味深い事に両者互いにその道を選ぶことはない。


 今という瞬間に全力を。


 時間切れによる勝利など一切望まず、目の前の相手を完膚なきまで叩き潰そうと躍起になる。


 傍目から見れば奇妙に見えるかもしれない光景はしかし、本人たちからすれば当然のものであった。

 彼らは互いに信じているのだ『目の前の相手が目先の安い思惑で潰えるなどありえない』と。


「あと一発か。優!」

「あとで菓子折りの一つでも持って来なさいよ!」


 そのためにアラン=マクダラスは血が噴き出るのもお構いなしに体を酷使し、蒼野とゼオスは使わなければ生ずることもなかった時間制限を自身に設けた。康太とて虎の子の一発を撃ち込むことはなかった。


「クソッ! 周りを舞う黒い刃物が邪魔過ぎる!」


 勝てば己の望む未来を掴むことができる。


 互いの人生において、早々生ずることのないそんな大勝負を有利に進めているのは、孤軍奮闘を繰り広げる黒鎧の闘士アラン=マクダラスであるが、その理由は偏に新たに修得した能力の理解の速さにある。


「――――――!」


 黒い氷結晶は自身の意志ではなく完全にランダムで生じるものであると理解した直後、彼は威力ではなく手数を増やすことに重点を置くことを真っ先に決めた。

 放たれる斬撃の威力の強弱に関係なく、ランダムに配置される斬撃の数が一定数であることを悟ったからだ。

 続けて行ったのは斬撃を遠隔に飛ばすこと。いわゆる『飛ぶ斬撃』の連続行使と、地面に設置することによる時間差攻撃の二つであり、単純な視認では補えない範囲の攻撃を前に時間制限を自ら設けた蒼野とゼオスが苦虫を噛み潰した表情を浮かべ、


「――――もらった」

「しまっ!?」


 一歩


 勝利を掴むために蛮勇と言い換えれる一歩を踏み出し前に進んだ蒼野を刈り取るように刃が伸びる。

 それは空気を斬り裂きながら目標の首目掛けて一直線に進んでいき、


「っ!」

「せ、積!?」

「粒子の量に関してならどんぐりの背比べではあるんだがな………………僅かではあるが俺の方が余力がある。硬化をすりゃ、軽い斬撃くらいならなんとか耐えれるしな……………………お前らは援護に回れ!」


 その行く手を阻んだのは、長く伸ばした鉄板のような長物を掴んだ積であり、その身を黒い氷結晶が切り刻み地面が赤く染まるが、口にした通り負傷の度合いは軽い。皮膚一枚切り裂いた程度の傷で済んでいる。

 その結果に舌打ちしたアラン=マクダラスに対し好戦的な笑みを顔に張り付ける積は、持っていた長物を器用に操り、アラン=マクダラスの持つ神器の上を奪い、勢いよく地面に。


「よぉ大将。随分と無口になったじゃねぇの。どうした? グロッキーか!?」


 最前線で鎬を削っていた蒼野とゼオスの二人から引き離すように天地を駆け、数多の斬撃を受ける代償にそう語り掛ける。

 とはいえその行為に意味があるとは微塵も思っていない。

 顔面を兜で覆い、殺戮兵器の如く自分らを駆逐する彼の意識を、少しでも自分に向けられれば幸運程度の思惑だ。


「………………もはや、語ることはない。そうだろう?」

「………………そうかい。俺としちゃ、もうちっと語り合いたいところだったけどなっ!」


 だからこそ返事が返ってきたことは心底意外な事であり、反射的に発せられる声に装飾の類はない。

 兄が死ぬ前のかつての彼。原口積という青年本来の声が口から零れる。


「………………何を語る?」

「妥協点を探ったりとか、線引きをしたり、とか………………色々だ!」


 意識こそ自身に向いたものの攻撃はなおも激しく、蒼野やゼオスを近づかせないように周囲に展開される斬撃の勢いにも緩みはない。


「積君!」

「今のアンタが突っ込んでも邪魔なだけだ。慌てんなよヘルス・アラモード!」

「ぐぅっ」


 五人の子供たち全員を守るために動いたヘルスは、今や身に纏う雷さえ枯渇させ、康太と共に千載一遇の好機を狙い二人の周囲を回っており、蒼野とゼオスは救援に駆け付けた優により回復中。


「――――――それができないのが、俺達だ」


 こうして一対一の状況に陥り、鍔迫り合いの最中にアラン=マクダラスが語ったのは、戦星『ウルアーデ』という世界の本質にして真理。


 異なる意見が存在した時、競う形。それが己が身を頼りにした力であるというこの星の大前提であり、積もその点について否定する気は一切ない。


 今は亡き神の座イグドラシル。彼が賢教と内密に交わした約束が、今の形を作った大きな証拠であると知っているゆえに。


「それを覆すのが、俺達の作る新時代だ!」


 ただ、知っているゆえに語れる理想が彼にはあった。

 現状の四大勢力が一致団結している状態。これを維持し、よりよい未来を目指すと積は語る。

 意図的にもたらされた戦の理ならば、意図的に修正することも可能であるはずだと言いきる。


「理想論だな」

「理想の一つ語れず、神の座なんか目指せるかってんだ!」


 振り抜かれた刃を体をのけぞらせて躱し、黒い氷結晶の痛みは歯を食いしばり、アラン=マクダラスの胴体を蹴る。

 それにより黒鎧が一歩後退するのに合わせるようにのけ反っていた態勢を戻し、その際の勢いを乗せ、手の甲に装着している籠手をぶつけるよう裏拳で反撃。アラン=マクダラスもすかさず刃を振り抜くが積が勝り、今度はアラン=マクダラスの身が後ろへのけ反る。


「おらぁ!」


 間髪入れず打ち込まれた蹴りはその身を後方へと吹き飛ばし、その瞬間を好機と見た蒼野とゼオスが目標を挟みこむよう疾走。


「――――お前のそれはただの願望だ。なんの具体性もない」


 しかし、なおもアラン=マクダラスは彼らの前に立ち塞がる。

 たった数歩分ほど後退したところで態勢を立て直し、斬撃を迫る二人へ。


「「ッッ」」


 二人は体を捩じり直撃こそ避けたが、周囲にランダムで展開された黒い氷結晶までは躱しきれず、硬化していないその身に幾多の傷が刻まれる。


「らしくないな。古賀蒼野はともかくお前はもう少し用心深い性格だと思っていたんだがな」


 それにより限界を迎えた二人が口から血を吐きながら膝をつき、もはや語る言葉はないと断じていたアラン=マクダラスが、悠然とした足取りで距離を詰めながら言葉を零す。

 理由はまさしく口にした通りで、


「いいんだよ。それで――――あいつに託せたんだから」

「!」


 直後、彼は疲労により鈍っていた自身の頭を呪う。己が失態を知る。

 彼らの無茶な突進。そこに秘められていた目的が時間稼ぎだと知り、


「任せとけ。これで――――決める!」


 その奥に、自らの命を机の上に叩き出した積の姿があった。

 

 

ここまでご閲覧いただきありがとうございます。

作者の宮田幸司です。


さて一気に進めていきましょう!

前半戦ラストのVSアラン=マクダラス!

どちらも余力など無いことを示すように全力全開。

隙も抜け道もない万全の策ではない。力押しによる相手方の圧殺です!

延々と語り合いながら鎬を削るのも楽しそうなのですが、此度の戦いはおそらく次回で最後!


命を使う、そう断じた積の覚悟をぜひご覧ください!


それではまた次回、ぜひご覧ください!


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