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『神殺しの獣』殺し 四頁目


 康太が撃ちこんだ一発の銃弾。その軌跡が描いた結末。

黒炎に包まれた怪物の身を貫いたという結果を、戦場に立つ誰もがはっきりと目にする。


「――――――――!?!?!?!?!?」

「う、おぉ!?」

「み、耳がぁ~~」

「まだこんなことをできる余力をっ!」


 直後に起こったのは、自身の身を持ち上げた獣が発する天地揺るがす大咆哮で、木々や草木が大きく揺れた直後、全員が体の芯を揺さぶられた感覚に襲われ、体を銅像のように固まらせ目をつぶる。


 逆転される!


 この状態に陥った誰もが、そのような危機感を胸に秘めたのだが、二秒三秒と時を経ても何も起きず、


「――――――」


 音の波動が止み、重い何かが何かにぶつかるような音を耳にしたタイミングで、彼らは示し合わせたように目を開き、そこで目にした。


 体の至る所から噴水のような勢いで黒い霧をあげ、舌をだらしなく垂らしながら小刻みに揺れる怪物。

 その巨体は側にある家屋にもたれかかっており、徐々にだが縮んでいっている。


「よく合わせられたな」

「あんだけ念話でガミガミ言われりゃそりゃな。とりあえずお疲れさん」


 周囲一帯を包んでいた熱を伴った重苦しい空気が徐々にだが飛散していくのを肌で感じ取ると、優の力を借り、砕けた右腕の再生を即座に終えた康太が蒼野の側に移動。

 二人の口からは軽口が零れ、隣で見守るヘルスは深い息を吐いた直後に笑みを零す。

 康太の背後に立つ優は仕事を終えたことを示すように桃色の空を見上げ、


「色々とあったが不穏分子の一掃は終わりだ。これならルイさんもエルドラさんも文句はないだろ」


 全てを締めくくるように積がそう呟き、全員が頷いた。


「「!!」」


 直後である。全員が勢いよく首を回す。怪物が横たわっていた家屋へと向けてだ。


 理由は実に単純。その時彼らはみな感じ取ったのだ。


 先ほどまで感じていた熱く、威圧感を孕んだ強力な圧。『神殺しの獣』……否、ウェルダから起因する空気が消えたのと引き換えに、別の空気が場に渦巻き始めたことを。


 その空気は徐々に縮んでいく獣から発せられているのだが、康太がその身に刻んだ黒い靄の噴出口。

 すなわち拳一つがすっぽりと入る大きさの銃痕が徐々に縮み塞がっていくのに比例して膨れ上がり、数秒ほど経たところでそれは起きた。


 元々の大きさと比較すれば遥かに小さい、人間よりやや大きい2,3メートル程度のサイズの獣。

 やせ細った野犬を連想させる骨と皮だけに等しい存在が、覚束ない足取りではあるものの四本の足でしっかりと地面を踏みなおす。

 すぐさま警戒度を跳ね上げた蒼野達であるが、目前の相手が動く様子はなく、不審感に染まった時間だけが二秒三秒と続き――――やって来る。


「ブハァ!?」

「お」

「お前は!!?」

 

 野犬と化した力の塊の首の真下辺りを突き破り、人語に似た音を発せられるだけの何かが、獣の首回りを突き破り飛び出る。

 灰色の、枯れ木を連想させる骨と皮だけで構成された上半身。落ち窪んだ眼の奥に控える野心の光。

 生きてきた年月をそのまま顔に刻んだ彼は、姿形こそ完璧に一致しているわけではないが、何者であるかは誰もが断言できた。


「バークバク・G・ゼノン!?」

「ウァ…………………………」


 積が叫んだ通り、その姿はまさしく貴族衆二十六当主のうちの一人であり、そんな彼の変わり果てた姿に彼は驚きの混じった声を上げ、その予想が正しいものであると示すように呻き声が上がると、獣の姿がさらなる変化を遂げる。


 四足歩行の獣を模した下半身は昆虫であることを示すように六足となり地面に触れる先端部分は鋭利なものに。尾はムカデをそのまま装着したかのような醜悪で悪辣なものとなり、下半身全てがメタリックな光沢を放つように。


「ユ、ユルサン! このワシヲ! このワシヲ軽ンジルなど、ダンジテユルサナイィィィィィィ!!」


 最後に枯れた上半身と同様の灰色に変化すると、正気を完璧に失っている昏い虚のような眼から一際怪しい黒い光が発せられ、これまでの物とは全く違う咆哮。怨念に染まった声と共に動き出す。


「う、おぉ!?」

「こ、こいつ! 狂ってるクセにオレ達に襲い掛かんじゃねぇよ!」


 纏う空気の粗さ、乱雑な攻撃の数々。狂気に満ちた声。

 そのどれもが彼の正気を疑う要素に違いないのだが、奇妙な事にバークバク・G・ゼノンは積や康太をしっかりと把握しているようで、上半身を前後左右に揺らしながら飛び込んでくる姿には、確かな芯、何らかの目的意識が宿っていた。


(ここまで弱ってなおっ!)


 そうなればやはり厄介になるのは、目の前の存在がガーディア=ウェルダの力を吸収しているという事実であろう。

 大本と比べれば幾分か劣っていた獣形態。そこからさらに大量の力が抜かれた今の状態は、おそらく全開時の二割にも満たない出力のはずだ。

 しかしだとしても、やはり目の前の存在は極大の怪物なのだ。


 元々は戦場に出ることもない、一騎当千の称号さえもらえるかどうか怪しい枯れた老人。

 その程度の地力しか備えていない存在が、今は崩すことが極めて困難な壁として立ち塞がっている。


「オォォォォォォォォ! オノレオノレオノレオノレェ!!」

「たくっ執念深すぎるんだよこの爺さんは! おまけに力の噴出もなくなってるし!」

「時間切れは狙えないってことよね。けどあの様子だと、あと一発叩き込めば倒れるはず!」

「前からうっとおしかったんだ。その枯れた胴体に、デカい風穴開けてやらぁ」


 両腕がカマキリを連想させる鋭利な刃物に変化し、体の関節部分から耳障りな羽音を響かせる極小の虫を延々と吐き出し始めるバークバク・G・ゼノン。

 その姿を前にヘルスと優。それに康太が啖呵を切り、蒼野とゼオスという同じ顔をした青年二人が一歩前に踏み出し、


「なんだかんだ文句言おうと、ここが正念場なのは変わりはねぇ。気合入れるぞお前ら!」


 兄を真似るよう、鋭い声を発した積が皆をまとめ、


 彼らはみな、示し合わせるまでもなく同じようなタイミングで駆け出した。


 この戦いを終わらせるために。

 


ここまでご閲覧いただきありがとうございます。

作者の宮田幸司です。


まぁ流石に意思のない獣がラスボスなわけもなく、戦いは更なるステージに進みます。

とはいえ限界なのは相手も同じ。ここは景気よく一気に勝ちましょう!


それと、大変申し訳ないのですが、今日含めて一週間ほど忙しく、投稿はできるはずですが文章量が少々少な目になります。ご了承ください。


それではまた次回、ぜひご覧ください!

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