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終末地点α


 意識を失う前にアラン=マクダラスが告げた言葉を脳内で繰り返し、積の胸が熱くなる。

 自覚はあった。

 兄が成し得なかった夢を目指し、強くなっただけではなく意識もガラリと変わった自覚が彼には確かにあった。

 そうなれば己の力量がどの程度のものか正確に把握することにも努め、『超越者』の位相に辿り着いたのではないかと考えたことも何度かあった。


 とはいえそれを他者に真正面から伝えられたとなれば、それはやはり喜ばしい事であり、積は思わず武者震いをしてしまう。


「……いや、喜んでる暇はねぇな。次は妖怪退治だ」


 とはいえ余韻に浸るつもりはない。

 すぐに意識を切り替えると次なる目標へと駆けていく。


 そうだ。積が長期戦によるアラン=マクダラスの粒子切れを狙わなかった理由は、ただ不意を突くためだけではない。

 自身の前に立ち塞がった男が足止めを担っている事を理解し、いち早く撃破しなければならなかった面が大きく、満身創痍であることを自覚してはいたが、彼らの野望を阻止するために動き続けることは止めず、結果積はついにたどり着くのだ。


「…………まぁ、ウェルダさんの力を求めてるなら辿り着くのはここに決まってるわな」


 アラン=マクダラスが率いた軍勢が定めた終点。

 すなわち数週間前にあった戦い終結の地。

 あらゆるものが考えられないほどの硬度を秘めた桃色の空と緑生い茂るこの世界で、唯一残されている戦火の跡。


 戦いの決め手となった一撃により生み出された巨大なクレーターのど真ん中に、一人の老人が佇んでいた。


「…………やめろ。その力はアンタなんかが使いこなせるものじゃない」


 老人の掌に握られているのは虹色の光の奥に黒い靄を秘めた拳程度の大きさの球体。これまでの情報を統合するならば、信じられない事であるがそれはこの場でガーディア=ウェルダが失った自らの『力』であり、妖怪と称されるほどの年季を備えた老人でさえ、比較対象として横に置けば霞んで見える。


「カカッ。お主程度の若造がよく言うわい。お主は黙ってこれからの展開を見ておけばいいのじゃ!」

「どうしてそこまで大きな力を求める? そこにどんな意味があるってんだよ」


 怒気をそのまま飛ばす老人を前に積は尋ねる。

 その口調には憐れみと労わりの念が含まれ、


「…………………………全ては、儂を捨て去ったあ奴らへの復讐よ」


 頭を冷やしたのか落ち着いた口調で老人がそう語った直後、両者の意志が力となり交錯する。

 積の駆使する『輪廻巡鉄』とバークバク・G・ゼノンが繰る数多の虫がぶつかり合い、両者の間で飛散する。


「カカッ! どうやら余力は残されていないようじゃのう!」

「く、そぉ…………!」


 事を優位に運び戦場を支配しているのはバークバク・G・ゼノンだ。

 本来ならば圧倒とまではいかずとも勝利できるはずであった積であるが、瀕死の重傷を負った今となっては話が変わってくる。

 自動操縦で動く『輪廻巡鉄』の量は最初と比べ大幅に少なくなっており、様々な事態に対処するために働くはずの頭は鈍く重く、視界は朧気だ。


「その眼でよう見ておれ。このワシが、この世界に君臨する新たな神となる瞬間を!」


 悪戯に時間が過ぎていき、余裕の笑みを浮かべた妖怪が本願を遂げるために球体を己が肉体に接触。

 この世界に生まれ、一時は最強の名を冠した男の置き土産。

 それは抵抗することなく老人の体内へと沈んでいき、


「お、おぉ。おぉぉぉぉぉぉ。こ、これは! これはこれはこれはこれはぁ!!」


 変化は瞬きをする間もなく。

 枯れ木を連想させるしなびた肉体が二度三度と痙攣を繰り返すと勢いよく隆起し、すぐさま肌にハリが。落ち窪み気味であった瞳には力が宿り、折れ曲がった姿勢が正されていく。


「素晴らしい。素晴らしいぞ! ただ力を求めるだけであったが、まさか萎びた我が身を、全盛期まで戻すことさえ可能とは…………………………」


 積の前に姿を現すバークバク・G・ゼノンの全盛期の姿。

 その姿に息を呑むのは積以上にそう成った本人で、


「…………………………あごばぁ!?」


 晴れ晴れとした笑みは、けれど瞬く間に消え去る。自身の体の至る所が隆起し、強烈な痛みと吐き気を覚えたゆえに。


「お、おごぼぉあぁ………………………………!?」


 異様極まりない変化は続く。

 口は裂け、真っ赤に染まった瞳の奥に控える瞳孔は縦に切れ、肉体は肉塊と呼ぶべきものに変換されると真っ黒な焔を纏う。


「ガーディア・ガルフでさえ避けられなかった結末なんだ。まぁ当然だわな」


 その姿を積は知っている。

 千年前の一部を切り取った映像で既に確認している。

 

「神殺しの獣、だっけか。たくっ、冗談きついぜホントによ」


 自身の身を遥かに超える、真っ黒な焔に包まれた巨大な犬に似た獣。

 かつてシュバルツ達四人さえ止めきれなかった怪物が、積の前にその姿を顕現する。


「――――――――」


 全身が危険信号を発しているのを原口積は感じ取る。

 この場にいたところで待ち受ける運命は死しかなく、今すぐにでも逃げたいという気持ちが溢れ出す。


「クソッ。見せつけられるな」


 その時、ふと「自身の兄ならばどうするか」などと考え、苦笑する。

 間違いなく睨みつけ、どれほど勝算がなくとも立ち向かうだろうと考えたからだ。


 しかし積がどれだけ必死になろうとそのような気概は湧かず、嫌な汗と体内から飛び出るのではないかというほどの強烈な動悸だけが把握できる己が全てであり、


「…………ッ」


 自身を踏みつぶそうと持ち上げられた右前足。

 その姿さえはっきりと認識できない様子の彼は呆然として見上げ、


「積!」

「!?」


 そんな状態を砕く声が耳に届く。

 続けて戦場を席巻したのは青い雷が轟く轟音と目前に迫った脅威を弾く事により生じた衝撃で、


「もう五分経ったか? それとも経ってないのか?」

「いちいち聞く必要はねぇぞ蒼野。わからん時は、優に任せておけばいい」

「アタシの専門分野だからね。だからアンタたちは」

「……目の前の化け物の対処だな」


 続けて彼は目にするのだ。

 いの一番に駆け出し、意識を逸らすよう最前線で動き回るヘルス・アラモードの姿を。


 そして自分を守るように立つ四人の仲間の姿を。


 




 

ここまでご閲覧いただきありがとうございます。

作者の宮田幸司です。


四章前半戦。嘘偽りのないクライマックスバトルに突入です!

果たして五人の少年少女はこの危機を乗り越えられるのか?

乞うご期待です!


それではまた次回、ぜひご覧ください!

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