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『神殺しの獣』殺し 二頁目


 瞬きほどのあいだに襲い掛かった全身に響く想い衝撃。それにより捻じれ狂うような感覚が脳を支配し体が動かず、溢れ出した血潮が自身に残された時間が本当に僅かなものであると訴えてくる。

 だが古賀蒼野は焦らない。起死回生の一手を持っている彼は窮地の時こそ正常な感覚が重要であることを既に知っており、だからこそまず初めに己の損傷以上に周りの状況に目を配る。

 つまりは自分と同じように時間を稼ぐため前に出た三人の様子。そして視認できぬ速度で襲い掛かった『神殺しの獣』のその後である。


「――――時間回帰!」


 特に重要なのは後者に関してであったのだが、幸い追い打ちをかけてくる様子は見受けられず、仲間の安否を把握したところで蒼野は最も頼りにしている能力の名を告げると青白い光を帯びた半透明の丸時計を二つ生成。


 自身の体に一つ。積の体に一つ。しっかりと当てていき、それによって青白い光が二人の体を包み込むと即座に失った部位の修復は終わり、既に避難のために動いていたゼオスとヘルス同様に後退。康太の側に近寄り、余人が持ちえない彼の異能に頼るように意識を傾け、


「あのワン公に関して一つ分かったことがある。推測に過ぎないが、おそらく時間制限持ちだ」

「時間制限……………………」

「…………詳しく話せ」


 思ってもみなかった話が始まり目を丸くした。

 危険な状況にいち早く対応するためだけに近寄った彼らは、攻略法を聞けるとは思っていなかったのだ。


「根拠は?」

「今のものすごい速度での移動の際な、体から煙が勢いよく噴出したんだよ」

「それってガーディアさんの記憶で見た急加速を行うやつじゃ…………!」

「そうね。間違いなくそれよ。けどね、それから力を溜めるような素振りが、今まで一切見られないのよ。つまり」

「力は減る一方…………ってことか。ただ断言はしたくないな。なんせ相手は妖怪と呼ばれるに至った千歳越えの老害だ」


 康太と優の推測が正しいとするならこのままただ耐えればいいだけの話である。

 しかし断言してはいけない。気を緩めるのは悪手だと積が語る。

 理由は未だ沈黙を守っている獣が誰を元に形成されたかという点で、


「そうだな。だからまあ、大前提は変わらねぇよ。お前らが隙を作って、俺が撃ち抜く。疑似的とはいえ銀河一つ分のエネルギーを生成して撃ち込むんだ。いくら相手がウェルダの『力』の塊だとしても、出力が落ちてる状態ならただじゃ済まねぇだろうよ」


 幾人かの不安を払しょくするように、自身の持つ破壊という言葉を司るかのような神器の片方を額に当て、康太が何の迷いもなくそう断言。それを目にすれば彼らの対応は決まっていた。


「バークバクさんの意識があるにせよないにせよ、弱体化を狙って戦う。んでトドメとして康太が背後に控えてる、と。言葉にしちまうと元々の案と変わらねぇな」

「あぁ。だが希望ができたのは大きい。嘘にせよほんとにせよ、俺達の都合よく弱体化するってんなら、その流れに乗せてもらおうじゃねぇの」


 口にすればこれまでの予定通りで、優の手によって治療を終え万全な状態となったゼオスとヘルスの二人が立ちあがり、蒼野と積も続く。


「一つ気になるのは能力の類が通じるかだな。俺の『原点回帰』が通るなら一気に楽になる。直撃すれば即死なわけだからな」

「ならそっから試そうぜ。安心してくれ。さっきも言ったが、あいつの目は俺に向けさせる!」

「……………積。俺とお前は」

「援護だな。蒼野までつなげるぞ」


 違いがあるとすれば先の展望が彼らが踏む強固な地面のようにしっかりとしたことであろう。それを示すように動き出す彼らの足取りは洗練され、鋭いものに。


「こっちだ! 来いよデカブツ…………いや! 手加減してくれるならそれに越したことはないけどさ」


 ヘルスが神の雷を砲撃に用いて注意を自身に向け、


「…………蒼野」

「わかってるよ。大変だろうけど頼む」


 蒼野がゼオスに守られながら前に進む。


(やばそうだったら念話で指示を出す。聞き漏らすなよ)


 空いている積は攻撃防御目隠し連絡なんでも行い、


「アタシもちょっとだけ手出ししようかしら。それくらい問題ないわよね?」

「あぁ。なんだったら護衛役だってやめていいんだぞ?」

「そこは請けもっとくわ。接近された狙撃手なんて、無惨な運命しか辿らないでしょ?」

「…………違いねぇな」


 離れた箇所にいる優が『弾』の印を刻んだ紋章を出して援護。康太はたった一度の好機を逃しはしないと銃を構える。


「よし! もう少しで!」

「――――――!」


 その全てが綺麗に嵌り蒼野が順調に距離を詰めていく中、獣が天を仰ぎ声を上げる。

 それは本当にただそれだけ。『咆哮』としか表現できない行為である。

 けれどそこには『神殺し』を名乗る怪物が内部に貯蔵する粒子が含まれており、声がはっきりと届く範囲にいた蒼野達全員の体が瞬く間に黒い炎に包まれる。


「気にすんな。かまわず進め!」


 否、康太が何か口にするよりも一歩早く、彼らは迫る危険に気が付いた。

 その結果を示すように積が駆使する『輪廻巡鉄』が全員の前で壁となり、身代わりであることを示すように勢いよく燃えると、すぐに跡形もなく消え去った。


「っ!?」

「クソッ。そっちに行くんじゃねぇ!」

「積!」


 間髪入れず振り抜かれた右前足。それは最も忙しなく動き回り、今しがた全員を守る壁を作った積を狙っており、積が反応するよりも早く直撃すると彼方へと飛ばしていく。

 慌てて動き出したヘルスが意識を自身に再び向ける中で蒼野が叫び、


「――――――」

「……積に構っている余裕はないぞ。蒼野!」

「!」


 事態が忙しなく動きだす。

 自身に対する注意を外したと野生の勘が告げたのか。はたまた狡猾な老人の策略なのかまではわからない。

 しかし確固たる事実として獣は次なる獲物を仲間の安否に注いだ蒼野へと定め、草原を駆け距離を詰めると鋭利な歯が揃っている咢を開いた。


(……康太と優の予想は当たっていたか)


 幸いにも接近速度は先ほどよりも幾分か緩慢であり、縦となっているゼオスの目は黒炎で作られたかのような獣の姿をはっきりと捉え、蒼野を抱えて跳躍。

 難を逃れた二人へと黒炎からなる尾が振り抜かれるが、その行く手を防ぐようにヘルスの撃ち出した砲撃が直撃して弾く。


「蒼野君!」

「ああ!」


 危機が瞬く間に好機に代わる。

 ヘルスが叫ぶよりも早く既にその事実に気づいていた蒼野は距離を詰め、


「ゼオス!」

「…………跳べ!」


 自身に注がれる敵意に満ちた視線を逸らすよう、ゼオスが触れると彼の能力『瞬間移動』でその場から消失。

 次に現れた場所は獣の足元で、


「原点回帰!」


 積を吹き飛ばした恨みを晴らすように、破滅の赤は右前足に直撃する。そして、


「――――――ガァ!?」

「け、消し飛んだ! 消し飛んだぞ!」


 その効果を見事に発揮し、獣の右足は吹き飛び――――再生した。


「なっ!?」


 恐るべき光景であった。

 今まで切り取るなどの接触面を外さなければ効果が続いていた、破滅の光が内蔵していた死の毒を、目の前の獣は類を見ない再生能力で力任せに捻じ伏せた。


「――――――!!」

「まぁそうなるよな。けどこりゃやばいな!」


 事態は更に進展する。

 自身を殺しきれるだけの矛を持っていると気付いた獣の意識が明確に蒼野に注がれ、ヘルスやゼオスの攻撃を受けても外れないように固定。

 言ってしまうならば蒼野を殺害するまでとならない追尾ミサイルと化し、


「頼むぞ。オレの大切な義兄弟を守ってくれよ」

 

 その裏で、自己再生により再び力が落ちたことを把握しながら、康太が必殺の一撃を叩き込むための牙を磨いた。 


ここまでご閲覧いただきありがとうございます。

作者の宮田幸司です。


VS『神殺しの獣』第二話目なのですが、今回は別サイドの話を。

ヘルスが不思議世界への鍵を手に入れ蒼野達の元を訪れた際の事ですが、あの場には正体不明の第三者がいました。

彼らの顛末はと言いますと、ヘルスが鍵を持ってきた際にものすごく気まずい空気と、邪魔をされたことに対するいら立ちを孕んだ空気を放ちズコズコと帰りました。


彼らに関してはまた今後


それではまた次回、ぜひご覧ください!

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